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追放された魔導保全官、俺がいなくなった場所から次々壊れていくんだが  作者: 空条ライド


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第4話 「戻ってこい」と言われても

 王都からの通信は、夜明け前に届いた。


 役所の魔導通信板が、低く唸る。

 緊急回線。優先度は、最上位。


「……来たな」


 俺がそう呟くと、エリスは苦い顔をした。


「中央、ですよね」


「他にない」


 通信を開くと、映し出されたのは見覚えのある顔だった。

 中央魔導局・第三管理課課長――

 俺を“成果が見えない無能”と切り捨てた男。


『カイ・ルード』


 名前を呼ばれただけで、場の空気が重くなる。


『王都で、魔導結界の連鎖不具合が発生している』


「知ってます」


 即答すると、向こうが一瞬言葉に詰まった。


『……現地の技師では対応できない』


「でしょうね」


『状況を把握しているなら話が早い。

 君に、一時的に戻ってもらいたい』


 エリスが、思わずこちらを見る。


 俺は、少し考える素振りをしてから言った。


「条件は?」


『……条件?』


「“お願い”する立場なら、条件は必要でしょう」


 通信の向こうで、空気が凍るのが分かった。


『これは命令だ』


「左遷された身です。

 命令権は、もうありません」


 しばらく沈黙。


 その間にも、王都では何かが壊れているのだろう。

 焦りが、声に滲み始めた。


『……現場が、崩れている』


『結界、魔導炉、水路、すべてが連動して不安定だ』


「壊れてから直そうとしてます?」


『……』


 答えない、という答え。


「それじゃ、止まりませんよ」


『だから、君が必要だ!』


 珍しく、感情が露わになった。


『戻ってくれ。

 このままでは、被害が拡大する』


 俺は、視線を窓の外に向けた。

 朝の光の中、ヴァルナの街は静かだった。


 壊れる気配は、どこにもない。


「……一つ、聞かせてください」


『何だ』


「俺が戻れば、

 ここは誰が守るんです?」


『辺境だろう。

 今は安定している』


「“今は”ですね」


 俺は、はっきりと言った。


「俺は、戻りません」


『なっ――』


「少なくとも、条件なしでは」


 通信板の向こうで、誰かが息を呑む音がした。


『条件とは何だ』


「現場裁量、全面委任」


『……』


「成果の横取り禁止」


『……』


「終わったら、ここへ戻る」


 長い沈黙。


 エリスは、何も言わずに立っていた。

 ただ、逃げ道を塞ぐように、俺の横に。


『……君は、何様のつもりだ』


「壊れる前に止める人間です」


 それだけ言った。


 再び沈黙。

 やがて、課長は低く息を吐いた。


『……返答は、少し待て』


「ええ」


 通信が切れる。


 部屋に、静寂が戻った。


「……断っちゃいましたね」


 エリスが、ぽつりと言った。


「断ってない。

 選択肢を出しただけだ」


「来ますよ。絶対」


「来るだろうな」


 俺は、机の上の点検予定表を見た。


「だから今日は、こっちを優先する」


「北側水路、ですよね」


「三日後に崩れる」


 エリスは、小さく笑った。


「王都より、こっちの方が急ぎですね」


「そういうことだ」


 その時、再び通信板が光った。


 今度は、短い一文だけ。


『――条件を、飲む』


 俺は、少しだけ目を閉じた。


(……やっぱりな)


「行きますか?」


「一時的にな」


 俺は立ち上がり、工具を手に取った。


「終わったら、帰る」


 エリスは、力強く頷いた。


「はい。

 帰る場所は、ここですから」


 王都は、これからが本番だ。

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