第十四話 想いを越える虹の橋
未明三四時の空はまだ薄暗く、月光が大地を銀色に照らす輝きが、生き物を夢の中で酔わせている。
しかし、ライオンハート城の総督府地下一階にある競技場では、壁に燃える沸き立つ炎の光が、陰気で暗い雰囲気をすでに払いのけていた。
ここには、炎の光に包まれた二つの姿があり、手に握った鉄剣で次々と襲い着る鬼のような残魂を切り裂いていた。
目に込められた青い光が、鏡面のようなキラキラ光る剣身にジャガン平原の戦いで倒れた悲壮な最期を遂げた戦士の姿を映し出していた。
この戦いを直接経験してはいないが、二人の剣の影の下で飛び散る汗は、まるで人々の骨に刻まれた惨敗の痕跡を、自分たちの熱血で消し去ろうとしているかのようだった。
「殿下、あなたの剣術はもう僕に追いつきそうですよ。」
甲斐は腕を曲げて廊下の欄干にもたれかかり、横になって、そばに立って肩巾を手に持って額の汗を拭っている少年――ズノーを、顔を傾けて見ていた。
一筋の朝の光が二人の汗で濡れた髪に降り注ぐ頃、そよ風が甲斐の欄干の外に垂れ下がる長い髪をかき揚げ、隙間から覗く輝く雫が朝の光に暈されて、点々の金色を放った。
ズノーは話しかける声の方へ顔を向け、体をひねった。
甲斐の眉間に寄せられた怠惰な色をちらりと見た瞬間、彼の上がった唇に甘い笑みが浮かんだ。
「本当にごめんな、甲斐。」
「ん?」
甲斐は眉毛をひょいと上げ、肩をすくめながら空中から放られた淡青色のタオルを受け取り、上側の美しい双生花模様の刺繍に気づかず、そのまま顔にかぶせた。
「殿下、あなたの言葉の意味がよくわかりません。なぜ突然で僕に謝るんですか?」
ズノーは両手を組んで頭上に回し、甲斐に向き合うと、彼の目尻に煌めく一点の光を正確に捉え、深い欠伸をしながら大きく伸びをした。
「つまり、この半月間いつも真夜中にあなたを暖かい布団から引きずり出し、寒い地下競技場に連れて行って剣の練習をさせて、だから申し訳なく思って謝っているんです。」
「そういうことだったのですね!殿下、気にしないでください。」
甲斐は五本の指でタオルに咲いている青いバラの刺繍を急に掴み、乱暴に髪に染み込んだ油光っぽさを拭き取り、手放しでタオルを欄干に掛け、爽やかに笑った。
「だって僕は殿下の家臣だから。主君の憂いを分かつのであれ、剣術を上達させるのを手伝であれ、これは僕が家臣として果たすべき職務と義務です。」
「それに、僕たちは今やエドワード大皇子という精神的な指導者を失い、軍隊の萎れた士気に、蔦のように絡みついている。今すぐ賢明な継承者が必要だ。僕たち臣民を、悲しみの川で築られた壕溝を越えさせるために。」
片指でひっぱり上げ、甲斐はタオルの隅をつまみ、自然に肩にかけた。
「殿下、もしもあなたの成長が、王都を出発する前のあのような浅はかさに留まっているのなら、それこそ僕の万死失職です。」
「逆に言えば…」
彼は言葉の最後を強く噛み、ズノーの眸に迷いを払い去った澄み切った明るさをまっすぐに見つめ、両手を組んで深くお辞儀をし、率直的に語った。
「今日のような脱皮した変化と進歩を目にすると、心から嬉しく思います!そして、このライオンハート城に住む民たちにとっても幸いです。」
一言を発するや否や、彼は手を紺色のローブの裏地に差し入れ、髪紐を抜き出した。指先で長い髪をそっと後ろに巻き上げて束ねる、すばやく引き締めると、髪紐が三日月の弓弦のようにピッタリと締まった。その後、優雅に笑った。
「なぜなら、彼らのズノー皇子が、先任の総督エドワード殿下が残した重責を背負い、戦火と死の侵攻で荒れ果てたこの辺境を守り、安寧で貴重な平凡な生活を守るからです。」
甲斐は左足を欄干にかけ、上体を急に前に傾け、跳ね上がる足先の朝陽と水平な直線を作った。
「なぜなら、これからエドワード大皇子の遺志きを継ぐ人が、こんなに立派だから…大皇子殿下も九泉の下で目を閉じられるでしょう。」
二人が合わせた手のひらが、空気中な圧迫感を払いのけた。明るい朝の暁光が完全に目に見えない高さまで昇った時、ズノーは指の隙間に絡み合った手を握りしめ、瞳に一瞬目の凛然な光がよぎった。
「甲斐、あなたは私にこんなに信頼しているのですか?皇兄の代わりに彼らの心に入り、悪戦の恐怖から立ち直った軍隊を率い、ジャガン平原の恥辱を晴らすことができると?」
「それは当然です!君はティロス王国の第十三皇子、エドワード皇子が夢の中で意志を託した実弟だから。」
