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追放された魔導保全官、俺がいなくなった場所から次々壊れていくんだが  作者: 空条ライド


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第12話 聖女は、休むことを許されない

 聖女リリアの私室は、驚くほど簡素だった。


 白い壁。

 白い机。

 白い寝台。


 飾り気はなく、私物らしい私物もない。

 まるで――誰かが使う前提の部屋だ。


「……こちらへ」


 リリアは、静かに椅子を勧めた。


 神官たちは、外で待機している。

 理由は簡単だ。


「聖女様の体調確認は、

 結界点検の一環ですから」


 そう言い切られて、反論できなかった。


 扉が閉まる。


 その瞬間、リリアの肩が、わずかに落ちた。


「……すみません」


 最初に出た言葉が、それだった。


「何がです?」


「こんなことを、聞いてしまって」


 彼女は、微笑もうとした。

 だが、途中でやめた。


「……最近、眠れないんです」


 エリスが、息を呑む。


「夜になると、

 誰かに引っ張られるような感覚があって」


「結界、ですね」


 俺が言うと、リリアは小さく頷いた。


「祈りが……

 全部、流れ込んでくるんです」


 彼女は、自分の胸元を押さえた。


「喜びも、感謝も、

 願いも、不安も……」


「怒りは?」


 一瞬、沈黙。


「……怒りは、ありません」


 その答えが、答えだった。


「本当は?」


 リリアは、唇を噛んだ。


「……分かりません」


「分からなくなるほど、

 押し込めている」


 俺は、はっきり言った。


「あなたが、この国の“逃げ場”です」


 彼女の目が、大きく見開かれる。


「逃げ場……?」


「人が吐き出せない感情を、

 全部、あなたが受け取ってる」


「だから、国は平和だ」


「その代わり――」


 俺は、言葉を切った。


「あなたが、壊れる」


「そんな……」


 リリアは、震える声で言った。


「私は、選ばれた存在です」


「聖女として生まれ、

 そう育てられました」


「それが、役目です」


「役目だと思い込まされている」


 エリスが、珍しく強い口調で言った。


「それ、仕事じゃないです」


「……え?」


「休みもなく、

 交代もなく、

 壊れるまで続けるなんて」


 彼女は、リリアの目をまっすぐ見た。


「それ、

 “使い潰し”です」


 リリアの表情が、凍りついた。


「……そんな言い方」


「でも、事実です」


 エリスは、引かなかった。


 この国では、

 誰も言わなかった言葉だから。


「……止める方法は、あるんですか」


 しばらくして、リリアが聞いた。


 声は、震えていたが、逃げてはいなかった。


「あります」


 俺は、即答した。


「結界を、弱める」


 彼女の瞳に、恐怖が走る。


「それは……

 奇跡が、減るということ」


「ええ」


「国は……」


「普通になる」


 その言葉は、

 この国にとって、最も恐ろしい響きだった。


「災害も、起きる」


「病も、出る」


「不満も、争いも、戻る」


 リリアは、目を閉じた。


「……私は」


 しばらくして、言った。


「国を守るために、

 生きてきました」


「守るとは、

 壊れ続けることですか」


 その問いに、

 彼女は答えられなかった。


 扉の外から、足音が聞こえる。


「……時間ですね」


 リリアは、立ち上がった。


 いつもの微笑みを、貼り付ける。


 だが――


「今日は、少しだけ、

 楽でした」


 小さく、そう言った。


「それは?」


「“全部を祈らなくていい”と、

 初めて言われたから」


 俺は、頷いた。


「決断は、急がなくていい」


「でも、

 壊れる前に、選んでください」


 リリアは、ゆっくりと頷いた。


 その背中は、

 少しだけ軽くなっていた。


 廊下に出ると、神官たちが待っていた。


「いかがでしたか」


「結界は、強すぎる」


 俺は、淡々と答える。


「調整が必要です」


「……それは、

 神への不敬では?」


「いいえ」


 俺は、立ち止まり、振り返った。


「人を守らない奇跡は、

 もう神じゃない」


 その言葉に、

 誰も返せなかった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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