第24話 評議会は、決断を先送りする
境界評議会の会場は、円形だった。
中央に何も置かれない空間。
誰の席も高くなく、誰の席も低くない。
平等を装うには、都合のいい形だ。
「……状況は理解した」
最初に口を開いたのは、北方連合の代表だった。
「境界に歪みが集中している」
「連鎖異常も確認済みだ」
周囲が、頷く。
全員、知っている。
だが――ここからが問題だ。
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「修復案は?」
別の代表が問う。
ユイが、淡々と答えた。
「ありません」
「境界は、修復できる段階を越えています」
空気が、わずかにざわつく。
「では、抑制を強化するしかないな」
「現行の監視体制を拡張しよう」
「人員と魔力を追加投入すれば――」
俺は、口を挟んだ。
「無理です」
視線が、一斉に集まる。
「抑制を強めるほど、歪みは濃くなる」
「ここは、もう“溜める場所”になってる」
「では、どうしろと言う!」
声が、少し荒くなる。
「開放です」
俺は、はっきり言った。
「境界を弱める」
「安全制限を外す」
沈黙。
そして――反発。
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「正気か!?」
「世界が不安定になる!」
「災害が起きるぞ!」
それぞれの代表が、声を張り上げる。
全員、同じことを言っている。
**“自国が困る”**という意味だ。
「不安定になります」
俺は、否定しない。
「でも、破裂はしない」
「今は?」
「今は、破裂寸前だ」
誰も、反論できない。
だが――決断もしない。
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「……検討が必要だ」
議長役の老人が、重々しく言った。
「世界規模の問題だ」
「即断は、あまりに危険」
その言葉に、何人も安堵した。
先送り。
それが、ここでの“正解”だ。
「境界は、待ってくれません」
ユイが、静かに言う。
「私の抑制にも、限界があります」
「それでもだ」
議長は、目を伏せた。
「我々は、世界を守る責任がある」
――違う。
守っているのは、
**責任を取らない立場**だ。
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会議は、結論を出さずに終わった。
「追加調査」
「小規模実験」
「次回会合」
便利な言葉だけが、議事録に残る。
会場を出るとき、エリスが小さく言った。
「……誰も、止める気がない」
「止める気はある」
俺は、訂正した。
「止めたいのは、“変化”だ」
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境界の前に戻ると、空気がさらに重くなっていた。
見えない圧が、肌を押す。
「……数値、危険域に近い」
ユイが、淡々と報告する。
だが、声は少しだけ、弱い。
「無理、してるな」
「職務です」
いつもの答え。
だが、今回は続きがあった。
「……でも」
「このままだと、長くありません」
エリスが、息を呑む。
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「評議会は、決めない」
俺は、境界を見る。
「なら――」
「決めるのは、現場だ」
ユイが、こちらを見る。
「それは……規約違反です」
「世界が壊れるよりは、マシだ」
俺は、境界に手を置いた。
震えが、伝わる。
世界が、限界を訴えている。
「……開ける準備をする」
ユイの目が、わずかに揺れた。
「私が、支えます」
「いや」
俺は、即座に否定した。
「支えるな」
「一緒に、手放す」
彼女は、初めて言葉を失った。
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境界が、低く鳴る。
警告は、もう隠さない。
評議会は、決めなかった。
だから――
**誰かが決めるしかない。**
それが、俺たちの仕事だ。
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