新章 白銀の傭兵 ―
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新章 白銀の傭兵 ― セリス登場
夜が明けても、王都の空には薄く亀裂が残っていた。
リュウとひびきが大魔獣との死闘を終えて数日、王国は束の間の静寂を取り戻したかのように見えた。
だが、その影には新たな嵐の気配が忍び寄っていた。
⸻
リュウは城の訓練場で剣を振るっていた。
「……あの裂け目、まだ閉じていない。必ずまた奴らは来る」
焦りを押し殺すように、彼は何度も剣を振り下ろした。
ひびきは近くでその姿を見守りながら、そっと呟いた。
「リュウ……あなた、また無理をしてる」
彼女は歩み寄り、剣を握る彼の手をそっと止める。
「戦うのは一人じゃない。私もいるし、学院の仲間たちもいる。もっと信じて」
リュウは少しだけ苦笑を浮かべた。「わかってるさ。でも……」
その時だった。
訓練場の門がきしむ音を立て、ひとりの影が姿を現した。
銀色の髪を風に揺らし、鎧に身を包んだ長身の青年――。
背には巨大な槍を背負い、全身からただならぬ戦場の気配を漂わせていた。
「ここが……王都か」
彼は低く呟き、訓練場の中央に歩み出る。
リュウとひびきは即座に構えた。
「何者だ!」
「敵か味方か、今すぐ答えてもらうわ!」
青年は手を上げて静かに首を振る。
「安心しろ。俺は敵じゃない。ただ……仕事で来ただけだ」
彼の名は セリス。
異世界の戦乱を渡り歩いてきた白銀の傭兵。
戦場のどこにでも現れ、金と契約でしか動かないが、その実力は伝説とまで呼ばれている。
「俺の依頼主は――王国の未来そのものだ」
意味深な言葉を残し、セリスはリュウに鋭い視線を向けた。
「第21王子、リュウ……お前の剣がどこまで通用するか、確かめさせてもらう」
突然の宣告に、ひびきが一歩前に出ようとした。
だがリュウは手で制し、静かに剣を構える。
「……わかった。受けて立つ」
⸻
訓練場の空気が一変する。
二人の間に、重苦しい緊張が走った。
セリスの槍が月光のように煌めき、リュウの剣が炎のように輝く。
最初の衝突――轟音と共に、訓練場の石畳が砕けた。
ひびきは思わず後退しながら、その戦いを見守る。
セリスの槍は流麗でありながら獰猛、まるで竜の尾のようにうねり、死角を突く。
リュウは必死にその連撃を受け止め、反撃の機会を探す。
「強い……!」
彼の全身を襲う衝撃に、リュウは己の力不足を痛感する。だが心の奥底で燃え上がる炎が、彼を突き動かしていた。
やがて両者の武器が火花を散らし、鍔迫り合いとなった。
セリスは冷ややかに微笑む。
「悪くない。だがまだ甘いな、王子」
リュウは歯を食いしばり、力の限り押し返した。
「俺は……もう誰も失わない! この剣で王国を守る!」
その叫びに、セリスの目がわずかに揺れた。
槍を引き、彼は一歩退いた。
「……いい目をしている。契約成立だ」
リュウは息を荒げ、ひびきは目を瞬かせる。
「契約……?」
セリスは槍を肩に担ぎ、口元を歪めて笑った。
「俺はお前たちと共に戦う。次に来る異世界の侵略者をな」
⸻
こうして、白銀の傭兵セリスはリュウとひびきの仲間となった。
彼の真意はまだ謎に包まれているが、その実力はこれからの戦いにおいて欠かせぬものになることは間違いなかった。
だが同時に、セリスの背後にはまだ語られていない暗い影が潜んでいた。
― 白銀傭兵セリスの過去
王都の酒場。
静かな夜、リュウとひびき、そしてセリスの三人は粗末な木の机を囲んでいた。
炎竜ヴァルガ戦の後も続く魔獣の脅威に備え、作戦を練ろうと集まったのだが――。
セリスは黙り込んだまま、琥珀色の酒を揺らしていた。
彼の瞳は深い灰色、まるで幾千の戦場を映しこんだように冷ややかで、どこか遠い。
「……なあ、セリス」
リュウが口を開いた。「お前は、どうして俺たちに協力する気になったんだ?」
