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この山河は誰に傾くのだろう~  作者: 上村将幸
冬ノ歌

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第三十三話 戦前動員

聖マーゴフ城防衛要塞が整然と建設が進む途上に、若き大公エドワード一世はライオンハート城で無道の暴君ロルス皇帝討伐の檄文を発布した。


彼はロルスが実子を手にかけ、国民の税金を搾取し、現行の律法に反対意見を持つ大臣を権勢で迫害したことを列挙し、神の恵沢を受ける東海岸半島という土地が、日増しに往時の蓬勃とした生気と朝気を失っていく様を訴えた。


檄文が発布された数日の間、かつてロルスの権力で血洗いに遭った領主残党は、ほとんど黙契とも言える歩調で再び世人の前に姿を現し、莫大な軍事力を集結させて北へライオンハート城へ向かった。


かつてティロス皇子であったがロルスの暴政に勇敢に立ち向かい抗争し、自らに従う民望と軍心を統率して、北国辺境に『フランス』という新政権を自ら樹立したエドワード大公の麾下に集まり、名称を『鳳凰広場』に変更での閲兵式で彼に忠誠を誓った。


この新生の力を編入したことで、フランス公国の国防軍は日増しに完備に向かっていった。


まず再編成議題に上った防衛事項は、元『銀鳳隊』の黒鎧精鋭騎兵を基礎とし、敗亡した領主残党軍の騎兵武装を吸収して統合改編し、三万もの兵力を擁する『赤凰軍団』を編成したこと。そして『銀鳳隊』という建制番号を正式にズノーが親しく率いる黒鎧騎士団に授与した。


この一連の軍事改革を完了した後、ヘラの出産予定日も近づいてきた。


一国の君主であるエドワードは、昼間は忙しい卓の上で処理すべき政務に追われながら、暇な時には隙間時間を作って、政務官の補佐に任命された二人の胞弟――グロスターとホーエンスと共に、三人で私服に着替えて、町の路地を積極的に歩き回り、真剣的に真摯に人民の訴求と提案を聞き入った、次第に賢君としての全ての要素を体現し始めた。


夜に至るまで、彼は冠冕や華服を脱ぎ捨て、一介の平凡な夫として妻ヘラの側に慎んで寄り添った。


新人父親としての義務を果たし始め、まだこの世に降りていない子に自らの生涯の出来事や二十五年以来に出会った奇妙な光景を語り聞かせた。


特に、彼がヘラとあの日宮廷の庭園で邂逅の恋った時の心動した場面を語る際に、思わず涙が流れ落ち、頬をヘラの腹部に寄せ、詳しく彼らの子供に話して聞かせたこと。


最後に言い終えると、彼はヘラを強く抱き締め、指先を伸ばして優しく彼女の目尻に溢れる涙を拭い、視線が交錯する間に、心から深く、彼らのこの世に生まれながら非凡な運命を背負う子が、この世に降り立つ日を期待した。


此の瞬間、彼らはもはやフランス公国を統治める大公陛下と大公夫人ではなく、単々になる一組の、未降世の子どもとの対面を待ち望む、非常に普通でありながらも珍らしい両親である。


灼眼城も翌日の夜明けに、ライオンハート城の上空から放たれた伝書鳩を受け取った。信紙の内容を読み終えると、レイは嬉しそうに涙を拭い、足音を立てずに城主府に入り、沈香木の城主卓の上に屈身で伏せ、口角に微笑を含んで甘く眠るズノーを眺めた。


卓の縁に身を乗り出し、レイは指を伸ばし、いたずらっぽくズノーの額を突いた。そのズノーは、夢の中で不快な感覚に気づいたかのように、唇の端が微かに震え、その後小声で呟き、胸に詰まっていた最も深切の言葉を口にした。


「母妃…皇児は母上が恋しいです。」


手に握ったハンカチでズノーの目尻から流れる涙を慎重に拭い、頬の赤みを押さえながら、レイは柔らかい声で言った。


「安心してください、ズノー弟。あなたは必ず長公主殿下と再会できる、絶対にできるわ。私も甲斐もそれを信じています。」


「その前に、私たちはマリアーナ殿下に代わって、ずっとずっとあなたの傍にいるから、決して離れないわ。」


薄氷を踏むような気をつけるさで、ズノーが卓に置いた右手を優しく上げ、レイは懐に仕舞っていた手紙を取り出し、ゆっくりと卓の上に置いた。すぐに十分謹慎に彼の右手を手紙の上に載せ、信紙に込められた家族の思いやりを、今母を慕う心の中に送り届けようと願った。


身を仄めて城主府の戸口を出ると、レイは軽く紅玉の門扉を閉め、微風が羅紗裙の裾を翻し、彼女が独りで頬を覆い涙を流す淒戚とした泣き顔を隠した。


徐々に脳海に思い出すのは、戦火の中で失った両親のこと。彼らがまだ乳飲み子だった自分を守るため、示した堅定不移の毅力と、避けがたい災害に直面した時、暗闇の中で燦然と輝く剛靭な魂だった。


