第十七話 分裂の前夜
秋の秘密は、ひょっとすると蕭々と降る夕立の中に潜んでいるのかもしれない。小粒の雫がカチッと音を立て、木の根元に積もった火紅色の落葉に落ちた。
風に吹かれ、雨に洗われて本来薄弱で霊妙な鮮やかさは、瞬き間に裂変の炬火のように、サササと清冷な地面全体を燃やし上げた。
森の霧が立ち込め、ライオンハート城を取り巻く濃厚な秋意は、湖面の晴れやかな波紋が散っていくようで、美人の薄化粧のような朧げな美しさを漂わせている。
この美しい風景は秋に飾り付けられ、徐々に謎めいた色合いに変わり、北國の変わらない荒涼で蒼泠な雰囲気の仮想を打ち破った。
舞い飛び跳ねる真っ赤な色は、ジャガン平原の死んだような静けさの下で、拗ねて咲き誇る一面の虞美人と多くの類似点がある。
霧の影の中で踊るように浮かぶ流れるような色は、乙女の精緻な心のように、翠みがかって無邪気である。果てしなく重なる青い木陰は、幽霊がさまようような雰囲気だった。一筋の秋風が林の隙間を抜け、梢枝で眠っていたスズメを驚かせた。
さえずる声が三尺離れたところで、ただ一人の騎兵が馬を走らせていた。彼は軍令旗を背負い、林の影の中をすり抜け、城壁の上にあるお雄々しく傲然な「金紋獅子頭」王旗が、視界に最初に映った。
蹄の音が城門から十歩離れたところに落ちた時、塔楼の頂上に立っている「吟月鳳凰」の軍旗が風に翻り、天狗のような薄霧を吹き飛ばし、その後ろに隠れた暖かい陽を明らかにした。
「早く城門を開け!王都から派遣された羽翎衛だ。陛下の聖諭をライオンハート城のエドワード総督様に届けに来た!」
「来人、止まれ。」
二枚の重いオークの扉が「ギィ」という音を立ててゆっくり開き、扉枠からはヒンジの芯軸が回転する時の鈍い摩擦音が伝わってきた。それはまるで錆びた歯車が噛み合うように、渋滞した鈍い音を立てていた。扉軸の奥から重苦しい震えが伝わり、地面すら微かに揺れていた。
光の粒が初めて開いた扉の隙間に漏れいると、内部に取り付けられた純鉄製の閘門が、半開の扉に続いてゆっくり上昇した。泥を振り落とす鉄の棘はまるで毒蛇の牙のようで、致命的な冷たさを放っていた。鉄の閘門と扉槽が摩擦して細かい火花を紛らし、薄暗い光線の中で明滅していた。
この時、一人の騎兵が身をかがめて飛び出し、矛を突き立てて羽翎衛の前に止まった。
「エドワード総督はすでに軍営の幕舎で長い間待っていらっしゃる。王都から来られた貴使の案内をするよう、特に私を遣わしたのです。」
男は鞍にしっかり座り、矛を抱えて腰を折り、黒馬の尾のように後ろで束ねた髪を振り、誠実に笑った。馬を振り向かせ、羽翎衛を率いて城門に行った。
長矛を使い、玄鉄の黒鎧の上に「鳳凰」の模様の黒い袍を着た、儒雅で立ち居が優雅な将軍は、まさにエドワード配下の「銀鳳隊」五大千騎長の一人――ライン・G・ジョージだった。
城内に入ると、まだ一丈ほど離れた所で、豪快な笑い声が迎えてきた。
「ライン、この方は王都から遠く来た貴客か?」
ザント・インジェルが軽騎兵を率いてすれ違い、笑い声が消えゆく頃、すでに扉槽に嵌め込まれた閘門から、次々と騎兵隊が飛び出していた――ザントが率いた部隊の蹄の音が遠ざかり、最後の騎士の姿が林の霧に溶け込んだ時、城壁の上で見下ろしていた兵士隊長が急に腕を振り下ろした。
それはまるで鋭い刃で凝滞した空気を断ち切るかのような動作で、その合図は石段を伝って城楼の底深くまで瞬時に伝わった。
すでに静かな操縦室で待機していた守衛はすぐに背中を張り、満月の弓の弦のように力を貯めた。一瞬も止まることなく、制御する閘門と城門の二基の滑車絞盤装置の間を素早く行き来した――その二基の巨大な機械は左右に配置され、石壁の凹みに伏している沈黙の巨獣のようだった。
守衛の両手は稲妻のように伸び、熟練した手際で絞盤の芯軸穴から固定ピンを素早く抜き取った。すると、城壁の奥から雷鳴のような重い轟音が響き、まるで地底に潜む竜が目覚めたかのようだった!
