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この山河は誰に傾くのだろう~  作者: 上村将幸
紅葉ノ別

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第十一話 生変

日出する国の陸軍大臣・村上幸と海軍大臣・元清川は、ちょうどティロス王国への使節船団を率いてミシデ海峡を迂回していたところ、船団の偵察艦が世界の海の四分の一を覆うプトラ大洋に差し掛かる直前だった。


暗流が潜む大海原を越えた遙か彼方で、日出する国の京都御所に広がる光景は、人々を驚かせるほどだった。


まるで国門が強敵に攻め落とされたかのように、荒れ狂う戦火が京都の空に漂う死の狼煙と共に、誰もの心を襲っていた。繁華街の景色を引き立てる宵の艶やかなピンク色さえも奪っていた。


京都御所・清涼殿。


御所の清涼殿内では、初代女性天皇・秋篠宮優雪が「高御座」に座る優美な姿が、眉間に皺を寄せた愁いの表情に取って代わられていた。


彼女は、倉皇とした表情を浮かべ、目の前五歩のところに跪き、九州島の前線戦報を持参した御宸使をじっと見つめていた。


「何?」


彼女は細い指をねじりしめ、高御座の御手すりに垂れ下がった袖の袍が、風に煽られて揺れ動いた。しかし、袖に縫い取られた「雪の中で緋色の桜が舞い散る」の模様が、どんなに優雅で美しいものでも、彼女の顔に浮かぶ憂いの色を隠すことはできなかった。


「絹の国の南海水師が先日、我が日本海の防線を突破したのに、なぜ今日まで報告しなかったのですか?」


「陛下…」


「長崎藩領の安藤将軍はどうした?彼は兵を出して阻止しなかったのですか?」


「陛下、あなたは安藤俊秀という長崎藩領をあまりにも重視しすぎているようです。」


御宸使が清涼殿に入ってから、空気中に漂う抑圧感は晴れることなく続いていた。そして、その御宸使が天皇に詰問されると、肩を落として口ごもるしかなかった。


その時、殿堂の左側の次席に跪いて座るしていた若手大臣が突然割り込み、気まずい雰囲気を破った。


秋篠宮優雪は横目でゆっくり首を振る青年を見つめ、厳しいの口調で質問した。


「林外務相がそう断言する以上、必ず内情を知っているはずですね?」


林文は立ち上がり、袿の裾に付いたほこりを払い、席を立って高御座に座る秋篠宮優雪に深々とお辞儀をした。そして、浅い笑みを浮かべながら御宸使の半歩前に跪いた。


「長崎藩領は、陛下が即位して以来、何度も長崎が日本海の門戸であるという理由で、京都に参内するのを断ってきました。」


彼は両手を胸前で組、腰を弯めて辞儀をした。


「そして、陛下が臣に外務を統括させてから、俺は何度も地方藩領の不審な動きを密かに探らせてきました。特に、日出する国の要衝地帯である長崎地方です。」


「林外務相、本当にお疲れ様ですね。」


秋篠宮優雪は高御座から立ち上がり、指先で軽く動かして御宸使に退席を促し、目を閉じて林文から投げかけられた視線を受け止めた。


「我々が日出する国の対外邦交網を再建するために、平日はもう頭が回らないほど忙しいはずです。それなのに、余裕を持って本国の官僚の底細を調べていたなんて。しかも、私この天皇に隠れて調べていたのですね。」


「本当に大胆不敵ですね。」


「陛下、怒りを鎮めてください。」


殿堂の右側に正座ていた諸大臣の中から、突然落ち着いた声が上がった。声の主はゆっくりと林文のそばまで移り、のんびりと跪いた。すると、秋篠宮優雪の眉間に凝り固まっていた怒りが、自然と声のする方へと移り、彼の頭に飾られた垂れ纓の冠に落ちた。


「木村文部相、この度林外務相を弁護するのは、旧交の情からではなく、むしろ覚悟を決めて説得に来たのですね?」


「さあ…十全の自信はありませんね。」


木村洋介は言葉の重さを感じ、下げた額がほとんど赤錦のカーペットに近づくほどだった。小声でつぶやいた。


「なぜなら、これらはその日依都港で、元清川と村上幸が率いる使節船団がティロス王国ために出発前に、元清川が我々に密かに行うよう指示した役人の監察業務だからだ。」


まるで彼のひそかな独り言が、揺らめく光と影の中で無限に広がっていくかのようだ。秋篠宮優雪の眉がパット開き、指腹で袖の袍に刺繍された、春の日に舞う零細な雪桜の花びらを映し出す柄を撫でた。


