第二十二話 選択
「お前、先に退がってくれ。」
翌日の午後、エドワードは幕舎を出た。演習場でラインら三人の千騎長が、配下の下級将校に戦術の運用を解説し、異なる地勢や地形で紙上の単一戦略を最大限の効果に発揮させる方法を教えているのを見学した。
その後、多くの将校の顔に集まった憂いの表情が安心の中で晴れやかな笑顔に変わるのを目撃し、一人で一つの陣幕の外に来た。
声をかけて二人の衛兵に暫時退がるよう指示し、入口に垂れ下がった帷を捲って真っ直ぐに中に入った。
陣幕の内は、一人の青年が悲愴な表情で膝を抱えて隅に座っていた。脇の低い卓には揺れる蝋燭の仄暗い光が傍らに置かれた羚羊の紋様が描かれた純銀の鎧を照らし出していた。
エドワードの勇武で英澟な姿が入口から漏れ入る光塵の中に現れると、帷がひらひらと舞う軌跡と共に一筋の柔らかい暖風が情熱的に吹き寄せられ、青年の耳元に垂れた乱髪を掻き乱した。
卓の上に置かれた一切口をつけていない食事を見て、エドワードは目を細めて眉を寄せ、青年のいる方へ歩いて行った。
「ローラン、今年何歳だ?」
呼ばれたローランは意気消沈した様子で頭を上げ、エドワードの穏やかで風の優雅な顔を見つめると、瞳が急に縮んだ――そう、この青年はまさにその日マハ宮でロルスから密詔を直接受け取り、ライオンハート城へエドワードに聖断を伝達するよう遣わされた若い騎士だった。
昨日、ローランはラインの案内で広大な軍営に建つエドワードのいる中軍の幕舎に入った。その後、エドワードが断固として強い態度で密詔に記された命令の執行を拒否することを明言するのを見、さらに身近に潜んでいる外見は儒雅で親切そうなラインから、致命的な毒液が染み込むような極めて強烈な予感――生命力が時間と共に体内から少しずつ失われていくことを感じ取った。
そこでラインの拘束から逃れ、騎士としての忠節を全く尽くすために死を覚悟し、遠く王都のロルス国王に謝罪しようとした刹那。
幕舎の入口に隠れて盗聴していたズノーと甲斐の二人の姿が突然現れた剣光の中を縫い、特に強引に死神の魔掌から彼を無事に救い出した。
直後、ラインが後頸部に叩き込んだ一撃の手刀で手に持っていた騎士剣が完全に自分の制御を離れた一瞬目を感じ、その場で気絶して倒れた。
その夜、全身の痛みが悪夢から彼を現実に引き戻した瞬間、初めて自分がエドワードの命で広々として寂寥としたこの陣幕に軟禁されていることを知った。
この一瞬の回想は、酔いどれの夢の中から初めて目覚めたようだった。ローランはわずかに紫黒色がかった唇を強く噛み締め、体に突然冷たさが走り、わずかに茶褐色の血痕が震える歯の隙間に滲んだ。
彼は両足を強く抱えしめ、体をわずかに低い卓の上で燃える蝋燭に傾けた。まるでその微かな炎に宿る精霊に黙々と祈りを捧げ、短い間の温もりを降ろし、崩壊寸前の心を癒すことを願ったかのようだった。
ちょうどその時、ローランの誠実な願いが生来慈悲深い精霊の答えを得たかのようだ。これまで数多の人の憔悴した心を守ってきた紫い袍が、ふわりと彼の背中に落ちた。
「ほら、自分をこんなに苦しめて、このみすぼらしい姿は、まるで自分の面倒をみられない子供のようだ。」
エドワードは穏やかな眼差しでローランの前にしゃがみ込み、一方で優しく紫袍の紐を結び直し、指先が滑るのに合わせて紫袍の裾を引っ張り、きつく丸まった身体を包み込んだ。同時に冷ややかな目で入口を見つめ、外に向かって大声で呼びかけた。
「すぐに台所へ行き、料理人に生姜湯と肉粥を炊かせ、この陣幕に届けさせろ。」
「はい。」
陣幕の外で控えていた衛兵はエドワードの命令を聞くと即座に応え、すぐに方向転換して駆け出した。
ローランは目を上げて静かに見つめ、眼前の時に峻山の如き威厳を示し、時に清流の如き仁慈を湛える整った顔立ちの男子を。