束縛を失ったヒンジは瞬きのうちに桎梏を解き、鉄鎖は巨大な滑車組の中を疾走し、歯車の噛み合う音と芯軸の摩擦音が交じり合い、無数の鉄甲戦士が暗闇で叫び衝突するような音を立てた。
重い閘門が天井の暗い溝から轟き落ち、城門側の絞盤も同時に重苦しく軋み音を立て、厚いオークの扉が鉄索に引かれてゆっくり閉じていった。
二本の鋼鉄の防壁が閉じる音が甬道で轟き、石壁の松明の光が乱れ、要塞都市全体の防衛システムが瞬きのうちに金城湯池のような死寂に閉じ込められた。
ラインは振り返り、天王山のように降り注ぐ二本の防壁を見上げ、傍の羽翎衛の額に流れる汗をちらりと見て、邪魅な笑みを浮かべた。
「そうだ。」
実は、この羽翎衛がマハ宮でロルスから直接密詔を受け取り、王都を飛び出した時から、元宰相の邸宅では既に三名の伝書鳩が放たれていた。
その三名の伝書鳩が向かう先は、それぞれ――多瑠城の領地を賜ったグロスター二皇子、三皇子ホーエンスが城主を務めるミシビア港湾要塞、そして夫であるエドワード大皇子と共に北國の辺境に赴き、融雪のような優しい目で寄り添う娘サンタンヘラがいるライオンハート城だった。
ヒリンは娘ヘラをエドワードに嫁げた瞬間から、心の中で密かに決意を固めた。アンナウィア王妃が遺した四人の子供を、自分の命で守り抜く覚悟だ。今日も、その誓を胸に刻み、勇敢に闘っている。
今年の秋が始まる頃、空気の中に漂う哀婉な色が、少しずつ濃くなり、人々の周りに静かに染み込んでいった。そして気づかぬうちに、王都――クロオスク全体が物憂げな美で包まれた、あの瞬間…
ロルス国王がマハ宮で開く御前円卓会議で、政体を変更し、ティロスの中央体制を君主集権の専制制度へと移行すると宣言する日だ。
もしロルスが自分の気持ちだけで独断専行を貫くなら、北方の聖ゼアン帝国を怒らせるだけでなく、国内で爵位を授けられた大小の領主たちは、必ず私兵を集めて蜂起し。武力的な形式を採用する、先王アーサー王の時代から累々とした勲功を積み重ねて手に入れた地位と権利を守ろうとするだろう。
その時が来れば、たとえ聖ゼアン帝国が「僭越」の罪を着せて、世界秩序に公然と挑戦し、七大帝国の列に加わろうとするティロス王国を出兵討伐がなくても、領主たちは兵を挙げて乱を起こし、城を割って王になろうとするだろう。
そうなれば、先王アーサー王の時代に苦心して固めた東海岸半島の統一局面は、再び百国が覇を競い、戦火が飛び交う混乱の時代に逆戻りする。そうなれば、ロルスは「国を亡ぼし乱す」という罪を背負い、ティロス建国以来初めての暴君となるだろう。
この危機を防ぐため、ヒリンは聖顔を冒す覚悟を抱き、大将軍レイモンを筆頭に数人の宮廷大臣と連ね、手書きの血書をロルスこの心高い君王に提出、死を賭して諌めた。
残された思い出の中のかすかな希望を守り続け、かつて英知に溢れ賢明で、国民に支えられ愛されたロルス王太子殿下を蘇らせようと願っていた。
しかしながら、ヒリンがマハ宮の門をくぐった瞬間、目に飛び込んできたのは、自分の宰相の席がウィンザー王后の父親サーシェルに占拠されている光景だった。