しばらく沈黙が続いた。
やがてセリスは酒を一口煽り、低く笑った。
「契約だから……そう言ったろ」
「でも、それだけじゃないはずよ」
ひびきが静かに問い詰めるように目を向ける。
「戦うときのあなたの目……あれは、誰かのために剣を振るう人の目だった」
セリスの笑みが一瞬だけ消えた。
彼は槍の柄を軽く撫で、深く息を吐いた。
「……そうか。俺の目に、まだそんな色が残っていたか」
⸻
セリスは語り始めた。
かつて、彼は別の王国の騎士だった。
小国を守るため、仲間とともに戦場に立ち続けた。
だが――。
「俺は……仲間を全員、失った」
魔獣の襲撃、裏切り、そして王国の崩壊。
最後に残された彼は、国も、友も、そして愛した者すらも守れず、廃墟の中に立ち尽くすしかなかった。
「生き残った俺は、ただの傭兵になった。金と契約のために戦う、心のない兵士にな……」
酒を机に置き、セリスは静かに目を伏せた。
「だが、お前たちを見ていると……あの頃の自分を思い出す。
王子、お前には……俺が果たせなかったものを託せるかもしれん」
リュウは真っ直ぐセリスを見つめ、拳を握った。
「だったら一緒に戦おう。二度と、誰も失わないために」
ひびきも頷く。「セリス……あなたも、もう一人じゃない」
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その瞬間、酒場の扉が乱暴に開いた。
全身を黒衣に包んだ影が飛び込んできたのだ。
「報告! 王都南門に――異世界の兵団が現れました!」
セリスは立ち上がり、槍を背に構えた。
「……来たな。あいつらが」
リュウとひびきもすぐに武器を取る。
「行こう、今度は俺たち三人で!」
⸻
こうして、セリスの過去が明らかになった夜は、
同時に新たな戦乱の幕開けでもあった。
― 謎めく少年と蒼き契約
王国の都から遠く離れた北の山岳地帯。
夜明け前の冷たい風が谷を吹き抜け、雲間から差し込む光が雪解け水をきらめかせていた。
その峠道を歩いていた一人の少年――名を シオン といった。
年の頃は十五、白銀に近い淡い髪と、月光を思わせる青灰色の瞳を持つ。不思議な気配を纏い、村の人々からは「渡り鳥」と呼ばれていた。
シオンは手に古びた木箱を抱えていた。箱には複雑な封印が施され、ただの旅人が持つものではなかった。
彼はやがて山道を抜け、小さな交易宿に立ち寄った。そこで出会ったのが、王国から派遣されていた若き女騎士 セリア である。
セリアは許嫁を持ちながらも、密命に従ってスパイのごとく地方を調査していた。その目に、シオンはただならぬ存在として映った。
「その箱……ただの旅荷ではないな?」
「……さあ、どうだろう。だが、これを狙う者は多い。気をつけることだ」
短いやり取りののち、彼らは成り行きで行動を共にすることになる。
宿場を襲った盗賊団から村人を守り、共に剣を振るったのがきっかけだった。
戦いの最中、シオンは木箱を開き、そこから蒼い光を放つ古代の指輪を取り出した。
その瞬間、彼の身体に刻まれた文様が淡く輝き、セリアは息をのむ。
「まさか……“蒼き契約”の継承者……?」
伝承に語られる、王国の行く末を左右する秘宝。
シオンの正体は、ただの旅人ではなく、王国を揺るがす運命を背負った少年だった。
セリアは葛藤する。
自分の任務は王国の安定を守ること。しかし、この少年を王都へ連れ帰れば、彼の自由は奪われるかもしれない。
一方でシオンは、自分の秘密が露見したことで、孤独な旅を続けられなくなったことを悟っていた。
――運命は交錯し、二人は「王国の新時代」と「次世代への継承」を象徴する存在として歩みを始める。
だが、その背後では、影のように忍び寄る者があった。
仮面を被った黒衣の集団――「夜影団」。
彼らもまた“蒼き契約”を狙い、王国を裏から崩そうとしていた。
物語は、ここから新たな局面へと広がってゆく――。
物語は続く




