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この山河は誰に傾くのだろう~  作者: 上村将幸
雁ノ月

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第五話 我らが来た!ライオンハート城

砂塵が舞う辺境では、乾いだ大地に、人間性の本質を映す嶙峋な亀裂が走り、まるで毎一本の裂け目が戦争の残酷さと貪欲を語りかけているかのようだ。


ここは、豊かな海岸から遙か離れたティロス王国の辺境要塞――先日までは聖ゼアン帝国の領土だった場所だ。しかし、ロルス七世が帝国の覇権を揺るがそうとする陰謀の限界を越え、島国のレッテルを剥く野望を抱いたことで、一方的に同盟を破棄った瞬間、その野望は急激に膨らんだ。


そこで、ロルスの長男エドワード皇子は油断をついて、二名の万騎長が率いる大軍団を指揮し、帝国の王国領事団がマリアーナ王妃を連れて撤退した翌日、半日もかからずに、敗報が帝都に届く前にライオンハート城を攻略した。


誰かが言う、これをロルスが義理の兄ガリレオへの復讐だと言う――彼はずっと、豊かなティロス王国を帝国の領土拡張と軍備拡大の「金庫」と見なしていたからだ。


誰かも推測する、エドワードの行動はロルスの指示を得ておらず、継母マリアーナの愛情からくる独断的なものだと推測する。


いずれにせよ、ライオンハート城の陥落で、この地は正式にティロス王国の覇権版図に組み込まれた。様々な憶測はすべて、鉄と火の中で舞う砂塵に消えた。


そして同時に、この王国は世界を分割する七大帝国の一つ――聖ゼアン帝国と、氷と火、鉄血と裏切りが絡み合う正面衝突を始めることを予告していた。


我々の皇子も、盟友と共にこの戦火飛び交うどうらんの地で、自らが変身へと向かう伝奇的な人生を目撃することになる!


「殿下、見てください…もうすぐ着きます!前にライオンハート城が!」


甲斐は「追影号」と呼ばれる黒馬に乗り、雲鉄で鍛えた雲紋の長槍を振り回して万丈の煙塵を切り裂いた。槍の柄先についた黒い絲の房が、矢のように飛んでくる断枝を打ち落とし、冷たい光を帯びた槍先が、二つの山腹の間にそびえる要塞をまっすぐ指していた。


この甲斐と呼ばれる青年こそ、数日前に刺客団からズノーを救った人物――ティロス王国の大将軍レイモンの息子、甲斐・アーサー王・ペンドラゴンだ。


彼の母親は東洋の日出する国の王族で、故郷の伝説である甲斐姫を偲び、その功績を称えるために生まれた。甲斐姫は百余人の女子鉄騎を率いて出島に集結し、地元民を組織して賊を追い払い、さらに絹の国から来た数千人規模の海賊集団を掃討した英雄だった。


その後、女王からの使命を目指し、海上貿易路の開拓と異国との友好関係構築のため、使節団を率いて万里の海を渡った。当時紛争の地でまだ半島を統一していなかったティロス王国に着き、ちょうど大将軍に任命されたレイモンと知り合った。


その後の王族や教会との交渉の中で、彼女は若き日のレイモンが戦場で見せる果敢な姿を目撃した――遠くから一目見ただけだったが、レイモンが率先して十数名の騎士を率い、敵の厳重な陣形を突破し、傾きかけた劣勢を瞬時に逆転させる姿は、ゆっくりと咲く強靭な薔薇のようだった。


その勇猛な雰囲気に心を奪われ、最終的に彼に情を移したのだ。


二人がティロス王国が東海岸半島を統一する日を選び、新設された王都クロオスクで盛大な結婚式を挙げた。


この日、先王アーサー王が特に式場に臨み、国籍の限界を越えた二人の仲睦まじい夫婦に祝福を贈った。教会の大法官に式典の宣言を司させ、聖光で浄化された婚指輪を授け、本来完璧な縁に更に円満な印を加えた。


同時に、日出する国と永遠に両半球を越えた友好隣邦となることを宣言し、後世に厳守するよう詔諭を発した。


これが甲斐が生まれる前の物語であり、彼の名前に古い色が込められた理由だ。


その後、先王アーサー王から特に目をかけられ、「甲斐は将来必ず父の栄光を背負い、未来の賢明な君王を補佐し、ティロス王国が百年にわたる東海岸半島への片隅から脱却する手助けをするだろう」と称賛され、「アーサー王」をミドルネームとして賜った。


