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この山河は誰に傾くのだろう~  作者: 上村将幸
雁ノ月

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第九話 裏切り

「ほう!」


総督府の地下競技場の中で、甲斐は剣身をわずかに傾け、勢いを利用して潮水が噴き出すように押し寄せる激しい斬撃を受け流した。体を横にして剣を挙げ、胸元に斬り下ろされる鋭い剣技を防いだ。彼は口元からうめき声を漏らし、すぐに両目を真顔にして、目の前にいる灰色がかった半身のマントを来た少年を見つめた。


「数日しか経たないのに、殿下の剣術がますます洗練されて飄々としてきたなんて、本当に進歩が早いですね!」


言葉が落ちるや否や、甲斐は剣の首を小指で引っ掛け、足の先で床を蹴り上げる瞬間に体を回転させて剣を振り、剣先がぶつかる間に顔面に突き刺さろうとした剣鋒を押し返した。肩にかかった髪をかき揚げ、眉から落ちてくる髪飾りを指先で軽くつまみ、左手で垂れ下がる長髪を整え、優雅に体を後ろに反らし、髪飾りを髪に戻した。立ち上がるときに踵で倒れた剣の首を蹴り、体をわずかに傾けて床に立っている木剣を手に取り、ぼうっとしているズノーににっこりと笑った。


「でもただ…」


「ただ何?」


ズノーは腰をかがめて荒い息を吐き、袖で頬に落ちた汗を拭った。顔立は窓の格子から差し込む光の中で、薄い赤みを帯びた。甲斐は木剣を逆さに持って彼のそばに来て、二人は背中を合わせて床に座った。まるであの日、同じ姿勢で刺客団の包囲を突破し、互いの背中を守り、策略の網を破ったように。甲斐は息を吐き、まぶたを撫でる指腹でまつ毛に潜む霧のような光を払い除けた。


「君は剣技の力を制御するのがまだ少し足りないな。もっと時間をかけて鍛えないと。」


「甲斐、あなたが厳しすぎるでしょう…」


ズノーは顔を上げて窓の格子から差し込む光束を見つめ、まるで何万もの精霊が待っているようで、天井の冷たさを払い除けた。剣柄に彫られた模様を指先で滑らせ、頬を膨らませて小さな声でつぶやいた。


「さっきは進歩したって褒めてくれたのに、今は批判的な目で見て、嬉しかった気持ちを台無しにした。」


話を終えると、まるで競技場全体が氷の淵に飲み込まれたように、踊る光と影が止まり、霜を散らす薄い布で覆われた。長い沈黙が、ついに額から床に落ちる汗に打たれて破られた。甲斐は歯を食いしばり、唇の端がわずかに震え、時間が経つにつれて冷たく鋭くなるようなため息をついた。


「殿下…」


「うん、どうしたの?」


ズノーは声を聞いて顔を向け、足を曲げて膝に腕を回し、顎を重ねた指の上に軽く当て、眉をわずかに上げて、瞳に浮かんだ少しの探究心と驚きを隠した。


「殿下…殿下は僕に厳しすぎるって文句ですか?」


甲斐ら体を動かしてゆっくりと向き直った。彼の目は少し恍惚として、霧がかかったような目でズノーを見つめた。競技場の中で流れる光と影が灰色の幕を下ろし、斜めに彼の霜のように冷たい唇元に当たり、寒露に濡れた玉の蚕のように、不気味な幽光の中で少し恐ろしいほど脆いように見えた。


「いや…そういう意味じゃない。甲斐、どうしたの?顔色がこんなに青白くなって…」


倒れそうになった体を受け止めた瞬間、胸元に当たった頬から焼けつくような熱が伝わってきた。甲斐の体内で、噴火する火山が空を覆う濃霧を燃やし、万物を蝕むような潮熱がマントの薄さを突き破り、ズノーの広がる肌に染み込んでいった――凝縮された熱流が銀糸のように這い、体内に秘められた躍動する心臓をそっと絡め取った。赤く燃える頬を見つめ、ズノーの青白い顔に、儚く立ち昇る靄のように、ほとんど無関心に広がっていく。