まさにその天が降り注ぐような戦禍の中で、彼女の命を捨てて自分を守ってくれた家族を永遠に失いながらも、まるで運命に恵まれたかの如く幸運にも、衆生万霊に慈憫の心を抱くカイザーに出会えた。


敵を胆寒させる戦場の猛将である彼は、温かみを宿した荒々しい大きな手で身をかがめ、地面に泣き崩れるレイを抱きしめた。


カイザーは親衛を命じて廃墟に倒れた二体の遺体を丁寧に収容させ、彼女の偉大な両親のために帝都の墓園に新しい合葬墓を一基建立させ、この戦争で亡くなった民間人を常時悼むためだった。


レイはまつ毛に付いた涙霧を拭い、指先で揺れる裙の裾を軽く摘み、石段をゆっくりと登って城壁に至った。


骨身に染みる冬風が背中に垂れた長髪を翻し、一筋の清涼を通り、佳人の朝霧のように薄い前髪を撫でる。


遠くの塔楼の頂に高揚で翻る旗を一瞥し、身を低くして女壁に伏せ、高所から城下に吹く細雪と花弁の平原を凝望した。


そこには、八千の新軍兵士が腕に赤と白の二色のハンカチを結び、演習専用の兵器を手に、方陣を組み、甲斐とヒューゼルの後ろにそれぞれ整然と並んでいた。


陸地に踏みしめる甲斐は厳粛な表情で、脩い腕に黒い房が揺れる木製の長槍を握り、身を低くして視界の反対側の光景を注視する。


ヒューゼルは熱狂的な眼差しで甲斐を睨み、上がった口角に火の息を宿した桀驁な笑顔を描いた。


片手で木製の長戟を掲げ、右手の小指の先で戟身を軽く弾くと。まさにこの刹那、その長戟は掌の上で烈々と回り、周囲に集まる冷気を徐々に吸収し、呼嘯で歘虐な暴雷風に変わった。


「公爵様、今日この公平な演武場で、容赦なく兵士たちの心の中の威風凛々ある姿を打ち破るので、後で恨みは言わないでください。」


「ふん。」


甲斐は父の怒りを握りしめた右手を上げ、親指の腹で唇を撫でると、邪爚な笑みを浮かべた。腰をまっすぐに伸ばし、長槍を片手に構え、その槍先は空を覆う木の矢が作る雨幕の先に立つ、決壊した洪潮のような新軍の歩戦兵を率いるヒューゼルを指示すと、戯れ笑顔を噛み殺した。


「そんな『逆らう』ような言葉は控えろ、ヒューゼル卿よ。」


振り返って陣列の前に立つ逞しい兵士を見る。彼の太い腕の青筋が浮き出、白旗を高々と掲げ、真っ白な旗面が風の軌跡に沿って流水のように揺れる。


甲斐は右手を下ろし、中指で槍鐔に軽く触れ、遂に槍柄の三分の二の位置まで移動し、五指を曲げて木製の槍身に浅い指痕を押しつけた。


身を低くして再び突撃の姿勢を取り、引き結んだ口角からは慌ただしい息が漏れる。


「我が白軍の全ての兵士は、我と共に向かいの赤軍に突撃せよ。我…皆を率いて最終的な勝利を掴む。」


言葉が落ちると、地上には濁炎が混じった風塵が巻き起こる。甲斐は一歩踏み出し、戦靴が地面に深い跡を刻む。


土埃が彼が兵士を率いて突進する剛勇な姿に追い従い、風砂に巻き込まれた。一時、両陣営からは、雷霆の如くな殺し合いの声が雲端を震わせた。


一方、甲斐が長槍を振るう戦闘の姿、天神の降臨のごとき異常に軒猛かった。沈潭から飛び出した金竜を駆り九界仙闕で清吟しながら、殺到して来る赤軍の兵士たちを次々と撃退し、ヒューゼルと乱戦の中で激しく情熱的な一騎打ちを繰り広げた。


「わあ、早く見て、甲斐が単騎で赤軍の奥深くに突っ込んだ!」


そして、レイは喜んで手を叩き、白兎のように楽しげに跳ね回る。城壁から五歩のところに駐守する衛兵を見向け、右手を挙げて槍を持って凌厲で突きを連続して繰り出している甲斐を指差した。


レイが甲斐が白軍を統帥して赤軍を徐々に圧制し、戦場で逆転優位を築いたことを心から喜びに浸っていた途端、背後から疲れを帯びた声が響き、雄渾な足取りが合わさった。


「甲斐とヒューゼルが指導する新軍演習が始まったのか?」


驚愕ながら身を回して見ると、レイは最初の一目で、空中を漂う金色の聖竜の紋が刺繍された赤い袍を望んだ。無意識に城壁の階段へ向かって走り出し、霊逸に舞い踊る白髪の房をちらりと見た後、レイは高下駄を履いた両足に力強く踏み込み、人間界に造訪した仙女のように、階段入口で両腕を広げている高い姿に飛びつく。二筋の涙が目尻からこぼれ落ちる。


