表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生したら第21王子だったけど、許嫁も侍女も姫も俺に夢中で嫉妬の嵐 モテすぎて部屋に引きこもってます  作者: マーたん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

92/124

女神に取り憑かれたウルフ

前回の物語は?

― 女神に取り憑かれたウルフ


 夜の森は、ざわめく木々の声で満ちていた。焚き火の赤が揺れ、王子とリィアナは一時の休息をとっていた。魔獣との戦いで傷を負いながらも、互いを支え合うように寄り添う二人の間には、夫婦としての絆が確かに芽生えていた。


 だが、その穏やかな時間は長く続かなかった。


「……聞こえるか?」

 ウルフが低く唸った。王子に仕える忠実な従者であり、共に多くの戦を乗り越えてきた青年だ。彼の眼差しはいつになく鋭く、何かに怯えるようでもあった。


「どうした、ウルフ?」

 王子が問いかけたとき、リィアナは一歩前に出て、彼を庇うように構える。その瞳に不安が映っていた。


 次の瞬間、ウルフの体が痙攣した。胸元を掻きむしり、呻き声をあげる。地面に崩れ落ちた彼の影が、焚き火の赤に照らされて不気味に揺らめいた。


「ウルフ!」

 王子が駆け寄ろうとした刹那、森の奥から低い囁きが響いた。


――我が器よ、ついに見つけた。


 その声は女のものだった。甘美でありながら、底知れぬ冷たさを帯びていた。


 ウルフの目が開かれたとき、そこには彼自身の光はなかった。蒼白に輝く瞳が王子とリィアナを見据え、口元が嘲るように歪む。


「やっと……肉を得た。愚かな人間ども」


 女神――かつて異界で封印された存在が、ウルフの肉体を乗っ取っていたのだ。彼女は自らを「滅びの女神セレーネ」と名乗り、その声は風と共鳴し、森全体に響き渡った。


「ウルフを返せ!」

 王子が剣を抜き放つ。しかし、女神に憑かれたウルフの体は尋常ならぬ力を帯びていた。腕を軽く振るだけで空気が裂け、王子の剣は弾き飛ばされる。


 リィアナは胸の前で祈るように手を組み、必死に呼びかけた。

「ウルフ……あなたは私たちの仲間でしょう? あなたの心は、まだそこにあるはず……!」


 その声に、一瞬だけウルフの瞳が揺らいだ。だが、女神の笑みがそれをかき消す。

「仲間? 絆? くだらぬ。私が欲するのは力、そしてこの世界そのもの」


 女神は、王子とリィアナの間に楔を打ち込もうとしていた。

「王子よ。お前が選んだのはエルフ一人……他の者を切り捨てたお前の選択が、いずれ国を滅ぼす。愛は毒だ。弱さだ。私はその弱さを利用しよう」


 王子は言葉を飲み込む。しかし、リィアナは強く首を振った。

「いいえ。愛は弱さではない。私たちの力の源……絶対に、あなたなんかに渡さない!」


 その瞬間、森が震え、焚き火の炎が吹き消された。闇の中、女神に取り憑かれたウルフが不敵に笑い、王子に向かって刃を振り下ろす。


 王子はその一撃を受け止めながら叫んだ。

「ウルフ……! お前を取り戻す! どんな犠牲を払っても!」


 剣と剣がぶつかり合い、火花が散る。戦いの行方は、まだ誰にもわからなかった。


― 精神の檻と女神の囁き


 ウルフの肉体を器とした女神セレーネは、圧倒的な力で王子を押し込んでいた。

 剣を受け止める腕が痺れ、膝が地面に沈む。それでも王子は退かない。背後にリィアナがいる――その事実が、彼を立たせていた。


「……強情な王子だ。だが、お前の剣は仲間を傷つける。わかるか? 私の刃を受け止めるたび、彼の体は蝕まれていくのだぞ」


 女神の声がウルフの口から零れる。まるで氷の針のように、王子の胸を突き刺した。

 確かにその通りだった。打ち合う度にウルフの腕には裂傷が走り、血が滴る。戦えば戦うほど、彼を傷つけてしまう。


「……クソッ!」

 王子の動きが鈍る。その隙を狙い、女神が冷笑を浮かべた。


「弱い……。やはり愛も絆も、ただの鎖だな」


 そのとき――リィアナが一歩前に進み、王子と女神の間に割って入った。