紫い袍の中に隠した指を突然強く握り締め、重苦しい空気を破り、落ち着いた様子で口を開いた。
「二十三歳です。」
「おお、もう二十三歳か。言われてみれば気分屋の若旦那だと思っていたよ。」
言葉を聞いてエドワードは口元を緩めて軽く笑い、手を伸ばして隣の椅子を引き寄せ、ローランの悔しげな眼差しの中で落ち着いて向かいに座った。次いで厳しい表情で彼を見つめ、口元に浮かんでいた笑みが唇を開くと変わった。
「では今度は君の番だ。納得のいく理由を教えてもらおう。」
一言語り終えると、彼は顎を両手を交差させた指関節に当て、椅子に座った上半身をわずかに前に傾けた。玄妙な瞳に、ローランの驚愕の表情が映り込んでいた。
「なぜ食事をしない?まさか本当に、国民の安危を顧みず簒位して帝を称する、そんな無情で義理を欠く男のために、本来持つべき輝かしい未来を棒に振るつもりか?」
「もし本当にそう思っているなら、それは大いに間違っている…」
エドワードは手を伸ばして素の錦と雲羅の袍の裏地から封筒を取り出した。恐る恐る封皮に押された二重の火漆を見つめ、涙血のように目立つ真紅の中に、大将軍レイモン一族ペンドラゴンの家紋『赤焔火鳥』が烙印されていた。
「父王をそう評価したくはないが…事実が俺の考えが甘かったことを証明している。」
「なぜそう言うかというと、あの男は自己の私利私欲のために、ティロス王国全体を万劫に帰るベからざる煉獄の血の海に引きずり込もうとしているからだ。」
合わせた三本の指で手紙の中央辺りを摘み、ローランの眼前に平らかに広げた。重要な箇所を述べる際、エドワードの指先に突然力が込められ、刃のように鋭く摘み、握った部分に険しい切り口を作った。
その後手紙は骨のない綿雲のようにふわりと地面に落ち、太字の黒字で書かれた部分の傍らに、赤ペンで注釈が付けられていた――「カール地方大粛清。この根拠のない不義の内戦で、一万以上の民間人が戦火に巻き込まれ、永遠に灰燼の中に眠る。」
エドワードは立ち上がって椅子から離れ、身をかがめて掌を消えかかる燭火のそばに置いた。横目で一瞥し、ローランが放心した目で地面に落ちた切り口のある手紙を拾い上げるのを見た。
彼の顔に浮かぶ葛藤を気にせず、身を回して卓の上の木箱を開け、中から『金鸞鳥が旭日の女神を拝む』の文様が彫られた蝋燭を取り出した。
燭剪を手に執り、燭盤の中の天の川のように流れ出た水銀のような溶けた蝋をすくい取り、波模様が描かれた外周の蝋を除いた。新しい蝋燭の芯を火に近づけて点火し、鉄の針に挿して燭盤の中央に固定した。
一連の動作を終えると、エドワードは燭剪の刃に固まった冷えた蝋を外し、残った火の息と共に断固として握り締めた。
欲望の喘ぎが掌の中でもがき、指の隙間から煙塵と化して溢れ出す。エドワードは身を仄めて新しい蝋燭を燃える炎を見上げ、橙黄色の火光の中に妖艶な白い炎が流れているのを眺めた。
ちょうどその時、流れる蝋が女神の枯れゆく涙を隠すと、エドワードは椅子に戻って座り、目を閉じて静かに小さく嘆息した。
「手紙に記された事態の通り、我が父王は分散した権力を全て収めようと、世襲封爵の領主たちに自ら自治権を放棄するよう脅迫している。つい先日…彼はウィンザー王后の父親――サーシェル宰相に命じて…」
ここまで言うと、エドワードは忽ち目を開け、眸底に流れる墨色の光影が沈潭の如く幽深だったが、刹那に赤紅に揺れる怒りに裂かれて取って代わられた。
ゆっくりと握り締めた拳を緩め、粉末状になった蝋が掌からふわりと舞い落ち、天の川が流れ出た星屑の如く、星空がきらめく晶らかさを目の前の地面に映し出した。
あたかもその人間の悲劇が自らの眼前で繰り返されるかのようだ。エドワードの額に青筋が浮き出、冷濬な顔の下で怒りが暗潮の如く狂い奔り、遂に眉宇の間に雷鳴のような鋭い切っ先を凝らした。