「父上、娘は父上が恋しいです。」


ズノーは背後の城壁に寄りかかり、五指を揃えた右手で胸を狂乱に叩き、口から急促的な気霧が吐き出される。退路を断たれた幽霊の如く、冷たく舞う浮塵の中で凝固していく。


「レイ、さっきの行動は危なかったわよ、ほとんど心臓が止まりそうだった。」


「ニヤニヤ、怖がらせたら自業自得、臆病者なんだからよ。」


カイザーの広い胸に寄り添うレイは、首を傾げて顔色が青白く変わるズノーを見つめ、いたずらっぽく舌を出した。


柔らかい頬を髭の生えたカイザーの頬にすり寄せ、唇を尖らせて彼の額にキスし、指を唇に当てて慈愛に満ちた父を見つめ、疑問を含んで尋ねた。


「父上、どうして突然灼眼城に来たのですか?」


カイザーは腕の上に座らせたレイを抱え、ズノーと共に城壁の前に来て、平原で激しくなる戦闘を眺めわ穏やかな表情で言った。


「俺の素直な娘よ、忘れたのか?父は皇命を受け、聖ゼアン帝国の皇帝陛下の代理として、フランス公国の監督を任された南部戦区元帥なのだ。」


横目で落ち着いた表情で傍に立つズノーを見、ゆっくり腰を曲げ、優しく穏重に腕の中の娘を下ろし、しゃがんで頭を撫でながら目を細めて笑いかけた。


「今日は灼眼城の新軍演習の日だから、父も招待状を受け取ったの。昨夜は単騎で花海を越えてここに到着したのよ。」


「ふん、甲斐もズノーも意地悪だわ、こんな大事なことを教えてくれないなんて。」


腕を組んで憤慨しながら困惑した表情のズノーを一瞥し、突然振り返って父を見上げ、静かな美しい顔に驚きと心配が浮かんだ。


「父上が今日ここに来たら、竜都無月城の防衛は誰が担当するの?この時にティロス軍が突然竜都無月城を攻めてきたらどうするの?」


「安心して、カイザー殿は今日単に新軍演習を見に来ただけでなく、重要な知らせも持ってきてくれたのだ。」


「どんな知らせ?」


ズノーの格好つけた様子を凝視し、レイは父の魁梧な体を回り込み、大きな瞳に星屑がきらめく。ズノーは目を見開き、焦りを抱えて近づいてきたレイを見て、肩をすくめてため息をついた。


「カイザー殿が昨夜遅く灼眼城へ向かう途中で、武装が精良に二つの部隊が『霽月湖』に集結して駐屯しているのを発見したからだ。」


深く息を吸い込み、ズノーは身を回して両手を広げ、背後の女壁にもたれかかったが、表情はとても穏やかで、落ち着いて微笑んだ。


「それに、一目でその規模の大きい二つの部隊が、ティロスがザイエチェン城とミネ城に派遣した精鋭雄師だと分かった。」


「『霽月湖』って何?そこはもうここに非常に近いのでは?」


「そう、明日の夕暮れ時には、灼眼城の城下に迫るだろう。」


レイがこんな驚いた表情を見せることは予想していたようで、今朝ズノーが寝ぼけ眼で目を覚ました時、いつの間にか城主府に堂々と入ってきたカイザーが、半刻近く自分の寝顔をじっと見つめていたのだ。


その時ズノーが見せた様子はレイの今の反応とほとんど同じで、特にティロスがザイエチェン城とミネ城に駐屯する軍隊が今灼眼城へ進軍しているとの知らせを聞いて、眉間に宿った睡魔が冷たい風に吹き飛ばされるように消えた。


彼は振り返って儚く幻想的な戦況の天秤が再び均衡を取り戻した戦場を眺めた。


当初劣勢にあった赤軍陣営は、ヒューゼルの奮勇する執念の影響を受け、再び高昂な闘志を爆発させ、頑強に戦況を膠着状態に押し戻した。


片手を風雪に蝕まれた痕跡が刻まれた女壁に当て、ズノーの震える口角からは忽ち沉尅な笑みが溢れ、瞳に散っていた光が一瞬で溶け合った。


「我々が今日行うこの実戦演習は、明日到来する敵軍を迎え撃つため、事前に行った特別な準備なのだ。」


「ズノー…弟。」


この瞬間、レイがズノーの冷静すぎて恐怖に近い表情を見つめた時、両手を胸の前で強く握りしめた。


これはその驚怪の光景に怯えたからではなく、単に彼が担う重荷を見抜いたからで、思わず心からの悲しみが滲み出た。


明日またどれほど多くの、かつて親しんだ姿が、あの切なく美しく咲き誇る虞美人の花海の下に葬られるのか。誰も答えを出したがらない…

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僕は完璧な物語を書きたかったのですが、世の中に「完璧」という言葉があるでしょうか。執筆者がいかに浮藻絢爛の世界を描いても、創造主の神の万分の一にも及びません。それで、ほっとしました。普通に書くこと、理想に合った小説を書くことです。自分が描きたい壮大なシーンを、多くの人の目に映し出すことができるのです。「いやあ、実はけっこういいんですね」と言ってもらいたい。それで満足でした。
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