「なら、私がその鎖になるわ。王子を繋ぎ止めるための、絶対に断ち切れない鎖に」


 彼女の声は震えていなかった。蒼銀の髪を夜風になびかせ、リィアナは胸に手を当てる。

「ウルフ! 聞こえるでしょう? あなたは女神の人形なんかじゃない。私たちと笑って過ごしたあの日々、忘れていないはず!」


 その瞬間、ウルフの瞳が僅かに揺らいだ。

「……リィ、アナ……?」

 低い声が漏れる。しかしすぐに女神がその意識を押し潰す。


「黙れ!」

 怒号と共に、闇の波動が放たれ、リィアナの体が後方に吹き飛ばされた。


「リィアナ!」

 王子が彼女を抱きとめる。彼女の唇から血が滲んでいたが、目はまだ強い光を宿していた。

「……信じて。きっと、彼は戻れる」


 女神は吐き捨てるように笑った。

「戻れるだと? 愚かしい。ならば証明してみせよ。愛とやらで、この魂を縛れるというのなら」


 次の瞬間、王子の視界が闇に閉ざされた。

 気づけば彼は、黒い虚無の中に立っていた。そこには枷に繋がれたウルフが座り込み、女神の影がその上に覆いかぶさっていた。


「ここは……ウルフの心の中か!」

「そうだ。来い、王子。奪い返してみせよ……だが覚えておけ。この男を救うなら、国を救う時間を失うぞ。選べ。国か、仲間か」


 女神の囁きが、王子の胸を揺さぶった。


 ――王国を背負う覚悟と、友を守る誓い。

 その狭間で、王子の選択が試されようとしていた。


― 魂の決戦


 暗黒の虚無に響く鎖の音。

 王子は重い足を引きずりながら、囚われたウルフに近づいた。彼の全身は黒い鎖に縛られ、目の光は消えかけている。


「ウルフ……!」


 呼びかけると、彼の唇がかすかに動いた。

「……オ、レは……女神の……器……。お前……俺を斬れ……」


 その声は苦しみに満ちていた。

 だが王子は首を振り、強く言い返す。

「斬るだと? 馬鹿を言うな! 俺はお前を斬らない。お前は……俺の仲間だ!」


 その言葉に、女神の影が嗤った。

「甘い……甘すぎる。人の絆など脆いもの。今ここで、この器を壊せば全て終わるのに」


 女神は漆黒の刃を生み出し、王子へと突き立てようとする。

 その瞬間――リィアナの声が虚無に響いた。


『王子、聞いて! あなたの言葉は、必ず届く! 私も祈っている、二人の魂が繋がることを!』


 女神が一瞬動きを止めた。リィアナの祈りが精神世界に干渉してきたのだ。

 その光がウルフを覆い、彼の目にわずかな輝きが戻る。


「……リィアナ……俺は……本当に……」

 鎖を引きちぎろうと、ウルフの筋肉が震える。


 王子は叫んだ。

「思い出せ! 俺たちは血を分けた兄弟ではないが、剣を交わし、命を預け合った仲間だろう! お前は女神の器なんかじゃない!」


 その言葉に呼応するように、鎖が一本、また一本と砕け散っていく。

 女神は怒りに顔を歪めた。

「ならば見せてやろう! 愛も友情も無力だと!」


 女神は影を膨れ上がらせ、王子とウルフを飲み込もうとする。

 だが、その中でウルフが咆哮をあげた。


「俺は……ウルフだッ!! 王子と共に戦った、ただの一匹の狼だ!!」


 彼の全身から迸る光が、女神の影を焼き裂いた。

 王子はその瞬間、彼の腕を掴み、強く引き上げる。


「帰ろう、ウルフ!」


 眩い光に包まれ、虚無の世界が砕け散る。


 ――現実の戦場。

 ウルフの体を覆っていた黒き波動が霧のように消え、彼は地面に倒れ込んだ。

 王子とリィアナが駆け寄ると、彼は苦しげに息をしながらも、確かに笑っていた。


「……すまねぇ、迷惑かけたな……」


 その声に、王子もリィアナも目に涙を浮かべた。


 女神の影は完全には消えていなかった。虚空に揺らめくその残滓が、不気味な言葉を残す。

「……愚かなる者どもよ。友情も愛も束の間の幻。やがてまた……試練は訪れる……」


 そして影は消え去った。


 戦いは終わったが、確かな爪痕を残した。

 王子たちは、女神との因縁がまだ続くことを悟るのだった。

次回も楽しみに

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