表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された魔導保全官、俺がいなくなった場所から次々壊れていくんだが  作者: 空条ライド


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/28

第18話 「英雄様」と呼ぶな

 訓練場の空気が、前日よりも重かった。


 理由は単純だ。

 噂が回った。


「英雄様が、指揮を放棄した」

「現場に判断を任せた」

「……あの男が、余計なことを吹き込んだ」


 最後の一文は、だいたい俺のことだ。


「今日は、もう一つやることがある」


 レオンが、兵たちの前に立つ。


 昨日と同じ場所。

 だが、今日は剣を持っている。


 ――それだけで、空気が引き締まった。


「安心しなくていい」


 彼は、そう言った。


「今日は、戦いの話じゃない」


 ざわり、と小さな動揺。


「俺から、一つ頼みがある」


 レオンは、ゆっくりと息を吸った。


「今日から――

 俺を“英雄様”と呼ぶな」


 沈黙。


 風の音だけが、訓練場を抜けた。


「……は?」


 誰かの口から、素直な声が漏れた。


「え、英雄様……?」


「い、いえ……レオン、様?」


 混乱が広がる。


「呼び捨てでいい」


 レオンは、はっきり言った。


「役職でも、称号でもない。

 ただの一兵士として扱ってくれ」


 それは、

 剣を捨てる宣言より重かった。


「馬鹿なことを言うな!」


 怒鳴り声が響く。


 英雄管理官だった。


「英雄とは、

 国民の希望だ!」


「その名を外すなど、

 国を不安に陥れる気か!」


 レオンは、何も言わなかった。


 代わりに――

 俺が前に出た。


「質問があります」


「あなたは、

 “英雄様”が倒れた後の国を、

 想像したことがありますか」


「……それは」


「ないでしょう」


 俺は、淡々と言う。


「称号がある限り、

 人は期待を投げ続ける」


「期待は、

 責任になり、

 責任は、人を壊します」


「英雄は、

 称号を着て戦っているわけじゃない」


 俺は、レオンを一瞥した。


「彼が戦っているのは、

 その期待です」


「それを、

 今日、外す」


 管理官の顔が、歪む。


「……お前は、

 英雄を殺す気か」


「いいえ」


 即答した。


「英雄を、生かします」


 その時だった。


「……呼んでみよう」


 レオンが、ぽつりと言った。


「俺の名前を」


 兵の一人が、喉を鳴らす。


「……レ、レオン」


 一歩、踏み出す。


 何も起きない。


 空は落ちず、

 地は割れず、

 国も滅びない。


「……レオン!」


 次の声は、少しだけ強かった。


「次、左翼を頼む!」


 それは、

 命令ではなく、相談だった。


 レオンは、頷く。


「了解」


 短い返事。


 それだけで、十分だった。


 訓練が始まる。


 昨日よりも、動きが速い。


「第二小隊、前に出す!」


「補給線、守れ!」


 レオンは、剣を振る。


 だが、全体を背負わない。


 一つの駒として、戦っている。


「……あれ」


 エリスが、呟く。


「強さ、

 変わってませんよね」


「ああ」


 俺は頷いた。


「変わったのは、

 “重さ”だ」


 訓練後。


 管理官は、力なく座り込んでいた。


「……国民が、

 不安になる」


「なるでしょう」


 俺は、否定しない。


「でも、

 不安は分担できます」


「希望だけを、

 一人に背負わせるよりは」


 管理官は、何も言わなかった。


 その夜。


 城下町では、早くも噂が流れていた。


「英雄様って、呼ばなくなったらしい」


「……大丈夫なのか?」


「でも、

 今日の警戒線、

 静かだったぞ」


 不安と、

 小さな安心が、混ざり合う。


 それでいい。


 城壁の上。


「……怖かった」


 レオンが、正直に言った。


「でも」


 夜風を受けながら、続ける。


「初めて、

 肩が軽い」


「それが、人です」


 俺は、そう言った。


「英雄じゃなくても、

 戦える」


 遠くで、魔物の咆哮が聞こえる。


 だが今回は――

 誰も、英雄の名を叫ばなかった。


 代わりに、

 自分の役割を叫んだ。

ここまでご覧いただきありがとうございます。


明日からは1日1話の投稿予定です。


ブックマークをして、続きを楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