彼は競技場の光汐に浸かった階段口を見上げ、厳しい声で叫んだ。


「侍衛!」


「殿下…僕、大丈夫…」


ズノーの胸に寄り添う甲斐は左手を上げようとしたが、すぐに押し寄せる無力感に飲み込まれた。ズノーはそのまま、糸が切れたように震える手を握り、掌の中で踊る焦燥感を感じながら声を低くした。


「大丈夫なわけない…初めて見る、こんなに弱ってる姿。」


「本当に大丈夫…殿下…」


余韻が静寂の場内に響き渡るや否や、甲斐の瞳の奥にあった深い光が急に収縮し、そのまま気を失った。


「甲斐…」


ズノーは慌てて胸の中の男を見つめ、階段を見上げた。すると、獅子の縞模様が入った鎧を来た騎士が急いで階段を下り、ズノーの血霧に染まった視界に入ってきた。


その騎士は魂を失ったように、ズノーの真っ赤な目を呆然と見つめていた。橙黄色の炎が中で揺れているように見えた。驚きのあまり、すぐに膝をつき、斑模様の淡い蛍光を帯びた冷汗が顔を伝い、床に落ちる瞬間、舞い上がる光のカーテンの中で砕けた金の輝きを放った。


「…殿…殿下、何かお申し付けですか?」


地下競技場の中は死一般の静けさだった。息遣いの荒さと心臓の鼓動以外に、どんな音もしなかった。まるで一世紀が終わりを告るかのように、かつて世界を彩った鮮やかな色が、徐々に本来の色を失い、驚きに包まれた白に染まっていった。


「どうしたのズノー?君と甲斐が訓練中に何かあったの?廊下から慌ただしい声が聞こえたわ。」


ズノーが口を開く前に、階段から優しく響く声が漂ってきた。月下で光を浴びた風鈴のように、清らかな天籟のような音が響いた。ズノーは振り返り、階段を下りてくる女性を見た。彼女は淡いピンク色の天鵝絨のドレスを着て、二人の侍女に付き添われてズノーの視界に入ってきた。床に跪く騎士をちらりと見て、心の中ひ湧き上がった疑問が広がる前に、次の瞬間、彼女の清らかな瞳が急に縮まった。甲斐がズノーの胸の中で倒れた姿が、女性の瞳に映った。


「甲斐が怪我をしたの?」


言葉が落ちるや否や、彼女は美しい目を伏せ、床に跪く騎士を横目で見た。桜色の唇を軽く開けた。


「あなたは退下なさい。」


まるで死刑判決を受け地牢に投獄された囚人が、長い絶望の中で苦しんで過ごしていたかのようだった。しかし、ある日突然、罪を赦免する布告が下された。


騎士は長い息を吐いて、跪き姿を返して女性に向き直った。


「はい。」


「外に出たら、すぐに太医を別苑に呼び、待機させなさい。」


騎士がちょうど立ち上がって一歩階段に足を踏み入れたところ、女性の温かい声が追いかけてきた。それは放たれた矢のように、騎士の徐々に広がっていく背中に突き刺さった。彼は硬直した体で横を向き、体を低くして拳をにぎり、鉛の雲を注いだような目つきで、足元に落ちた暗い光の輪郭をした床にじっと注視した。


「皇子妃殿下の御詔を謹んで守ります。」


騎士は大赦を得たかのように地下競技場を逃げ出したあと、サンタンヘラ皇子妃の耳元に残る声が、空中を舞う蛇の鞭のように追いかけてきて、背中を重く鞭打った。それが彼を一瞬の休息も惜しませ、総督府南側にある太医院に向かって足取りを軽く走らせた。


