夜影団の真意ー
前回のお話は?
― 夜影団の真意
蒼と紅の光がぶつかり合い、洞窟は震え、轟音が天地を引き裂くように響き渡った。
剣と炎、意思と意思の衝突は、ただの戦闘ではなく、二つの宿命のぶつかり合いだった。
やがて、互いの力が拮抗し、爆風が洞窟を吹き荒らす。崩れ落ちる岩壁の中で、セリアは必死に魔力障壁を張り巡らせていた。
「……二人とも……っ! ここを崩したら全員生き埋めになる!」
その声に応じるかのように、仮面を割られた青年――その名を「レオン」と名乗った――が剣を収めるように一歩退いた。
だが、その瞳の紅は憎悪を増すばかり。
「蒼き契約者シオン……貴様は知らぬだろう。王国の裏に隠された罪を」
「罪……?」シオンは警戒を解かぬまま問い返す。
レオンはゆっくりと、洞窟の奥に浮かぶ黒き紋章を指差した。
「夜影団はただの賊徒ではない。我らは、王族が忘れ去った者たちの声を代弁する者だ」
セリアが息を呑む。
「まさか……それって、禁忌の実験で犠牲になった――」
レオンは嗤う。
「そうだ。貴様ら王家は、強大な魔法戦力を得るために“人の魂”を器に閉じ込めた。だが失敗作は廃棄され、俺のように……存在を否定された。夜影団は、その失われた魂の集合体。我らの目的はただ一つ――この王国を覆すことだ!」
洞窟に重苦しい沈黙が落ちる。
シオンは拳を握りしめた。
「……そんなことが……本当に……」
頭の奥に、断片的な記憶が蘇る。
血に染まった実験室、泣き叫ぶ子どもたち、王族の紋章を背負った魔法師団の影――。
「……俺の前世の記憶……」
シオンの顔が蒼白になる。
レオンは紅の瞳でシオンを射抜いた。
「お前は王の血を引きながら、犠牲者たちの叫びを忘れ、のうのうと生きている。その罪を償うのはお前の命だ!」
再び紅の炎が巻き起こる。
洞窟全体が爆ぜ、空間が歪むほどの力だった。
セリアは叫んだ。
「シオン! 信じるのは過去の罪じゃない! 今のあんた自身よ!」
その言葉に、シオンの瞳に蒼光が宿る。
「……俺は、背負うよ。過去も、罪も。けど逃げはしない!」
剣を掲げると、蒼の光が大地を走り、紅の炎と激突する。
互いの力が絡み合い、洞窟を超えて外の夜空まで閃光が溢れ出した。
――その戦いは、夜影団という存在の真実を暴き、やがて王国全土を巻き込む「大戦」への火蓋を切ることになるのだった。
―――――
― 王国全土を揺るがす戦乱
夜影団の真実が露わになった瞬間から、戦いはもはや一部の騎士団や辺境の騒乱では収まらなくなった。
王都を中心に、各地で不穏な動きが連鎖的に広がり、反乱の狼煙が次々と上がった。
◇
王都議事堂――。
議場には、王子シオン、魔導士セリア、そして老練な将軍グラード、王国評議会の重鎮たちが集っていた。
地図の上には赤い印が無数に刻まれている。それは夜影団と呼応した反乱軍、あるいは異世界から流れ込んだ傭兵集団の拠点を示していた。
「……もはや、ただの賊徒ではない。これは戦争だ」
低い声でグラードが告げる。
重臣たちがざわめく中、セリアが口を開いた。
「問題は、夜影団の戦力だけじゃない。彼らは“魂を器に閉じ込められた者たち”――つまり、人の常識を超える存在よ。人間でありながら、魔獣に近い力を持つ」
シオンは拳を握った。
「……彼らを敵として討つことは、俺たち王族の罪をさらに重ねることになる。それでも、王国を守るために戦わなければならない」
重苦しい沈黙が落ちる。だがやがて、グラードが剣を卓に叩きつけた。
「ならばやるしかあるまい。罪を認め、それを背負いながら進む。それが王族の務めだろう」
シオンは頷き、剣を握り直した。
