前世編 ―
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前世編 ― 誕生しなかった世界の影
王子は静かに目を閉じた。
瞬間、視界は光に包まれ、まるで別の時空に引き込まれるようだった。そこに広がるのは――自分が存在しなかった世界。
大地は荒れ果て、街の瓦礫は風に舞い、人々の顔は恐怖と絶望で歪んでいた。
王城は崩れかけ、異世界の侵略者の旗が掲げられている。
「……これは……」
王子は震える声でつぶやく。胸に突き刺さるのは、前世の記憶。
倒すべき相手を間違え、孤独のあまり道を誤ったあの日々。
そのすべてが、今この光景に繋がっていたのだ。
民衆は助けを求める目を王子のいない空に向ける。
英雄も勇者も存在せず、ただ魔獣や異世界の軍勢が支配する。
森は魔獣の咆哮に満ち、地平線の向こうでは火柱が上がる。
王子の心に、恐怖と罪悪感が押し寄せる。
「もし、あの時……俺が違う選択をしていたら……いや、俺が生まれなかったら、すべてはこうなっていたのか」
しかし、光の中で時の神の姿が現れる。
銀色の髪と瞳は変わらず静かで、王子を見つめる。
「王子よ、君は本来生まれるべきではなかった。それでも、君はここにいる」
神の声は深く、柔らかく、しかし確かに胸に届いた。
「偶然に生まれた君の存在こそ、この世界を変える可能性の根源なのだ」
王子は光の中で前世の戦友たちを思い出す。
孤独の中で倒していった者たち、背負った罪、そして失った絆。
そのすべてが、今の自分に力を与えると知る。
「俺は……俺の存在が、この世界を救う鍵なんだな」
剣を握る手に力がみなぎる。胸に渦巻く恐怖と後悔も、決意へと変わる。
王子は前世の戦場に立つ自分を思い浮かべる。
孤独だったあの時、仲間を失い、道を誤り、すべてが破滅に向かっていた。
だが今は違う。偶然に生まれた存在として、全ての後悔を背負い、世界を救う道を歩むのだ。
光が消え、王子は荒廃した王都の瓦礫の上に立つ。
周囲の風は冷たく、かつての栄光は影も形もない。
しかし、王子の瞳には恐怖はなく、決意の炎が燃えていた。
「前世の孤独も、存在の偶然も、すべて今の俺の力になる」
剣の刃が微かに光を反射し、地面の砂利が震える。
「俺は戦う。生まれた偶然を、使命に変えてみせる」
王子の歩みは、荒廃した街を進むごとに確かな力を帯びていく。
前世の敵や魔獣、異世界勢力――すべてが待ち受ける未来でも、恐れるものはない。
孤独を知り、存在の不確かさを知った者だからこそ、王子は揺るがない。
遠くで魔獣の咆哮が響く。
城門は裂け、影のような異世界の軍勢が押し寄せる。
しかし王子はただ剣を握り、前だけを見つめる。
「この世界を救うため、俺は歩む」
その声は風に乗り、瓦礫を蹴散らす。
前世の過ちも、偶然も、孤独もすべて糧となり、王子の存在は希望となった。
王子は進む。
荒廃の街を抜け、魔獣の森を突き抜け、破滅の淵を越えて――
すべては、王子の新たな戦いの始まりであった。
― 王都決戦と復活の力
瓦礫の山を越え、王子は王都の中心部へと歩みを進める。
かつて賑わった市場も、今は無数の魔獣の足跡と血で覆われ、静寂と死臭が支配していた。
「……ここまでか」
王子の言葉に、自分自身を奮い立たせる力が宿る。剣の柄を握る手に汗はなく、冷静さの中に熱い決意が燃えていた。
闇の中、影が揺れる。魔獣か、異世界の侵略者か。
王子の目には、前世の記憶が一瞬よぎる――あの孤独の戦場、失った仲間たち、倒し切れなかった敵。
その記憶が、今の力となり、王子の体を震わせる。
「来い」
力強く呟き、王子は剣を構える。
闇が裂け、魔獣の群れが現れる。
巨大な体、爬虫類の鱗、鋭い爪と牙。異世界の兵士たちも混ざり、王子に迫る。
しかし王子は動じない。前世で鍛え上げた経験と、今の決意が彼を支える。
最初の一撃が飛ぶ。
鋭い刃が魔獣の鎧を切り裂き、血が舞う。
次々に魔獣が襲いかかるが、王子は一人で立ち向かい、戦いの渦を切り裂く。
「まだまだ……!」