サンタンヘラは軽やかで美しい姿でズノーのそばに着て、腰を弯げて手を甲斐の額に当てた。灼熱の波が瞬間に電流を巻き込んで、ヘラの柔らかい指に駆け上がった。彼女のデリケートな頬に一抹の緋紅が掠れ、微かに開いた朱唇の前に、まるで万千の星々が点綴されているかのようだった。


「甲斐の体が急にこんなに熱いの?風邪を引いたの?」


「分からない。」


ズノーは顎を下げ、唇を軽く噛みながら、瞳に溢れた血の色が徐々に消えていった。頭をわずかに揺らし、胸の痛みが喉に詰まった息を絞め殺しそうになるほどだった。さらに、強い窒息感が交じった濁った光の中で、息をするたびに激しく圧迫されるのを感じるほどだった。


「皇嫂…お願い、彼を救って。母妃以外は、初めて真剣に私を気遣ってくれ、友達になってくれた人…このまま彼を失うわけにはいかない。」


ズノーは頭がぼんやりとして顔を上げ、ヘラのまるで瑕のない麗しい顔を見つめる。その顔が眼前でますます曖昧で重くなって、深夜に徐々に消えていく塵の光のように、広大で深い銀河の中で凡庸になっていった。神経の弁がこの瞬間制御を失い、顔に浮かんだ青筋が子蛇が逆行するようになった。


「甲斐は…私の人生で重要な…友達…」


鏡の中の世界にいるかのように、曇った霜の影が敷かれた天井を見上げ、はっきりしない声で最後の言葉を言い終わると、耳にはもう何の音も聞えなくなった。目の前に残る最後の光景は、完全に目を閉じる前に皇嫂の顔に浮かんだ焦りの表情と、そばに寄って遠くの侍女を呼ぶ優雅な姿だけだった。彼女がしゃがみ込んで耳元で何を言ったのか、それ以降ズノーは知らなかった。


ジャガン平原の戦場では、エドワード大皇子率いるライオンハート城駐屯軍と聖ゼアン帝国南部辺軍の交戦が、すでに終わりに近づいていた。


両軍の戦いは気づかぬうちに七日目に突入し、硝煙が立ち込める戦場で、残った旗が風にそよぎながらはためいていた。


エドワードは身軽に「鹿鳴号」に跨がったが、馬鞍に座り落ち着くなる前に、戦馬が連続した征戦で落ち着かず、口から低い鳴き声を上げた。彼は手綱をしっかり握り、肩甲に嵌めめられた獅子の頭の巨口が突然歪んだ――一本の牙が音を立てて折れ、落ちるときに清らかな音がした。まるで戦神の怒号が断ち切られたようだ。エドワードは背筋が凍るような感じがし、手網を「金紋獅子頭旗」の揺れる影に合わせて更に握りしめた。


「ヤシャスィーン!」


彼はウルフトが心を込めて作った「蒼獅剣」を抜き放った。銀獅の口から露出した牙が、逆刺の付いた片刃の剣をしっかりと挟み込んだ。冷たい目に少し哀愁が混じり、彼は真剣な目で、広大な虞美人の畑に並ぶ整然とした敵軍の陣形を見据えた。


陣形の中央にいる中年の男は、肩に巨大な剣を担ぎ、大柄な体が真っ黒の立派な戦馬に跨っていた。彼は聖ゼアン帝国の「十八翼将」の一人で、「虓虎上将」と呼ばれる将軍――ガリレオ皇帝に破格で「郡王」の爵位を授けられた唯一の偉大な男、カイザー・ベリアン・オーグドだった。


もともと北疆の防衛を任されていたカイザーは、ライオンハート城の辺境を守る大将が、ティロス王国の前任皇太子――「狻猊金獅」の美称を持つエドワード・サウル・ティロスだと聞いて、麻痺していた心が高揚する戦意に燃やされた。毅然としてガリレオに戦区移動の建白を提出したのだ。


