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追放された魔導保全官、俺がいなくなった場所から次々壊れていくんだが  作者: 空条ライド


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第17話 英雄を減らす、最初の一手

 翌朝、王城の訓練場は異様な空気に包まれていた。


 英雄レオンが来る――

 その噂だけで、兵は集まる。


 視線は揃い、背筋は伸び、

 誰もが“正解の動き”をしようとしている。


「……これだ」


 俺は、小さく呟いた。


「何がです?」


 エリスが、訓練場全体を見回す。


「英雄がいるだけで、

 現場が止まる」


 判断も、工夫も、

 すべて“待ち”になる。


 やがて、レオンが姿を現した。


 鎧を着けていない。

 剣も持っていない。


 それだけで、ざわめきが走る。


「……英雄様?」


 誰かが、戸惑った声を出す。


 レオンは、一歩前に出た。


「今日は、

 俺は指示を出さない」


 その言葉に、

 訓練場が凍りついた。


「各部隊、

 現場判断で動いてくれ」


 ざわ……と、

 困惑が広がる。


「英雄様が……

 指揮しない?」


「何かあったのか……?」


 不安は、伝染する。


「大丈夫です」


 俺が、前に出た。


「今日は、

 英雄が“いない前提”の訓練です」


 一瞬、静寂。


 そして――


「ふざけるな!」


 管理官の一人が、声を荒げた。


「英雄を外すなど、

 国の安全を軽視している!」


「軽視しているのは、

 現場です」


 俺は、淡々と言った。


「英雄がいるから、

 考えなくなっている」


「英雄が出れば勝てる、

 という前提で」


「それが、

 英雄を殺します」


 言葉が、

 訓練場に落ちる。


 レオンは、

 何も言わなかった。


 ただ、

 兵たちを見ている。


 その目に、

 初めて“期待しない光”が宿っていた。


「……始めよう」


 訓練が、始まった。


 最初は、ひどかった。


「敵想定、左翼から接近!」


「英雄様――!」


「……いません!」


 混乱。

 指示待ち。

 動けない部隊。


 だが、少しずつ――


「第二小隊、回り込め!」


「補給線、切るぞ!」


「俺たちで止める!」


 声が、上がり始めた。


 英雄の名を呼ばずに。


「……すごい」


 エリスが、息を呑む。


「兵が、

 自分で動いてる」


「動けたんだ」


 俺は、そう答えた。


「ただ、

 やらせてもらえなかっただけだ」


 訓練が終わった後。


 兵たちは、

 汗だくで、息を切らしていた。


 だが――

 顔は、晴れている。


「……やれた」


「英雄様がいなくても……」


 小さな声が、

 確信に変わっていく。


 管理官は、

 青い顔で俺に詰め寄った。


「これは……

 危険な兆候だ」


「いいえ」


 俺は、静かに言う。


「正常化です」


「英雄を減らすとは、

 英雄を捨てることじゃない」


「英雄を、

 人に戻すことです」


 その夜。


 レオンは、

 一人で城壁に立っていた。


「……怖いな」


 ぽつりと、言う。


「でも……

 少し、楽だ」


 俺は、隣に立つ。


「それでいい」


「英雄は、

 楽をしていい」


 彼は、しばらく黙ってから、

 小さく笑った。


「……明日は?」


「次は、

 称号を止めます」


「……称号?」


「ええ」


 俺は、夜空を見上げた。


「“英雄様”と呼ぶのを、

 やめさせます」


 レオンは、目を丸くした。


「それは……

 戦より怖いな」


「でしょう」


 英雄国家は、

 戦う準備より先に――


 物語を、壊し始めた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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