第31話 それでも世界は続いていく
境界管理領域に、特別な終わりはなかった。
鐘は鳴らず、
祝賀もなく、
誰かが英雄として称えられることもない。
ただ、朝が来た。
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「……異常、沈静化しています」
観測士の声は落ち着いている。
「揺れは残っていますが、周期安定」
「新たな集中は、確認されません」
世界は、相変わらず不完全だ。
だが――暴れてはいない。
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各地の観測点から、報告が届く。
「幻視、自然消失」
「時間誤差、日常範囲に収束」
「残滓流出、散発のみ」
どれも、“対応可能”の範囲だ。
完璧じゃない。
だが、致命的でもない。
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「……本当に、終わったんでしょうか」
エリスが、ぽつりと言う。
「終わらない」
俺は、即答した。
「これからも、揺れる」
「また歪む」
「じゃあ……」
「そのたびに、直す」
「溜めないように、流す」
それだけだ。
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ユイは、境界の端に立っていた。
以前のような緊張はない。
ただ、静かに見ている。
「……境界、呼吸してます」
「そう見えるか」
「はい」
「吸って、吐いて」
「止まっていません」
それは、監視官としてじゃない。
一人の人間としての感想だった。
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評議会から、最終通達が届いた。
「境界管理体制、正式移行」
「集中管理、完全廃止」
「各国・各地域による分散運用を採用」
遅いが、確かな変化だ。
「……書類、山ほど来ますね」
エリスが苦笑する。
「世界を続けるには、事務仕事がいる」
それもまた、現実だ。
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出立の日。
境界管理領域には、多くの人が残った。
観測者。
調整役。
連絡員。
誰も、特別じゃない。
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「……行くんですね」
ユイが言う。
「ああ」
「呼ばれなくなるのが、仕事の成功だ」
「……私、まだここにいます」
「それでいい」
彼女は、少し迷ってから言った。
「……ありがとうございました」
「礼はいらない」
「手放したのは、世界だ」
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馬車が動き出す。
境界は、背後で揺れている。
だが、もう怖くない。
世界は、
溜め込むのをやめ、
揺れながら進むことを選んだ。
それは、強さじゃない。
**続くための形**だ。
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報告書の最後に、俺はこう書いた。
> 境界異常:管理下
> 世界状態:不安定だが健全
> 備考:
> 完璧ではないことが、最大の安全策
それでいい。
それでも――
世界は、続いていく。
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