表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された魔導保全官、俺がいなくなった場所から次々壊れていくんだが  作者: 空条ライド


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/28

第11話 奇跡の国は、静かすぎた

 その国に入った瞬間、違和感ははっきりした。


「……静かですね」


 エリスが、周囲を見回しながら言う。


 街路は整い、人々は穏やかで、建物も美しい。

 喧騒も、争いも、怒鳴り声もない。


 理想的――

 そう言われれば、そうだ。


 だが。


「静かすぎる」


 俺は、歩きながら答えた。


 足音が、やけに響く。

 誰もが微笑み、誰もが譲り合う。

 だが、誰一人として、立ち止まらない。


 まるで、決められた動線をなぞっているようだ。


「聖護国家リュミエールへようこそ」


 声をかけてきたのは、白い法衣の神官だった。


「我が国は、神の結界に守られた平和の地。

 本日は、聖結界の定期点検をお願いしたく」


「定期、ですか」


「はい。異常はありませんが、

 万全を期すために」


 その言い方が、気になった。


 異常はない。

 だが、万全を期す。


 ――王都と、同じ匂いだ。


 聖結界は、街全体を覆っていた。


 王都の結界と違い、圧はない。

 柔らかく、温かい。


 だが――


(……重い)


 触れた瞬間、胸の奥が軋んだ。


「……これは」


「どうですか?」


 神官が、期待するように聞く。


「強いですね」


「でしょう?

 国民の祈りが、日々結界を支えているのです」


 誇らしげな声。


 俺は、ゆっくりと結界から手を離した。


「……この結界、

 祈りを“溜めすぎて”います」


 空気が、一瞬で張り詰めた。


「溜めすぎ、とは?」


「逃げ道がない」


「祈りは、善意です」


 神官は、即座に言い返した。


「善意が、国を守っている」


「ええ」


 俺は、否定しなかった。


「だからこそ、危ない」


 エリスが、俺を見る。


「……どういう意味ですか?」


「善意は、放っておくと歪む」


 俺は、街を見渡した。


 微笑む人々。

 争わない人々。

 怒らない人々。


「ここでは、不満も、怒りも、疑問も――

 祈りに変えられている」


「それの、何が悪いのです?」


 神官の声が、少しだけ強くなる。


「悪くはない」


 だが、と続けた。


「人が壊れる」


 その時、足音が近づいてきた。


「失礼します」


 柔らかな声。

 振り向くと、白と金の衣をまとった少女が立っていた。


 年は、エリスと同じくらい。

 だが、纏う空気が違う。


「聖女リリア様……」


 神官が、深く頭を下げる。


「お越しくださり、ありがとうございます」


 彼女は、俺たちに向かって微笑んだ。


 完璧な微笑み。

 教本通りの、理想の表情。


 ――だが。


(……限界だな)


 結界の重さが、

 彼女一人に集中している。


「あなたが、魔導保全官の……」


「カイです」


「私は、リリア」


 名乗り合う、その一瞬。


 彼女の指先が、わずかに震えた。


「……この国、

 おかしいでしょうか」


 あまりにも小さな声だった。


 だが、確かに聞こえた。


 神官が、気づく前に。


 俺は、即答した。


「ええ。

 壊れる直前です」


 リリアの微笑みが、

 一瞬だけ、揺らいだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