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追放された魔導保全官、俺がいなくなった場所から次々壊れていくんだが  作者: 空条ライド


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第14話 奇跡を、手放す夜

 夜の聖都は、祈りで満ちていた。


 いつもと同じ光景。

 いつもと同じ時間。


 だが、その夜だけは――

 誰もが、理由もなく胸騒ぎを覚えていた。


「……始めます」


 聖結界の制御核の前で、リリアが言った。


 白い法衣。

 震えない背筋。


 だが、手だけがわずかに冷たい。


「今から行うのは、

 “結界の解放”です」


 神官たちの顔が、強張る。


「完全解除ではありません」


「縮小です」


「奇跡は、弱まります」


 その言葉が、

 この国にとって最大の恐怖だった。


「……本当に、よろしいのですね」


 大司教が、最後に問う。


「一度弱めれば、

 元には戻らないかもしれない」


 リリアは、少しだけ考えた。


 そして、首を横に振った。


「戻らなくていいです」


「私たちは、

 戻りすぎました」


 彼女は、制御核に手を置く。


 その瞬間――


 結界が、悲鳴を上げた。


 音はない。

 だが、空気が裂ける感覚。


 祈りが、逆流する。


「……っ!」


 リリアの膝が、崩れかける。


「リリア!」


 エリスが駆け寄るが、

 俺は首を振った。


「支えるな」


「え……?」


「これは、

 彼女自身が立つ瞬間だ」


 結界の光が、ゆっくりと薄れていく。


 街の外周から、

 奇跡が剥がれ落ちていく。


「……寒い」


 誰かが、街で呟いた。


 それは、

 生まれて初めて感じる“普通の夜”だった。


「結界出力、低下!」


「保護領域、縮小!」


 報告が、震える声で続く。


「……災害予測、発生」


「……疫病リスク、僅かに上昇」


 神官たちの顔が、青ざめる。


「これが……現実」


 誰かが、呟いた。


「……止めますか」


 制御官が、震える声で聞いた。


 リリアは、顔を上げた。


 涙は、ない。


 ただ――

 呼吸が、深い。


「いいえ」


 彼女は、はっきり言った。


「止めません」


「これは、

 私たちが生きるための夜です」


 その言葉と同時に、

 結界が“落ち着いた”。


 完全な消失ではない。

 だが、過剰だった圧は消えた。


 街に、静寂が戻る。


 祈りのざわめきがない。

 奇跡の余熱もない。


 ただ、人の息遣いだけがある。


「……聞こえますか」


 リリアが、小さく言った。


「何が?」


「人の声です」


 初めて聞く音のように、

 彼女は微笑んだ。


 夜明け。


 太陽は、いつもと変わらず昇った。


 奇跡が減っても、

 世界は終わらなかった。


「……生きてますね」


 エリスが言う。


「ああ」


 俺は頷いた。


「奇跡がなくても、

 人は生きる」


 それを、この国は

 初めて知った。


 リリアは、聖女の衣を脱いだ。


 完全ではない。

 象徴は、まだ残る。


 だが――


「私は、

 “祈る人”に戻ります」


 その言葉は、

 どんな奇跡より強かった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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