二人が合わせた手が右肩をぶつけ、その瞬間、まるで広大な蒼穹から降り注ぐ光のように、体が寄り添う隙間に吸い込まれるほどの輝きがあった。
「もし誰かが殿下に反対したり、統帥能力を疑ったりしたら…初めてライオンハート城に来た時のように、礼儀を知らない騎士を叩き直すように、徹底的に懲らしめます。」
甲斐は拳を握りしめ、傍の朱塗りの角柱に激しく叩きつけた。柱頭がふるえ、灰色の塵が舞い落ち、二人の足先に降り注いだ。ズノーは甲斐の目の奥に雄々しく躍動する猛烈な炎を呆然と見つめ、周囲に放たれる圧倒的な気迫を感じ、この質素な建物を飲み込みそうな勢いに驚いた。慌てて両手を甲斐の怒りで昂奮し震える肩にかけ、驚きながら苦笑いを浮かべた。
「甲斐、落ち着いてください。まだ朝ですよ。こんなに大きな動静を立てると、みんなを起こしてしまいます。」
言い終わると、ズノーは怒りが収まりつつある甲斐を廊下に連れて座らせ、人差指を唇に軽く当てた。
「それに、ヘラ皇嫂はまだ妊娠中です。彼女を驚かせて胎気を動かせば、皇兄はきっと私を許さないでしょう。」
ライオンハート城から7ファデル以外の森の中では、馬具の束縛から解放された二匹の駑馬が、一夜の休息を経て、今や元気いっぱいに地面に生える湿った草を噛み付けていた。純黒の鎧を着た十名の騎兵が馬鞍から降り、自分の優美戦馬にそばを寄せて木の幹に寄りかかり、ぐっすり眠っていた。背中にかけた黒いマントが、深夜の冷たい風を防ぐ唯一の寝具となっていた。
馬車の前部にある閉じた小さな扉にかかっていた紗の暖簾は、もともと戸棚の縁にピッタリと吊るされていたものだったが、取り外されて寝具として使われ、若い乙女の愛らしい体を包み込み。その布は寝衣から少し覗く芳しい肩まで流れていた。
エドワードは膝の上に枕のようにしているレイを見下ろし、指で彼女の玉のような美しく嬌俏な顔を隠す髪をかき分けた。まるで甘えん坊の小妖精を眺めているかのように、あるいは何年も前、歩き始めたばかりのズノーが、真夜中にこっそりと自分のベッドに上がってくる様子を思い出しているかのようだった。
翌日、不思議に思う余り。それでも嫌そうな顔をして、その小さな子をマリアーナ殿下の寝宮に送り返されたが。しかし、自分が振り返って玄関に向かって歩き出した時、背後から聞こえてきたのは、泣きやんで笑い、乳臭さを帯びた「皇兄」という声だった。それは実にエドワードの心の底に凝固した氷を暖めた。
目の前によぎった過去の光景を思い出しながら、エドワードの緩んだ眉には春陽のような温かみが漂っていた。
「この小娘、俺のバカ弟に似ているな…特に強情なところがそっくりだ。二人は仲良くなるだろうか。」
レイの小さな頭を毛布にそっと置き、馬車の後部の登車梯を降りると、エドワードは眠っているレイの夢語を聞きながら会心の笑みを浮かべ、二枚の紗幕を静かに下ろした。
天窮の下で直接野宿し、同衾で眠る兵士たちを見て、エドワードは眉をひそめ、背中の「臥月銀獅」模様の紫袍を脱ぎ、若い兵士の体にかけた。
左手を腰に当て、立てた右手の小指を軽く曲げ、眉尻についた露を払った。翡翠のような緑で輝く茂った木の梢を透かし。輝く太陽を仰ぐと、まるで天才の画家が単調な青空をキャンバスに、色とりどりの雲を描くようだった。
遠くの山から虹が滑り落ちるのを見て、エドワードは長い息を吐いた。
一方、ライオンハート城の総督府にある「獅冕閣」の廊道では、美貌の婦人が囲栏の曲がり角に立ち、地下競技場入口の玄関廊下を見ていた。
そこには二名の若者が地に座り、体をねじ曲げて欄干に寄りかかり。屋敷内の脇屋でぐっすり眠っている人々を起こさないように、彼らは軍隊で慣用される手振りジェスチャーで、趣のある会話を交わしていた。
彼女は隆起した腹部に手を当て、優しい笑顔を浮かべた。子宮の中で躍動する小さな命を感じながら、まるで天の明るい日差しのように、新しい一日の活力に満ちているかのようだった。7ファデルの距離を隔てたエドワードとヘラが、今この瞬間、虹の光を放つ昇る日輪を通じて、互いの想いを結んでいるように感じられた。
「ヘラ。」
「エドワード…」
二人が互いの存在を呼び合う声は、古くから伝わる織姫星の神話のように、りんねの弧を切り裂いていた。まるでその虹が見えざる形で、世間をさまよう鈍った心をしっかりと結びつけるかのようだった。
この瞬間、大地の母が賜る恵みのように、時空の潮汐から無限の未来へと分かれ。互いへの想いを曼珠沙華の鮮やかな赤に変え、風の使者の無言の中に託す。




