第22話 英雄国家が選んだ物語
英雄国家グロリアスは、すぐには変わらなかった。
像は残り、
歌も消えず、
物語も語られ続けた。
だが――
語り方が、変わった。
「……昔はな」
酒場の隅で、年配の男が言う。
「英雄様が全部やった、って話だった」
「今は?」
若い兵が、杯を傾ける。
「誰が、どこで、何を間違えて、
どう立て直したか、だ」
英雄の名前は、
物語の最後にしか出てこない。
それで、いい。
王城では、新しい制度が動き始めていた。
単独英雄制の廃止
複数指揮官による合議制
前線判断の裁量拡大
書類は増え、
会議も増え、
面倒ごとは山ほど増えた。
だが――
止まらなくなった。
「……慣れませんね」
英雄管理官だった男が、苦笑いする。
「楽だったんでしょう?」
俺が言うと、彼は頷いた。
「英雄様に任せれば、
責任を考えなくてよかった」
「今は?」
「……眠れない」
だが、
その顔は少し晴れていた。
城外の訓練場。
レオンは、兵たちと同じ列に並んでいた。
特別席はない。
号令も、彼のためには止まらない。
「……いいですか?」
エリスが、隣で小さく聞く。
「本当に、
これでよかったんですか」
レオンは、剣を拭きながら答えた。
「よかった、とは言えない」
「でも――」
一度、言葉を切る。
「これで、
俺が倒れても、
国は続く」
それが、
彼の望んだ答えだった。
出立の日。
城門は、相変わらず開いている。
だが、
“待っている空気”は消えていた。
「……もう、
呼ばれないかもしれませんね」
エリスが言う。
「それが、
一番いい」
俺は、そう答えた。
壊れる前に止める仕事は、
呼ばれないことが成功だ。
レオンが、最後に声をかけてきた。
「……カイ」
“様”は、付かない。
「ありがとう、じゃ足りないな」
「足りなくていい」
「……また、
迷ったら?」
「迷え」
俺は、即答した。
「迷えるなら、
もう大丈夫だ」
レオンは、
ゆっくりと笑った。
馬車が、動き出す。
英雄の国は、
もう英雄だけの国じゃない。
それが、
最大の成果だった。
宿で、最後の報告を書く。
英雄国家グロリアス
単独英雄制、終了
国家機能、分散化移行
備考:
英雄は減ったが、
国は止まらない
俺は、紙を閉じた。
次に壊れそうな場所は――
まだ、いくつもある。
だが。
世界は少しずつ、
溜めないやり方を覚え始めている。
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