奏折を持って帝都に行き、皇帝に審査を受けるよう命じられた羽翎衛は、跳ねる馬蹄が半開きの城門に入る前に、カイザーはすでに勝手に北境の元帥の金印を副帥に渡し、空に浮かぶ夜明けを背に、一人で南部戦線に向かった。到着した日は、皇帝の手諭が届く前に、強引に南部戦区の指揮権を握りしめた。


エドワードは剣を振って飛んできた長槍を斬り断ち、迅速かつ果敢に聖ゼアン帝国の三名の騎兵を馬から斬り落とした。灼熱な金色の輝きを放つ剣勢がまだ空に響いているうちに、彼はすでに騎兵分隊を率いて、敵軍の殺意に満ちた陣形に突撃をかけていた。


「全員、命令を聞け!我々の目標は敵軍の大将だ!」


横に剣を構え、正面から振り下ろされた斧の刃を受け止めた。エドワードは左手で軽く「鹿鳴号」の尻尾を叩いた――次の瞬間、その前蹄が軽く踏み込み、舞い上がる土煙が、エドワードの血に染まった金獅子の鎧のように、輝く光を放った。蹄の音が太鼓のように轟き、「鹿鳴号」は斧を持つ騎士の頭上を跳ねび越えた。


剣の残像が交じり合う中、「蒼獅剣」の冷たい刃先がその喉を悠然と撫でた。エドワードは剣先をわずかに下げ、後ろの無頭屍体を斜めに見下ろした。背後で鈍い轟音が炸裂すると、彼は剣を挙げ、前に立つ口角に笑顔を浮かべ、玄金の鎧が不気味な黒芒を放つ男を指差した。


「我は汝らの脅威を断つ剣であると同時に、安全を守る盾でもある。我がティロス王国の勇敢な兵士たち…」


馬を引き返し、広大な騎兵隊が、ガロとミュースという二人の万騎長に率いられ、聖ゼアン帝国南部軍の左右両翼の陣形を徐々に引き裂いていく様子を見据えた。倒れる屍体が、空に舞う真っ赤な虞美人に、妖しい艶を添えていた。


「汝らの命を俺に委ねよ。この剣に誓う、必ず等しい重さの勝利を捧げよう。」


「俺に続いて最後の突撃を!この戦いの最大の戦果――敵将カイザーの首級を手に入れよ!」


エドワードの勇猛な姿は、燃えるような虞美人の畑のようだった。この力強い宣言が、暖かい風に乗って空に広がると、兵士たちの手に握られた武器が、瞳の奥から湧き上がる熱い光に包まれた。


遠方に見える百余りの鉄騎が、エドワード皇子に率いられ、疾風のような勢いで敵を次々と打ち破る雄姿を見て、彼らの高揚する闘志は、敵軍の陣形の中で轟く太鼓の音を一気に押し殺した。


エドワードは身を仰げて飛んできた矢を避け、剣勢が怒涛のように広がり、次々と押し寄せる敵を掃いた。目の前に迫るカイザーを見て、彼の弛んだ顔に明るい笑顔が浮かんだ。


「死ぬがいい。」


「そうか?若旦那。」


疾く刺し込む剣の幻影を見て、カイザーは巨剣を軽く上げ、押し寄せる風を切り裂いた。金属の軋み音が、二人の剣がぶつかる瞬間に轟き渡った。


「気をつけろ、後ろだ!若の坊ちゃん。自分の勇猛果敢なまぼろしに溺れず、潜んでいる本当の敵を見落とし、戦場の険しさに対する正しい認識を曇らせないでください。特に…」


わずかに傾いた剣先が、巨剣の厚く鈍重な剣脊と激しく衝突した。エドワードは金獅子の刺繍が施された赤い袍を引き裂き、カイザーに投げつけた。足先で馬鐙を空を蹴り、勢いを乗せて馬の背に一躍して立った。翻る赤い袍がカイザーの視界を遮った瞬間――エドワードは跳ねび上がり、両手で「蒼獅剣」を握り、赤い袍の外に露出した太い首筋に力を込めて斬り下ろした。