一方、御座に座るロルスはこの事態を無関心に装い、心の底では国丈であるサーシェルの権限を越えた行為を黙認していた。
ヒリンは今に至るまで、いつもの成熟した落ち着きを保ち、大将軍レイモンを諭して落ち着かせ、その後ろに向かって歩いていった。サーシェルが表面に出した得意そうな様子を見て、仕方なく末席に座った。
そして起こったこれらの出来事は、主位にしっかりと座るロルスによって、すべて目に収められていた。彼は口角を軽く上げ、ヒリンの震えるまつ毛の間をちらりと見て、自然にほのかな笑みを浮かべた。
手のひらを組んでテーブルに置き、大臣たちを見渡す目つきに、逆らえない威厳を漂わせていた。
「それでは、始めましょう。」
この一連の驚きと疑念は、まるでライオンハート城上空を湧き上がる霧の潮流のように、太陽の薄い光を遮り、街全体に飾られた炎華と相まって、まるで縹緲な仙境に身を置いたかのようだった。
羽翎衛は馬を駆っでラインの後ろを追い、次々と軍営門前で両側に立てられた拒馬を移動させた。蹄の音が霧の影の中で広がる頃、道の両脇に燃える松明が、エドワードがいる幕舎を照らし出した。
驚きの余り、羽翎衛は気づいた。いつの間にか濃い霧の中に、二列の歩兵が厳粛に整列した顔が現れていたのだ。彼らは高く松明を挙げ、光の果てに立つローウェンが「指揮令旗」を振るう落ち着いた姿を映し出していた。
「どうぞ。ローウェンが兵士たちに命じ、私たちが幕舎へ向かう通路を作ってくれました。」
ラインは落ち着いて馬から降り、手に持っていた戦馬の手綱と矛を近づいてきた親衛に渡した。そして振り返り、鞍に座ったまま愕然としている羽翎衛に優しく言った。
優しそうなこの言葉は、しかし耳にしただけで戦慄するような恐怖を放っていた。羽翎衛がラインの手振りに従って馬から降りると、なんと背中に冷たい空気が包み込むような清涼感が伝わってきた。
地面に触れた足先はまるで水面を踏むようで、渦巻く霧が波紋を広げた。ラインの瞳の中に閃く暗い輝きを見た時、彼はようやく悟った――朝霜が大地に咲く頃から、自分の一挙手一投足はすでにライオンハート城によって厳密に監視されていたのだ。
彼は、目の前の穏やかな風貌な将軍に従って幕舎に入った時、国王陛下から託された任務を果たす勇気がまだ残っているのかどうか、想像すらできなかった。さらに、エドワード殿下が陛下の聖断を聞いた後、どんな気持ちで、どんな目つきで自分を見つめるだろうか…それすらわからなかった。
そう考えると、この羽翎衛は身の毛もよだつほど恐れおののきながら目を上げたが、すでに一人の青年が真っ先に視界に飛び込んできた。その男子こそ、当朝の大将軍レイモンの息子甲斐だった。
彼が幕を開けると、その向こうにエドワードとズノーの両皇子の凛然とした笑顔が幾重の霧影を突き抜けて、羽翎衛の恐慌に揺れる目に突き刺さった。
足元がまるで千均の錠で縛られたように重く、ラインが前方でどんなに呼びかけても、彼は半歩も進めなくなった。胸にたまった切なさが、墨の染みのように震える顔にゆっくりと滲み広がり、目がかすみ、息を吸うたびに霧のようなものが心臓と肺に入り込むような感じがした。