「あや、そうですか?軍権を握る両位の大臣が引き継いだ仕事なら、心の中で何度も検討を重ね、信頼できるあなた方にお任せすることに決めたのでしょう。」


「彼らはいつも意外な角度から、声を立てずに私の身辺の隠れた危険を取り除いてくれるからです。」


秋篠宮優雪はくすっと笑い、指先を少し曲げて胸元で舞う一筋の髪をかき分けた。精緻な顔立ちに酔いどれたような赤みが広がり、晩秋に舞う紅葉のように、心の底のときめきを映し出していた。急いで空を見上げ、淡いに染まった薄明かりを受けて「白御衣」の翻る裾をつまみ、顔を覆って小声で言った。


「本当に、あの二人はいつも心配性だわ。私の天皇としての能力をそんなに信用していないの?」


この言葉が落ちると、秋篠宮優雪の眉間の憂いが少し和らぎ、揺れる袖が林文と木村洋介の頭を撫で、ゆっくりと高御座に戻った。


秋篠宮優雪の視線が林文の身上に落ちた一筋の光が、彼の姿を照らした。


「それなら、続けて話しなさい。」


天皇の許可を得て、林文はほっと息をつき、目尻に複雑な色を隠しながら、木村洋介の淡々とした視線とぶつかった。まるで後者が「礼はいらない」と無言で伝えているかのようだった。


二人の笑顔が風に揺れ、殿内の明るい蝋燭の火の中で、岩のように揺るぎない友情を映し出していた。まるで神聖な輝きを交錯する時空に浸透させ、波紋を散らすほどの力を秘めているかのようだ。


その後、林文は目を少し上げ、秋篠宮優雪が軽やかに舞い降りた濃い青の裾に触れた。


「臣はすでに調査しました。長崎藩領の安藤俊秀将軍は、以前から絹の国の上層官員と密かに交際していたのです。」


「今回、絹の国の南海水師が突然大軍で押し寄せたのは、必ずこの男の企てがあるはずです。」


「関白大臣、私は間違っているでしょうか?」


林文の言葉が落ちると、秋篠宮優雪は暗い顔を上げ、殿堂の左側の首席に正座ている年配の男の垂れた頭に目を落とした。切ない悲しみが、瞬く目に湧き上がった。


「今、国の根幹は固まらず、藩領が敵国の狼師を引き寄せている…まさか、これが朕の徳のなさゆえなのでしょうか?」


その時、「関白大臣」と呼ばれる老者がゆっくりと顔を上げた。蝋燭の火が彼の銀白の髪に斑模様の光を落とした。長い沈黙の後、落ち着いた声がその暗い唇から漂い出た。


「陛下、どうかご自己卑下なさらないでください。もし当初陛下が我々を導いてくださらなければ、今日の日出する国の復興と再建などあり得ませんでした。」


「もし陛下が神武の力でこの古い大地に付着した陰を払ってくださらなければ、恐れはや、今の日出する国が再び戦国の乱世、大名が割拠する混乱した状況に陥るだろう。」


言い終わると、彼は枯れた木の蝶のような枯れた黄色い指を伸ばし、震え続けながらひからびてくぼんだ眼窩に近づいた。その瞬間、清涼殿の中で立ち昇る光の隙間が彼の両目に差し込み、まるで二つの深い穴に吸い込まれるように、少しの波紋も立たなかった。


「僕上村幸哉という老骨さえ、京都に降り注ぐ暖陽を浴びることはできませんでした。このすべて、そして国民が少しずつ安寧で飽くまで食べられる生活に至ったのは、すべて陛下の功徳のおかげです。」


彼はよろよろと立ち上がり、よちよちと林文と木村洋介の前まで歩いてきた。ゆっくりと腰を弯め、この二人――日出する国の希望を象徴する若者を支え起こした。そして慎重に振り返、秋篠宮優雪を見上げた。


「地方藩領が行動を起こさないのは、敵国の陰謀と密かに関係しているからです。陛下が事前に防ぐことなど、どうしようもありませんでした。」


「そして長崎藩領が私慾に膨らみ、外敵と結んで国門を侵すなど、老臣にも見逃しの責があります。」


言い終わると、上村幸哉は体を微かに震わせ、ひざまずいた。そして体を揺らしながら両手を地面につけ、額をカーペットに近づけると、しわだらけの目尻から涙が数粒落ちた。それは淡い水溜まりを作りながら広がっていった。