「この剣で、長引く戦いに幕を下ろそう。」


勝利の女神が自分に味方すると信じていたエドワードのところへ、風の中で揺れる暗い流れを突き破った矢が「バン」と鳴り、冷たい矢先が彼の肩に真っ直ぐ突き刺さった。歯を食いしばり、体内を暴れる電流のような激痛を我慢しながら、横目で遠く馬の背に並ぶ二人を見た。ガロが矢筒から矢を取り出し、弓弦にかけるとき、老成した顔に勝者のような高慢な表情が浮かんだ。傍らのミュースもその時に馬から長弓を下ろし、口角に戯れるような笑みを浮かべた。


「さようなら、我が皇子殿下。」


驚きは秋に枯れた黄色い色のように、エドワードの震える目の底に揺らめく波紋を広げた。周りに残ったわずかな騎兵が、次々と身を挺して肉の壁を作り、押し寄せる鋼鉄の洪水を遮断するのを見て――彼は右肩に刺さった矢を折り、汚い黒い血が戦靴のそばで散った血玉のように染み広がった。この時には、肩の心を抉るような激痛すら些細に感じられた。


剣を杖にして苦しいたちあがり、背筋を伸ばして百里先のガロとミュースを見つめた。彼らは果断に、混乱する仲間を長槍で刺し殺していた。エドワードは頭を振り、頭の中に浮かぶ残酷な考えを払い除けようとした。今でも、一秒前に起きたことが本当だと信じられなかったが、風の中に残る哀嚎が、無形のうちに真実を証明していた。


「ガロ…ミュース…なぜ、なぜ君たちは俺を裏切った?」


「彼らは当然、名利と地位のために君を裏切った。他に何の理由がある?」


カイザーは両手で結晶石が嵌め込まれた剣柄を握り、風を巻き起こして三名のティロスの百騎長を真っ二つに斬った。頭を下げ、エドワードの目の底にまだ頑固に輝く光を見て、巨剣の剣鋒が、地面に横たわる死んだティロス騎兵の体に突き刺さり、傲慢な笑い声を上げた。


「ずっと言っていただろう?後ろを気をつけろ、世間知らずの若者。年配の方の忠告を聞くことを学べ。」


「君には教える資格がない!」


地面に落ちた声が力強い砂塵を巻き上げ、そよ風が急に変わって、雲の中に渦を巻いた。エドワードはライオンハート城がある方向を振り返り、まるでヘラが穏やかな笑顔を浮かべているように見えた。頭を下げ、次々と倒れる兵士を見て、足を止めて笑い、半蹲した姿勢で、地面に黄砂をかぶった「蒼獅剣」を拾い上げた。


「俺の愚かな弟よ。ライオンハート城と、君の皇嫂の腹の子は…全部君に任せる。俺のような優しさを知らない男の代わりに、彼女を大切に世話して…」


怪我をした左足を引きずり、剣を構えて馬鞍から降りたカイザーに向かって歩いていく。しかし、目の前の目標が大きくなるにつれ、頭が急に重くなった。目を落とすと――ガロとミュースが放った矢が、気づかずに胸に刺さっていた。喉まで上がってきたうっ血した濁った血がエドワードの口から噴き出し、真っ赤な血が舞う地面に、死を恐れない心と最後の闘志を染み出した。


「ヘラ…」


余韻が消えず、虞美人の柔らかい色が彼の全身を覆った。まるで楚覇王の当時の悲壮さを、今この悲劇的な戦場で再び描き直すように。

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僕は完璧な物語を書きたかったのですが、世の中に「完璧」という言葉があるでしょうか。執筆者がいかに浮藻絢爛の世界を描いても、創造主の神の万分の一にも及びません。それで、ほっとしました。普通に書くこと、理想に合った小説を書くことです。自分が描きたい壮大なシーンを、多くの人の目に映し出すことができるのです。「いやあ、実はけっこういいんですね」と言ってもらいたい。それで満足でした。
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