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この山河は誰に傾くのだろう~  作者: 上村将幸
雁ノ月

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第四話 騎士の手本

自由を追いかける途中では、招かれざる血まみれ嵐に遭遇することは避けられません。たまには少しの驚きが混じることもあるでしょう。


例えば世の星は数多くありますが、互いの輝きの隠している時でも、人間界に少しの温まりを残してくれます。


こう理解できます――自由だからこそ、遠慮なく対立し、思い切り世に自身の最も純粋で極端にわがままな一面を見せるのです。


そして時には、自由を追いかける方向で、未知の霧を探る際に無数の挑戦に直面した瞬間、莫大な代価を伴うこともあります。


例えば最も直感的な点は、他人の伏撃の危険を予測できないことです。たとえそれが夜の塵を切り裂いてそっと身近に寄ってきて、すべての警戒心を解いた瞬間を待っていても――毒を塗った短剣を喉に当てるまで気づかないのです。


例えば我々のズノー皇子殿下は、一日の辛い長旅を終えて、のんびりと新鮮な干草を手に白馬のそばにしゃがみ、餌をやりながら夜空に降り注ぐ星屑を眺めてきました。


しかしその時、彼は数人の刺客が冷たい風に乗って背後に忍び寄っていることに、全て気づいていませんでした。


「あれ…あの皇子、本当に警戒心がないな。」


暗がりに隠れた誰かが、のんびりと冗談を漂わせます。


刺客の頭目は後ろの手下に合図を送り、短剣の刃先から漏れる冷たい光が夜のベールを切り裂き、ゆっくりとズノーの後頸に迫ってしました。


その時、頭を下げて干草を食べていた白馬が突然鼻を鳴らし、地を蹴って跳ねび上がった後蹄が激しく蹴り上げ――近づいてきた二名の刺客はすぐに倒れ込みました。


肋骨が折れた激痛が身体に広がる前に、仲間の手際の良い追加攻撃を受け、口元から漏れるうめき声とともに死の懐に投げ込まれるのです。


「わぁ、あの白馬の方がこの鈍けな皇子よりましだな。」


草むらに隠れて見守っていた青年は、ゆっくりと鞘から長剣を抜き出しました。ひそめた眉の下から、鋭い皐月が一閃します。


「誰がこんな大胆なことをして皇子を暗殺させようとするのか知らないが、僕ものんびりと傍観していられない。」


青年が片足を草むらから踏み出した瞬間――暴れる白馬を落ち着かせたズノーは、再び広大な星空を見上げました。


その時、一筋の流れ星が星宙を切り裂きます。


彼は興奮して立ち上がり、その流れ星を指差し、尻尾を振る白馬に振り返ります。


「見て、流れ星!流れ星に願いをすれば夢が叶うって言うけど、本当かな…」


言葉が落ちないうちに、目を瞬く間に――いつの間にか背後に現れた刺客たちを見てしまいます。


彼は慌てて腰に差していた剣を抜き、垂れた剣先を自分に近づいてくる、口角に歪んだ笑顔を浮かべた刺客の頭目に向け、すぐに厳しい声で叫びます。


「お前らは一体何者だ?誰の命令できた?」


思いがけないことに、この刺客の頭目はズノーの質問をまったく無視し、暗黄色の舌先が短剣の刃身を舐めり上げました。そして目尻で空の彼方に消えた流れ星をちらりと見つめると、急に狂気の笑いを爆発させました。


「その流れ星に願いをしたことが叶うかどうか、俺には分からない。」


垂れた指先が鷹の爪のように鋭く、刃に触れる瞬間に金属の重厚な蜂鳴を立てました。刺客の頭目が狼のような牙を剥き出すと、語気が急に変わりました。


「でも確かなことは一つ――お前を殺せば、あの大人から幾らでも金を貰えるってことだ。」


「だから、俺様の将来の栄華冨貴のために、お前はここで死ぬしかない。」


刺客の頭目が空気を切り裂くように飛び出し、夜風に乗った鋭い鳴き声と激しく衝突しました。耳障りな反響が刃のように気流を切り裂き、ズノーの鼓膜を貫きました。


激痛が電流のように神経を駆け巡り、危機感を瞬間的に麻痺させました。彼は瞳を縮め、本能的に目を閉じた瞬間――懸かった短剣の冷たい光が喉元に迫っていましたが、寸前で不気味に止まり、残像だけが光の欠片のように虚空に凝固しました。


「死ね、可哀想な皇子。」


「お前らの夢は宏大だが、皇子を殺そうという願いだけは、僕が簡単に許さない。」


その時、青年が剣を振り回してズノーの前に飛び出しました。剣先と短剣が衝突し、銀色の輝きが二筋の波紋のように散りました。彼は振り返って足で刺客の頭目の腹部を蹴り上げ、後者の宙に浮かんだ体を後退させ、円形に回転して大木に激しくぶつかりました。


「皇子殿下、ご無事ですか?」


青年は剣を胸前に構え、垂れた左手で袖口から滑り落ちた三枚の飛鏢をつかみました。指先で軽く捻ると、三筋の稲妻のような光が飛び出し、襲い来た三名の刺客の眉間を正確に撃ち抜きました。目の余光でズノーをちらりと見ると、彼の眉間がゆっくりと緩んでいるのを確かめ、月の霜のような冷たさが滲み出た唇に、清雅な笑顔が自然に浮かびました。