二人が刺客団のズノーを狙う野望を打ち砕い後、まるで神々の悪戯が皇子の悲惨な境遇を哀れみ、ライオンハート城へ向かう途中に、大小様々な試練を仕組んだようだ。これは「戦場」という修羅場への餞別だった。


馬背の甲斐は体をひねり、長槍の先端を地割れに突き刺し、横目で「シュリー号」の背中にぐったりと寄りかかるズノーを見た。


この道中で遭遇した変故――金銭を狙う山賊団、夜毎の襲撃に費やした心労――を思い返すと、彼の上向きの口角には諦めと無奈みが混じった笑いが浮かんだ。


「殿下、その腑抜けた様子を城の兵士に見られたら、醜聞になっちゃうよ。」


狂風が地面の砂塵を巻き上げ、枯れ木を根元から引き抜き、砂利が塊になって馬蹄の下に落ちた。シュリー号は驚いて前蹄を上げ、ズノーは危うく落ちそうになった。彼は砂嵐が遠ざかるのを文句げのように睨み、馬の首にそっと寄り添い、耳のそばで優しく撫でた。


「いい子だよ、大丈夫。」


シュリー号が落ち着いたのを見て、彼はゆっくりと唇を開き、振り返る馬の頭にそっとキスをした。そして優しい声で笑いながら言った。


「この道中…苦労様だったよ、シュリー号。」


振り返って腕を組んでじっと見守る甲斐に、ズノーは恥じずかしそうに後頭部をかき、小さな笑顔を浮かべた。彼は「へへ」と笑い、馬を甲斐のそばに寄せ、指の隙間から砂塵を越しに、二つのそび立つな山に囲まれた雄大な城塞を眺めた。


「これがライオンハート城?外から見るだけで、巨人を拝むようだ…本当に壮大だ。」


「殿下の言う通りだ。」


甲斐は長槍を馬の横から抜き出し、軽く振って槍先の砂土を流し落とした。すると、刻まれた金虎頭が現れた。ズノーの興奮した表情を見返し、甲斐は落ち着いて槍の房飾りについた砂粒を数え落とした。


「エドワード皇子がこのライオンハート城を攻略した後、すべての領地を国王に返し、戦功としてこの城を封じてほしいと要請したそうだ。」


話しが落ちないうちに、甲斐は突然槍を構えて前に出たが、目は依然として穏やかにズノーの興味深いかすかに笑う唇をじっと見つめていた。


「その後、国王陛下の許可を得て、エドワード皇子は巨額の資金を投じて王国の工匠を集め、元の帝国が筑いた城防工事を基に、絶えず強化と補充を続けた。最終的に目の前にある、山脈と繋がった鉄壁のような軍事要塞が完成した。」


指先で風に舞う髪の房を軽くつまみ、そよ風に散る軽蔑の色が、次第に収まる砂塵と共に、甲斐の幽冷な瞳の中で集まり、色褪せた淡墨の波紋のように溶け込んだ。額前の髪飾りを噛み締め、彼は冷たい目で城壁に揚がる旗を見つめ、槍先の輝きがこの一瞬的銀り輝光きを増えした。


「ライオンハート城が戦略的要衝に位置するからこそ、聖ゼアン帝国は奪還の決意を忘れたことがない…」


垂れ目で、いつの間にか身辺に寄り添ったズノーをちらりと見遣り、軽く曲げた指関節がそっと襟元から覗く白い首筋を撫で過ぎる。まるで悪夢から目覚めたハリネズミのように、ズノーの首筋は急に縮こまり、手綱を引いて甲斐と安全な距離まで引き離した。手のひらから伝わる温もりが、首筋を電流のように走るかゆみで覆い、ズノーは無意識に剣柄に押し付けた指が、まるで無言なき宣告をしているかのようだ――「母妃以外の人、私の首筋に触れるな」。


ズノーの頬をだるそうに「シュリー号」の絹のように滑らかでぬくもりのあるたてがみに寄り添い、開いた指の隙間から城楼からエドワード皇兄の専用の王旗を垣間見て、小声でため息をついた。


「皇兄はきっととも大きなプレッシャーを背負っているでしょう。」


甲斐はそれを無視して「追影号」を駆り、鞭を振り、地底から湧き上がる砂の幕を突き抜けた。槍先が流れるように空を切り、モヤモヤとした静かな水面のように三歩以内に立ち、口角に一筋の強慢さがにじみ出ていた。