「……必ず、終わらせる。夜影団との戦いを」
◇
同じ頃――。
荒廃した辺境の砦。
夜影団の指導者レオンは、仲間たちを前に立っていた。彼の背後には、黒き紋章が宙に浮かび、禍々しい脈動を放っている。
「時は来た。かつて我らを切り捨てた王国を滅ぼすのだ」
紅の瞳が爛々と輝く。
彼の周囲には、元兵士、元貴族の落胤、異世界から流れ込んだ傭兵、さらには器に閉じ込められた“魂の戦士”たちが集っていた。
その数は数千。しかも一人ひとりが、常人の数倍の力を持っている。
「我らは夜影団。失われた者たちの復讐の炎だ。シオン……お前から始まり、王国を血で染め上げてやる」
その宣言が、やがて全土を覆う戦乱の合図となった。
◇
王都の空には暗雲が垂れ込め、雷鳴が轟く。
王子シオンは兵たちの前に立ち、剣を掲げた。
「俺たちの戦いは――ここからだ!」
その声は、疲弊した兵士たちの胸に炎を宿し、王国全土に広がる戦争の幕が切って落とされた。
―――――
― 砂漠の幻影と黒衣の使者
夜の静寂を切り裂くように、砂漠を渡る風が唸り声を上げた。
月明かりが砂丘の影を長く伸ばし、その奥に黒衣の人影が浮かび上がる。
その人物の名は 「ザハラ」。
かつて失われた砂漠王国の末裔を名乗り、謎めいた微笑みを絶やさぬ旅人であった。
だが、その正体はただの流浪の民ではなく――異世界魔法師団に潜り込み、王都奪還戦の行方を左右する「黒衣の使者」だった。
⸻
王都に届く報せ
「陛下、新たな者が現れました。名をザハラと申す。砂漠の秘術を操り、味方にも敵にもなり得ぬ存在……」
側近が報告を終えると、玉座に座る王子は深く考え込んだ。
王国は辛くも王都を奪還したばかりだが、未だ各地には敵の残党が潜み、決して油断できる状況ではなかった。
「敵か、味方か――」
王子は小さく呟く。
しかし、彼の胸中では不思議な直感が働いていた。
ザハラの名に、なぜか懐かしさを覚えたのだ。まるで前世から続く記憶の糸が、どこかで結びついているかのように。
⸻
ザハラとの邂逅
砂漠の風が舞い込む広間にて、両者は初めて顔を合わせた。
ザハラはフードを深くかぶり、その瞳だけが月の光を映して妖しく輝いていた。
「……あなたが、この国を取り戻した若き王か」
低く響く声に、王子は静かに頷く。
「名はザハラ。砂漠の幻影を操る者。だが勘違いしないでほしい……私は王国に忠義を誓う者ではない。ただ、時の流れに導かれてここへ来ただけだ」
挑むような眼差しに、王子の心は揺れる。
だが同時に、その奥に秘められた孤独と誓いを感じ取り、言葉を返した。
「ならば――この国の未来を共に見届けてほしい。敵でも味方でも構わぬ。ただ、見届ける者として」
ザハラの唇に、わずかな笑みが浮かんだ。
「……面白い。ならば、しばし隣に立とう。だが覚えておけ、若き王よ。私が剣を振るうのは、この大地の“真実”のためであって、王国のためではない」
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新たな波乱の予兆
その夜、ザハラは王子の夢に現れた。
砂嵐の中、無数の影が王国を取り囲み、再び戦乱の兆しが迫っている幻影を示す。
「これは……未来の光景なのか?」
王子が問いかけると、ザハラは静かに告げた。
「未来は刻々と揺らぐ。だが一つだけ確かなことがある――“王国の敵”は、外にだけいるのではない。王都の内にも、深く根を張っている」
その言葉は、王子の胸に不吉な響きを残した。
王都奪還の喜びも束の間、新章の幕開けはさらなる混沌を予感させていた。
次回も楽しみに