前世の敵の顔が浮かぶ。倒しきれなかったあの者たち――今、王子の力で清算する時が来たのだ。
魔獣が吹き荒れる炎と共に襲いかかる。王子は剣を掲げ、闇を斬り裂き、炎を受け止める。
体中に痛みが走るが、王子の目は揺らがない。前世で味わった孤独と絶望が、今は力の源となっている。
戦場の中心で、王子は一瞬立ち止まる。
目の前に、前世の記憶を宿す影――かつての強敵が現れたのだ。
その姿は以前よりも巨大で、異形の力をまとっている。
「……前世の敵……」
王子の心に恐怖がよぎる。しかし、それ以上に覚悟と力が溢れる。
剣を握り直し、王子は叫ぶ。
「俺は、必ずこの世界を守る!」
影との戦いが始まる。
剣がぶつかり、炎と魔力が交錯し、瓦礫が砕け散る。
王子は前世の記憶と今の力を融合させ、一撃一撃を確実に敵に叩き込む。
戦いの果てに、影が消える。
しかし王子は倒れず、剣を掲げたまま立つ。荒廃した王都の空に、希望の光が微かに差し込む。
「これが……俺の力、俺の存在の証……」
王子は静かに息を整え、次の戦いに備える。
前世の記憶を力に変え、王子は孤独でも、前に進む。
王都に残された者たちの未来を、この手で切り開くために――。
― 王都再起と仲間の絆
王都の荒廃した中心部で、王子は立ち尽くしていた。
戦いの傷は深く、体中に痛みが走る。瓦礫の隙間から微かな風が吹き込み、焦げた煙と埃を運ぶ。だが、王子の目には光が宿っていた。前世の敵を打ち破った達成感だけではなく、まだ戦いは終わっていないという確信があった。
「……ここで終わるわけにはいかない」
王子は低く呟き、剣を肩にかけた。
荒廃した街の中、微かに動く影が見える。小さな足音、かすかな息遣い。
それは生き残った者たちだった。王子の前世の記憶にあった孤独ではない、仲間たちの気配。
「王子さま……」
かすれた声が呼びかける。
そこに立っていたのは、前世で王子を助けた少女と青年。彼らは疲弊していたが、目には決意が宿っていた。
王子は深く息を吸い、仲間たちに手を差し伸べる。
「共に戦おう。俺たちはまだ、この王都を取り戻せる」
その言葉に仲間たちの表情が変わる。恐怖と絶望を経て、希望の光が微かに戻ってきたのだ。
王子と仲間たちは瓦礫の間を縫い、王都の外れにある地下神殿へと向かう。そこには、異世界の侵略者が潜伏しているという情報があった。
地下神殿に到着すると、空間は異様な光に包まれていた。壁に刻まれた魔法陣が微かに光を放ち、異世界の魔力が渦巻く。
王子は剣を握り、仲間たちに指示を出す。
「散開しろ。罠には気をつける」
その時、天井の裂け目から巨大な魔獣が飛び出す。
爬虫類のような鱗、複数の頭、火を吐く口。前世で王子が倒した敵の能力の一部を思わせる異形の魔獣だ。
「これが……異世界の侵略者の尖兵か」
王子は剣を振るい、魔獣の前に立ちはだかる。仲間たちはそれぞれ魔法や弓、槍を用いて戦線を支える。
戦いは熾烈を極めた。
魔獣の攻撃は鋭く、仲間たちの防御も完全ではない。しかし王子の指揮と覚醒した力により、徐々に戦況が変わっていく。
剣の一閃で魔獣の鱗を裂き、仲間の魔法で動きを封じる。互いに連携し、前世での孤独を知る王子もまた、仲間の存在で力を増していった。
戦闘の最中、王子は思い出す。前世で一人きりで戦った時の絶望。あの時の恐怖と孤独は、今の仲間たちとの絆によって初めて力に変わる。
「俺たちは、共に戦う」
心の中で強く誓い、王子は最後の一撃を放つ。魔獣は轟音と共に崩れ落ち、地下神殿の静寂が戻る。
戦いの後、仲間たちは王子の周りに集まり、互いの無事を確認する。
「王子さま……本当に、あなたがいてくれてよかった」
少女の目には涙が光る。
王子は微笑み、疲れた体を支えながら答える。
「まだ戦いは続く。だが、俺たちは共に立ち上がれる」
その瞬間、王子と仲間たちの間に固い絆が生まれた。
前世の孤独、失った者たちの記憶、それらすべてが力に変わり、王子と仲間たちは新たな王都奪還の道を歩き始めるのだった。
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