「どうか陛下、罰をお与えください。」


「関白大臣、起きてください。」


秋篠宮優雪は目尻に隠れた潤いを拭い、すぐに上村幸哉の前まで駆け寄り、その優しい長者を支え起こした。


「昔、危機の時にあなたが家臣を率いて立ち上がり、反乱軍の手から瀕死の私を救ってくださらなければ…」


彼女は指先で優して、上村幸哉の年月が刻んだ頬を撫で、袖をつかんで頬の上に這い寄る涙をぬぐった。そして哀しみに目を垂れた。


「私が新制を開き、瀕死の日出する国を再生の道に導く機会など、どうして得られたでしょう。」


「すべてあなたの全面的な協力のおかげです。私が今日ここに立っているのは、あなたのおかげです。」


彼女は上村幸哉の背後にいる木村洋介と林文を振り返り、左右の臣下に目を留めた。


「あなた方がいるからこそ、私は傾きかけた山河を支えることができたのです。」


「禀報陛下…九州島全域は既に絹の国の南海水師に占領されました。長崎藩領は敵に寝返りました。」


彼女の言葉にまだ残る優しさが天井に揺れていたところに、別の御宸使が急いで報告に駆け付けた。


人影が玄関に届く前から、慌てた声が焦燥の波と共に清涼殿に押し寄せた。


凝らされた視線の中に一筋の光が走り、瞬く間に庭に植えられた藤ノ木に注がれた。彼女は指で袍の裾に縫い付けられたその舞い飛ぶ雪桜の花びらをつまみ、門扉に懸かる光影に逆さまに写った。


「国防を担当う二つの大臣はまだ帰国していません。しかし敵寇は既に我が国境を襲っています…」


「伝令、水陸の将領を紫宸殿に集めて議事せよ。即日より、朕が親征する。」


秋篠宮優雪は女官から手に取った彫刻の椅子を、上村幸哉に支えて座らせた。そして袖を振り、玄関外に急いで跪いた御宸使を見上げた。その嬌俏(きょうしょう)な顔に、断ち切れない決意が宿った。


「絹の国の手から失地――『九州島』を奪い返す!」


「国家が真に強くならなければ、外敵は我々を侮ることなどない。」


余韻は窓の隙間から漏れる光に溶け込み、彼女は風姿凛々と振り返、退いて席に戻った林文と木村洋介を見た。


二人は秋篠宮優雪の緋桜の唇から憑かれた力強い誓いを聞き、自然と視線を合わせた。


まるで光と影が交じる中で「ああ、これが我々の偉大な天皇陛下だ!」と無言で感慨しているかのようだった。その眼差しを捉えた関白大臣・上村幸哉は、そっと袖で目の濡れを隠した。


拭い終わると、女官が丁寧ひ陣羽織を胸に抱き、赤錦のカーペットを歩く天皇を見送った。


「我々が平和と正義を貫いてきたからこそ、絹の国は我々を軟弱だと誤解した。」


「そのため、新興の主権国家として自強と自己防衛のため、我々は遠洋のティロス王国を学ばなければならない。彼らが帝国の卑劣侵略な蚕食手段に勇気を持って、対抗する姿を真似し。抵抗と『いいえ』と言う勇気を示さねばならない。」


「そして今日こそ、日出する国が台頭から強盛へと進む第一歩だ。」


語気が急に変わると、秋篠宮優雪は着ていた「十二単白御衣」を脱ぎ、女官が差し出した「十六弁八重表菊」の陣羽織を羽織った。


雪桜の花紋が錦菊の柄と溶け合い、華やかな色を放った。そして喉に詰まった言葉を呑み込みながらも、なお躊躇(ちゅうちょ)する上村幸哉を振り返り、左手に日本刀を握った。


「今、国難が迫っている。関白大臣、後方を固める大総管をお願いできますか。そうすれば――」


彼女は体をかがめて上村幸哉の前にひざまずき。氷柔(ひょうじゅう)の御手が、彼の枯れ木のように茶褐色に古びた大きな手に覆いかぶさった。


「私が前線で戦うのを、安心して見守っていてください。」


「陛下、ご心配なく。老臣がいる限り、京都で乱が起こることはありません。」


「ただ…陛下が初めて親征なのですから…」


上村幸哉の老いた唇から漏れた懸念は途中で止まった。目の前の若い女天皇への思いやりが言い尽くせずにいたその時、彼の震える口に、天皇の温かい指がそっと当てられた。


彼女はただ目を閉じ、優しく上村幸哉に微笑みを向けた。


「私は必ず勝利の朗報を持ち帰り、あなたにお届けします。」


「天皇陛下万歳!我々は陛下が大勝して帰られるのを、心から待ち望んでおります!」


突然、林文と木村洋介が左右の臣下を率いて頭を地につけ、清らかな声が清涼殿の天井に響き渡った。その声は中に潜む闇を打ち砕いたかのようだった。


二人が顔を上げると、秋篠宮優雪はより明るい笑顔で、希望を寄せる諸大臣に応えた。


この瞬間、彼女の心に燃え上がった守護の決意は、日出する国の空に輝く光と固く結ばれた。

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僕は完璧な物語を書きたかったのですが、世の中に「完璧」という言葉があるでしょうか。執筆者がいかに浮藻絢爛の世界を描いても、創造主の神の万分の一にも及びません。それで、ほっとしました。普通に書くこと、理想に合った小説を書くことです。自分が描きたい壮大なシーンを、多くの人の目に映し出すことができるのです。「いやあ、実はけっこういいんですね」と言ってもらいたい。それで満足でした。
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