第20話 英雄を外した代償
不吉な報せは、夜明け前に届いた。
「北方警戒線、突破されました!」
伝令の声が、城内に響く。
「魔物群、想定より多い!
第二防衛線、後退中!」
一瞬、空気が凍りついた。
――来た。
誰もが、心のどこかで待っていた瞬間だ。
「……英雄様を!」
誰かが、反射的に叫ぶ。
その言葉に、
何人もの視線がレオンに集まった。
彼は、一歩も動かない。
「指示を出せ」
俺は、冷静に言った。
「英雄じゃなく、
指揮官としてだ」
レオンは、深く息を吸った。
「……全軍、展開」
声は、震えていない。
「第一防衛線、
予定通り遅滞戦」
「第二線は、
住民避難を最優先」
「魔導士班、
独立判断で対応」
それは、
完璧ではない。
だが――
現実的な判断だった。
城下町が、動き出す。
「子どもから先だ!」
「南門を使え!」
「補給は、
俺たちが回す!」
混乱はある。
叫び声もある。
だが、
誰も“英雄待ち”をしていない。
「……前なら」
エリスが、唇を噛む。
「前なら、
英雄が出て終わってましたよね」
「ああ」
俺は、はっきり答えた。
「だから今回は、
終わらない」
だが――
続く。
北方。
魔物の群れは、
確かに強大だった。
「数が……!」
「押されてる!」
現場の指揮官が、歯を食いしばる。
「英雄様がいれば……」
その言葉を、
誰も口にしなかった。
代わりに。
「持ちこたえろ!」
「時間を稼げ!」
「俺たちでやる!」
声が、重なった。
レオンは、前線に立っていた。
剣を握る手は、確かだ。
だが――
突っ込まない。
「……行かないんですか」
エリスが、低く聞く。
「行けば、勝てる」
レオンは、正直に言った。
「でも――
今、俺が出ると」
彼は、歯を食いしばる。
「また、全部が俺に戻る」
その判断は、
英雄としては“逃げ”だ。
だが。
指揮官としては、正しい。
「……崩れます!」
伝令が叫ぶ。
「第三小隊、後退!」
一瞬、空気が張り詰める。
ここで、
英雄が出れば終わる。
誰もが、それを知っている。
レオンは、
一歩、前に出た。
そして――
止まった。
「……交代だ」
低い声。
「第三小隊、
第四と入れ替われ」
「後退路、確保!」
命令が、飛ぶ。
英雄は、
剣を振らない。
戦いは、長引いた。
被害も出た。
負傷者も出た。
だが――
壊滅はしなかった。
「……抑えました」
夜明けとともに、
報告が届く。
「魔物群、散開。
侵攻停止!」
城内に、
深い息が広がった。
誰も、歓声を上げなかった。
勝利は、
派手じゃない。
だが。
「……生きてる」
誰かの呟きが、
すべてだった。
戦後。
レオンは、
剣を地面に突き立てて座り込んだ。
「……怖かった」
ぽつりと、言う。
「俺が出なければ、
負けるかもしれないって」
俺は、隣に立つ。
「それでいい」
「え?」
「怖い判断を、
避けなかった」
「それが、
英雄じゃなく――
指揮官です」
レオンは、
しばらく黙ってから、笑った。
「……難しいな」
「でしょう」
城下町には、
犠牲者の名が掲げられた。
英雄の名ではない。
一人一人の名前だ。
それを見て、
人々は目を伏せ、
そして、前を向いた。
英雄を外した代償は、
確かに重い。
だが――
この国は、初めて“自分で勝った”。
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