「軍隊を率いて数多の領主の封地を残忍に虐殺し、その中には先王アーサー王の時代からティロスの半島統一の偉業を成し遂げた勲功柱臣も含まれていた。領主たちの遺した家族や子供たちも皆奴隷に落とされ、サーシェルを筆頭とする搾取者に下賜された。」
「いや、そんなはずはない。本当ではない…国王陛下が絶対に…人々の唾棄を受け、天道人倫に悖るようなことをするはずがない。」
ローランは慌てて手に持った手紙を捨て、身に纏った紫い袍を引き剥ぎ、足を踏み出して狂ったように陣幕の門口へ走り出した。恐怖が蔓延する修羅場から逃れようとしたが、入口に着いた途端、怒りに任せて帷を捲ったウルフトと激突した。
ウルフトのがっしりとした体格は、越え難い天王山の如くローランの前に横たわり、彼を後ずさりさせて数歩退き、エドワードにぶつかった。
「国王陛下?ふん、今は『皇帝陛下』と呼ぶべきだろうな。」
ウルフトは唾をローランの震える足元に吐き、頭を仰いで碗口の如く太い腕を組み、針山の如き髭の上に、炉火と鉄水に百般鍛えられた剛毅な顔に、蒼崖を睥睨する豪快な気概が浮かんだ。
隅に退いて格闘の構えを取るローランを見て、ウルフトは軽蔑的に笑い声を上げた。雄渾な唸りが雷の如く空気を揺らし、すぐに堅実で力強い大股で前に進み、丸い目を怒らせてローランの目に潰れゆく光を俯瞰した。
「それに、さっき『本当ではない』と反論したな。ではロルスが君に託した密詔に記された命令を、どうやって彼のために許しを請い弁解するつもりだ?自らの実子を簡単に捨てる男に、まだどんな惨絶人寰なことができないというのか。」
その時、エドワードは椅子を持ってウルフトの傍らに来て、極めて恭しく彼を座らせ、態度を穏やかにして笑いながら言った。
「師匠は先王アーサー王の時代から軍に仕え、兵器を鍛造する一代の名匠でした。しかしこれが彼の真の身分ではありません。なぜそう言うかというと…」
エドワードはゆっくりと頭を上げ、横目でローランを見た時、深遠な眼差しから一筋の苛烈な鋭さが流れた。口元がこの時わずかに上がり、眉尻が動く間に、誇らしげな弧を描いていた。
「師匠は往昔、沙場を駆け巡った猛将の一人であり、アーサー王が東海岸半島の基業を拓くのを補佐した股肱の功臣でした。彼は我が父王ロルスと良師益友の深い関係にあり、さらにはティロス王国に今残る唯一の遺存の将星なのです。」
「先王アーサー王が逝去した後、師匠は父王が宮中に留まって宰輔の職に就くよう勧める心意を辞退し、町で鍛冶屋としての仕事に専念しました。しかしこれまでの年月で、宮廷の変わり目を決して忘れず、これが師匠が我が招きに応じてライオンハート城の辺境に来た重要な理由です。」
言葉の余韻がローランの耳朶に漂うや否や、エドワードは身を回してウルフトの後ろに回り、慈父の広い背中を仰ぐように、眼に柔らかい光を湛えて肩を揉みほぐした。
「どうですか師匠、この力加減は気に入りましたか?」
ウルフトは唇を尖らせ、エドワードの穏やかな笑顔を見上げ、自らの髭を撫でながら高らかに笑い、「まあまあだな」と言った。
まるでこの世界から完全に排除されたかのように、ローランは体がくたりと崩れて幕にぶつかり、震え続ける背筋を無理に伸ばし、呆然と目を凝らして目の前で繰り広げられる和やかな光景を見つめ、我慢できずに声をかけた。
「エドワード総督殿下、お伺いします…貴方とこの長者、一体どのような関係なのですか?」
「好奇心が強いのですね?」
エドワードは眉を上げてほのかな微笑を浮かべた、話題を転じて喜んで言った。
「こちらは俺に兵法を教えた師匠、ウルフト・イングリー・グーテンベルク様です。偉大な伝説の人物で、兵法の造詣だけでも大将軍レイモンが自ら劣ると思うほどです!」
