第7話 最初に止めたのは、王都そのものだった
「――王都中央区画、
魔導インフラを一時停止する」
その宣言は、あまりにも静かだった。
会議室に集まっていた全員が、言葉の意味を理解するまで、数秒かかった。
「……今、何と?」
最初に声を上げたのは、貴族代表だった。
「停止、だ。
結界制御、魔導炉補助、水路制御。
中央区画に限り、全部止める」
「正気か!?
それを止めたら――」
「壊れる、と思ってます?」
俺は、淡々と聞き返した。
「……当然だろう!」
「それは“溜め続けた場合”だ」
結界構造図を指でなぞる。
「今の王都は、
常に最大出力で呼吸してる状態だ」
「止めたら、窒息する」
「違う」
俺は、指を止めた。
「休ませる」
室内が、完全に静まった。
「責任は誰が取る!」
「俺だ」
即答だった。
「停止中に何か起きたら、
全部、俺の判断ミスだ」
課長が、かすれた声で言う。
「……本当に、戻ってこないつもりだったんだな」
「だから、余計な責任はいらない」
そう言って、俺は制御卓に向かった。
「エリス」
「はい」
「現場技師に伝えてくれ。
“何もしない”準備をしろって」
「……何もしない、ですか?」
「余計な補強も、応急処置も禁止だ」
彼女は一瞬戸惑ったが、すぐに頷いた。
「分かりました」
停止操作は、段階的に行われた。
第一段階。
補助魔導炉、出力低下。
第二段階。
結界外周部、負荷解放。
第三段階――
「……数値、下がってます」
監視官の声が、震える。
「結界応力、減少。
逆流……止まってます」
誰も、喜ばない。
ただ、信じられないものを見る目で、数値を見つめている。
「……嘘だろ」
貴族の一人が、呟いた。
「止めたのに、
安定していく……?」
「止めたからだ」
俺は、答えた。
「王都は、“働きすぎ”だった」
外では、異変が起きていた。
「……静かだ」
街の人々が、空を見上げる。
いつも感じていた、重たい圧がない。
結界が“主張”していない。
「息が、しやすい……?」
誰かが、そう言った。
それが、全てだった。
「……結界、安定域に入ります」
「中央魔導炉、負荷正常化」
次々に、報告が上がる。
課長は、ゆっくりと椅子に座り込んだ。
「……我々は」
震える声で、言った。
「ずっと、間違った“安心”を作っていたのか」
「そうだ」
俺は、否定しない。
「壊れないように、
壊れ続けていた」
誰も、反論できなかった。
その夜。
王都中央区画は、
**初めて“何も起きない夜”**を迎えた。
警告音も、非常灯もない。
ただ、静かだった。
「……成功、ですよね?」
エリスが、確認するように聞く。
「まだだ」
「え?」
「これは、延命だ」
俺は、結界の外を見つめた。
「生き残っただけ。
本当の修理は、これからだ」
王都は、救われたわけじゃない。
ただ――
壊れるのを、やめただけだ。




