第29話 境界を見張る人が増える
境界管理領域は、少しずつ騒がしくなっていた。
以前の静寂とは違う。
混乱でもない。
――人の気配だ。
「観測点、予定通り配置完了しました」
若い魔導士が報告に来る。
緊張はしているが、怯えてはいない。
「初動反応、問題ありません」
「数値のブレはありますが、許容範囲です」
それでいい。
完璧を求める場所じゃない。
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各地に設けられた簡易観測点には、様々な人間が集まっていた。
正規の魔導士。
祈祷師。
感応体質者。
今まで「役に立たない」と判断されてきた者たち。
「……本当に、私でいいんですか」
一人の中年女性が、不安そうに聞いてくる。
「いい」
俺は即答した。
「感じ取れるなら、それで十分だ」
「数値化できなくても?」
「数値は、後で誰かがやる」
「感じることは、代わりがいない」
彼女は、少しだけ背筋を伸ばした。
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ユイは、観測点を一つ一つ回っていた。
以前より、顔色がいい。
歩みも、軽い。
「……境界、静かですね」
「全部を背負ってないからな」
俺の言葉に、彼女は小さく頷く。
「感じる量が、分散されています」
「……楽です」
それは、彼女にとって革命だった。
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だが、問題が起きないわけじゃない。
「報告」
通信石が、短く鳴る。
「第四観測点、幻視発生」
「対象、幼少期の記憶を投影」
「対処は?」
「観測者が、落ち着いて対応」
「深呼吸誘導、成功」
俺は、少しだけ口角を上げた。
「上出来だ」
英雄はいない。
だが、現場は回っている。
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「……これって」
エリスが、遠くの観測点を見ながら言う。
「世界を、みんなで見張ってる感じですね」
「ああ」
俺は頷いた。
「一人に任せると、壊れる」
「だから、分ける」
それだけの話だ。
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夕方、境界が一度だけ大きく揺れた。
だが、警報は鳴らない。
「……受け止められています」
ユイが、境界計を見て言う。
「一箇所じゃない」
「複数の観測点が、同時に反応しています」
揺れは、分散され、消えた。
溜まらない。
だから、破裂しない。
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評議会から、追加通達が来た。
「境界観測網、正式承認」
「各国は、人員と資源を分担提供」
遅いが、悪くない。
「……世界が、ようやく学びましたね」
エリスが、少し嬉しそうに言う。
「一回で学べたら、苦労しない」
俺は、肩をすくめた。
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夜。
境界の前に立つ。
もう、重くない。
怖くもない。
揺れている。
だが、それが普通だ。
「……私、ここを離れてもいいですか」
ユイが、ぽつりと言った。
「え?」
「監視官じゃなくても、役割はありますよね」
「ああ」
俺は、即答する。
「好きにやれ」
彼女は、しばらく黙ってから、小さく笑った。
「……初めて、選びます」
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境界は、今日も揺れている。
だが、もう叫んでいない。
見張る人が、増えたからだ。
それは、
世界が一人で耐えるのをやめた証だった。
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