「おいエドよ、いつからお世辞を言うようになったんだ?」
エドワードの露骨な賛美を静かに聞いたウルフトは、すぐに笑顔を輝かせ、髭を撫でながら語り始めた。
「お前の口先の甘い言葉を聞いて、老夫の心は蜜を塗られたようで沁み渡るよ。」
「師匠、それは誤解ですよ。師匠の前では、俺の言う一言一句がすべて真心ですから。」
エドワードは忽ち身をかがめてウルフトの首に後ろから抱きつき、大きくならない子供のように、ウルフトの髭だらけの荒れた頬を必死に擦り寄った。その時、横目でローランの顔に纏っていた恐怖が消え去るのを見て、急に頭を上げ、陣幕の天井に漂う細かな光塵を仰いだ。続いて指を赤みを帯びた頬に突き。
「大将軍レイモンの話ですが、彼が伝書鳩で間に合わせて知らせてくれなければ…俺は今も欺かれていたでしょう。正真正銘の暴君のために、北国の寂しい景色を守っていたのです。」
言い終えると、元々溢れていた子供っぽさが一瞬で引っ込み、先のいたずらな様子とは別人のようだった。口角の微笑を隠し、森寒い夜に晴れやかな仮面を被せ、月の光を鍛え上げた松明のように明るい眼光を、恍惚とした表情のローランに惜しみなく投げかけた。
「ローラン、正直に言うと、俺は君を尊敬し、騎士の高潔な精神を守る君を敬服しています。だから、冷静に考えてください。国民を迫害する暴君に引き続き従うか、それとも俺に仕え、共に傾きかけた国家を救うか。」
二歩前に出て、エドワードは横目で低い卓の傍らに捨てられた紫い袍を一瞥し、爽やかな笑顔でローランの前に来た。指を伸ばして彼の頬に残った汗を拭い、続いて指先をわずかに曲げ、まつ毛が震える波紋を軽やかに撫で、額の前に揺れる髪を耳にかけた。すぐに眉間に集まった憂いを和らげ、澄んだ声で言った。
「明日正午、俺は都市中心の広場で、ライオンハート城がティロス王国から独立することを正式に宣言します。以後、ライオンハート城は独立勢力として、ティロスの暴政と苛政に抗います。宣誓の前に、俺は君の返事を待ちます。」
一言語り終えると、エドワードは淡々と息を吐き、身を回してウルフトの傍らに歩み寄り、腰をかがめて立たせた。その時、先に台所へ命じられた衛兵が帷を捲り、左手に持ったトレイに載せた二つの湯気を立てる木椀を平穏に運んできた。身をかがめて、二人が近づく足音を待ち受けた。
突然、門口へ向かう途中で、ウルフトは空中に浮かんだ足を止めた、頭を巡らせてまだその場に残るローランを見た。照らくさそうに後頭部を掻き、頑丈な殻のように張り付いていた顔に広がる赤みが、徐々に緩み始め、硬い外見の下に潜んでいた優しい顔を現した。
「少年、ごめん。先に恐がらせてしまった。」
言い終えると、再び足を上げ、背負っていた重荷を下ろしたように軽やかに歩き出し、陣幕を出た。その温和な長者の消える後ろ姿を眺めながら、ローランの心臓が空中で締め付けられ、眉の先に濃い切なさが浮かんだ。
エドワードは衛兵に数言を告げると、振り返り、心を酔わせるような甘い笑を浮かべ、いつの間にか入口に来てウルフトの去った方向をぼんやりと見つめるローランを見た。
音もなく近づき、手を挙げて優しく彼の頭を覆った。浅桜色の薄い唇を軽く開き、午後の陽射しの中で最も明るい光の束を映し出した。
「肉粥を食べるのを忘れないでね。明日、待っている。」
エドワードの滑り落ちる指が彼の赤くなった鼻先を舞い踊るように軽やかに触れるまで、ローランはウルフトの穏やかな笑顔からようやく立ち直った。
彼はエドワードが角で足を止め、向かって走ってくるズノーや甲斐と洒脱な様子で話す姿を目送った。閃光のように明るい笑顔を拝見した瞬間、苦い感情がより一層現実的に胸に湧き上がった。去りゆくぼんやりとした後ろ姿を見つめながら、ローランは臆病に口を開き、小声で言った。
「殿下…」