ズノーは両手で剣を持ち、周囲の状況を見極めました。青年と背中を預け合う姿は、二枚の嵌め込まれた盾のようでした。


荒々しい危機が迫る中、初めて会った二人は、互いを守る姿勢で、時を超えた無言の誓いを表していました。


「貴方は誰ですか…?」


言葉が終わるや否や、二人の視線が交差し、ほぼ同時に剣を振り押して向かいの刺客を斬りました。


青年は対峙する刺客を一撃で素早く倒し、袖から投げた二枚の飛鏢が夜の色に溶け込み、すぐに二声の悲鳴が響き渡りました。


「思いもよらないことに、この弱そうな皇子殿下が…」


青年はゆっくりと地に手をついて立ち上がった刺客の頭目に近づき、その醜い顔を見据えました――指の隙間に挟んだ薬丸が喉に入った瞬間、刺客の頭目の顔の筋肉がゆがみ始め、歯茎から生える牙が伸び、皮下わに青黒い血管が狂ったように浮き上がり、まるで鬼の顔が皮膚の下から這い出そうなようでした。


振り返ると、ズノーのしなやかな体が風に乗って舞う月光の精霊のようでした。下手な剣技ながらも、幸運の女神亜希の加護で、長い間絡み合っていた刺客を剣で斬り落としていました。


彼は少し息を切らし、剣先から滴る血の玉が月光の下で不気味な赤を放ち、眉間には消えない冷たさが漂っていました。それは殺意ではなく、骨に刻まれた傲慢さで、この息を呑むような戦いは彼の運命を書き換えるための鍛錬に過ぎないかのようでした。


「剣術はまだ洗練されていないが…強い敵に立ち向かう時の圧倒的な雰囲気が…特に魅力的だ。」


青年の言葉が落ちないうちに、周囲の空気が氷のように冷たくなり、剣のような視線が狂奔してくる刺客の頭目に向けられました。


「父上が目を付けた男だ…ならば…」


指先で剣身を軽く弾くと、「チン」という清い音が響き、周囲に幽かな共鳴が広がりました。青年はすぐに垂直に降り注ぐ剣先を、引き絞った弓のような姿勢に変え、月光を浴びた白い霜のような光が実体を持つ瞬間――鬼のような速さで刺客の頭目の眼前に姿を現し、上に横斬る剣の刃が、毒を塗った鋭い刃のように激しく襲い来る十本の指を即座に防ぎ止めた。


そして滑り歩みで背後に回り、袖に隠していた五枚の飛鏢を投げました。刺客の頭目が短剣で飛鏢を撃ち落とす僅かな間に、青年は瞬歩を踏み込み、剣首の下墜する貫力を利用して勢いを乗せて刺客の頭目の獰悪な牙を打ち砕いた。


「僕はその皇子殿下の剣と盾…早く戦いを終わらせる手助けをしなければ。」


刺客の頭目の体が重圧のように地面に倒れる時、青年はその騰らかになった右足なつかみ、空中に放ちました。


その時、他の刺客との戦いを終えたズノーが機を見て空中に跳ねび上がり、手に握った剣を振り押しました。剣刃が鬼のような顔を貫き、青黒い血管が霜のような冷たさの中で毒のような蔓のように破裂し、汚血が飛び散る中、刺客の頭目は首と体が分かれて落ちました。


二人は背中を向け合い、夜風が青年の乱れた衣襟を巻き上げました。ズノーは横目で彼の手にある月の光を反射する血の色に染み込んだ剣身を見つめ、唇に面白そうな笑いを浮かべました。


「私は皇兄や皇姉にいじめられながら育ってきたから…どんなに下手でも、数人の刺客くらいは扱えるさ。」


ズノーの上向きの口角が、振り返って青年と目を合わせたの一瞬目、さわやかな笑顔を流しましたが、その笑みはすぐに崩れ落ちる星空のように瞬く間に下がりました。彼の眸から溢れる光が白馬の蹄の下に染み込んだ血染めみの干草に留まると、顔に濃い陰鬱な表情が浮かびました。そしてすぐに駆け寄り、足首がまだ地面に着かないうちから白馬の腹にぶつかるように抱きつきました。


「シュリー号、怪我はない?」


青年は破れた衣袖から布を一枚引き裂き取る、ゆっくりと燃え続く焚き火のそばに座りました。剣に付いた血を拭う余裕の間、ズノーが子供のように白馬の腹に頬をすり寄せているのを盗み見て、口元に堪えていた笑いがついに川のように溢れ出しました。


「自分の命より、まず馬の安否を気にするなんて…本気なの?」


ズノーは風に乱れた白馬の鬣を優しく撫で、小さな口を尖らせて青年に白目を投げかけました。


「もちろん本気よ。だってこの馬は…私が十三歳の誕生日に…」


彼ばしゃがみ込んできれいな干草を探し出し、ゆっくりと立ち上がって白馬の口元に差し出しました。茶褐色の宝石のように澄んだ瞳を見ていると、幼い頃に大切にしていた貴重な思い出が、運命によってひねられた鍵によって、塵まみれの扉を開けさせました。


舞い上がる砂塵がまつ毛を撫でる瞬間、ズノーは急に風に翻る衣の袂をつかみ、地面にしゃがみ込んでそっと目角から滑り落ちた涙を拭いました。赤い目で、今ちょうど顔を上げた青年を見つめました。


「父王が私に贈った最初の贈り物…そして、彼から貰った唯一の誕生日の贈り物だったの。」


「昔は、父王の子供になれたことを感謝していたの。」


彼ば薄い雲に覆われた明月に目を向け、頬を伝う涙が、腰に差した宝剣の揺れる剣穂に静かに染み込んでいきました。

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僕は完璧な物語を書きたかったのですが、世の中に「完璧」という言葉があるでしょうか。執筆者がいかに浮藻絢爛の世界を描いても、創造主の神の万分の一にも及びません。それで、ほっとしました。普通に書くこと、理想に合った小説を書くことです。自分が描きたい壮大なシーンを、多くの人の目に映し出すことができるのです。「いやあ、実はけっこういいんですね」と言ってもらいたい。それで満足でした。
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