「だからこそ、エドワード皇子が治めるこの地は孤立した王国の陸上の孤島であり、我々ティロス王国が聖ゼアン帝国の覇権に対抗する…最前線の紛争地なのだ。」


「他には?」


ズノーの知りたい気持ちが高まり、空に浮かぶ雲のように広がっていたその時、甲斐は急に語りを止めて、槍先を地面に払い、強風に舞う砂塵が甲斐の眉をひそめた弧度を映し出した。暗い顔で前方の広がる波紋を見つめ、左手の指が軽く曲げられ、剣首についた房飾りにそっと触れた。


「殿下、誰かが城から出迎えに来たようだ。」


甲斐の言葉の方向を辿り、ズノーは好奇心を抑え、急いで宝剣を抜き、手綱を握る手に力を入れた。


騎兵隊が風幕を突き抜けて現れた瞬間、ズノーの瞳は急に縮んだ――彼が目の前の騎士をじっと見つめている間に、騎兵たちは扇形に広がり、二人を包囲し始めた。彼は無意識に甲斐に寄り添い、喉に一本の冷たい汗が喉仏を伝って流れ、鉄騎の獣首紋章が風の中で獰猛な笑いを浮かべていた。


「甲斐、この陣仗…本当に迎えに来たの?」


騎士はゆっくりと鞘から震える単刃の戦剣を抜き、剣先をズノーの下顎に軽く当てた。一つの汗が冷たい剣脊に落ち、淡い染みを広げた。高慢な息を吐き、手のひらで後ろの赤い火獅子紋の披風をつかみ、剣先の下で震えるズノーを斜めに見下ろし、鋼鉄の手袋が剣刃の側面からもれる鋭さを軽く撫でた。


「お尋ねします…閣下は、王城から追放されたズノー皇子でございますか?」


言葉が落ちるや否や、甲斐の槍先が砂嵐を巻き込み銀色の弧を描き、騎士の顔面を直撃!剣先が砕ける瞬間、甲斐は体をひねって横に薙ぎ払い、靴先で馬の腹を強く蹴った――戦馬が悲鳴を上げて跳ね上がり、騎士の体がバランスを崩すや、甲斐は既に空中に飛び上がり、槍の鍔が雷鳴のような勢いで胸甲に激突!火星が散るところで、鈍い音が太鼓のように砂塵を砕く。


ズノーは砂の幕の中で呆然と立ち、その男が反動を利用して優雅に着地し、槍の房飾りの流蘇には少しの塵や血も付いていないのを見た。


甲斐の目が急に鋭くなり、冷たい槍先が騎士の喉元を指す。


「皇子の正体を知っていながら、なぜこんなに無礼なのか?」


「甲斐、彼を許して。」


ズノーが馬鐙に足をつけたばかりで、言葉はすでに砂幕を切り裂き、殺気の立ち込める槍先の間を涼しい泉のように漂っていた。彼はゆっくりと騎士のそばに歩み寄り、腰をかがめて地面から起こし、披風の裾についた砂塵を払った。振り返って懊悩する甲斐に向かい、優しく微笑んだ。


「それに私は怪我もしていないでしょ?」


甲斐は横に披風を翻し、片手で支えてすぐに槍を持って「追影号」の背中に飛び乗り、側頭で同じく馬に戻ったズノーを見て、満腔の怒りが口角の微笑みとともに地面の軽い塵に変わった。


「殿下が命令なら、僕は逆らうわけにはいきません。」


その時、馬に乗って衣襟を整えていた甲斐の声が急に低くなり、振り返って扇形の包囲から開いた通路を見て、生残った騎士を槍で怒視した。


「早く僕たちの前で道案内をしなさい。」


この時、空から巻き込まれる砂嵐でさえ、甲斐の槍先の殺意に怯えるように、馬の蹄が跳ね上がる瞬間に次々と嘶きを消えた。彼らがゆっくりとライオンハート城に近づくと、旌旗がはためく城壁の上に、突然一人の姿が現れた。


「愚かな弟よ、俺のライオンハート城へようこそ。」



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僕は完璧な物語を書きたかったのですが、世の中に「完璧」という言葉があるでしょうか。執筆者がいかに浮藻絢爛の世界を描いても、創造主の神の万分の一にも及びません。それで、ほっとしました。普通に書くこと、理想に合った小説を書くことです。自分が描きたい壮大なシーンを、多くの人の目に映し出すことができるのです。「いやあ、実はけっこういいんですね」と言ってもらいたい。それで満足でした。
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