王国再建編 ―
王国再建編 ― 第五章•
王国再建編 ― 第五章:引きこもりの王子
王城の奥深く、かつての王の私室を改装した一室に、一人の若き王子が籠もっていた。
名はアルト王子。
先王の第二王子にして、リュウやひびきと同じ世代の青年だった。
アルトは剣術も学問も優れ、幼いころから「次代を担う光」と讃えられてきた。だが、戦乱の折に王城が炎に包まれ、兄や近しい従者を失ったことで、彼の心は深く閉ざされてしまった。
戦後、彼は人前に出ることを拒み、食事も側仕えを介して部屋に運ばせるばかり。人々は彼を「引きこもり王子」と噂し、やがてその名は王都の笑い話にすらなった。
しかし宰相代行エリオット卿は密かに憂えていた。
「本来なら王国を導くべき血筋の者が、心を閉ざしたままでは、再建は揺らぐ……」
一方でリュウは違う考えを持っていた。
「無理やり外に出すんじゃなく、アルト王子が自分の意志で一歩を踏み出すきっかけを作るんだ」
そこでひびきと相談した末、リュウは料理を携えて王子の部屋を訪れる。
「アルト王子、これは“再生のシチュー”っていうんです。壊れたものを新しく組み直す魔法料理。俺たちの王国みたいに」
最初は扉越しにしか声を聞かなかった王子だが、日を追うごとに少しずつ心を開いていく。
「……料理の香りが、懐かしい。母上がよく作ってくださった匂いに似ている」
そしてついに、ある夜。
アルト王子はそっと部屋の扉を開け、まだ震える足でリュウたちの前に現れた。
その姿に民は驚き、やがて希望の象徴として再び彼を仰ぐようになる。
だが同時に、王子の再起は裏切りを企てる領主たちにとって脅威ともなった。
「引きこもり王子など不要だ」と嘲笑していた者たちが、逆に彼を暗殺の標的と定め始めたのだ――。
― 第六章:暗殺の刃と王子の決意
王都に吹く風は、再建の兆しを孕んでいた。崩れた街並みには仮設の市場が立ち、瓦礫の隙間からは草花が芽吹き始めている。民衆の顔にはようやく笑みが戻りつつあった。
だが、その裏で暗雲は静かに広がっていた。
アルト王子が人々の前に姿を現し、再び希望の象徴として語られるようになると、失脚を恐れる地方領主や貴族の一部は彼の命を狙うようになった。
「引きこもり王子に過ぎぬ」と嘲っていたはずの彼らが、今では「最も危険な芽」として処分を画策していたのだ。
ある夜。
リュウとひびきが王子の側近として控えていた広間に、黒ずくめの刺客たちが忍び込んだ。彼らの武器には毒が塗られ、ひと振りでも掠めれば命は尽きる。
――ギィィ……。
扉の軋む音とともに、冷たい殺気が流れ込む。
「来たな……!」
リュウが腰の剣を抜き、ひびきは瞬時に護符を展開して結界を張る。
だが、刺客たちの狙いはただ一人。
ベッドの傍らで身を固くするアルト王子だった。
「逃げろ、王子!」
リュウが叫ぶ。
しかし王子は震える足で立ち上がり、手にしていたのは――古びた短剣。幼い頃に父王から授かったもので、今まで一度も抜いたことのない武器だった。
「……私はもう逃げない」
声はかすれ、しかし瞳は確かに強く燃えていた。
刺客が一斉に襲いかかる。
リュウとひびきが必死に応戦する中、王子は震える腕で短剣を突き出した。
刃は敵の一人の腕を掠め、その瞬間、彼の中で何かが弾けた。
「恐怖は……消えない。だが、ここで退けば、また私は闇に閉じこもるだけだ!」
叫びとともに、王子は果敢に前へと踏み出す。その姿は、かつて「引きこもり王子」と揶揄された青年ではなかった。
戦場を知る者としては未熟。だが自らの足で立ち、運命に抗おうとする「次代の王」としての姿がそこにあった。
戦いの末、刺客たちは退けられた。だが、その場には多くの傷跡が残された。
リュウの肩には深い傷、ひびきも護符を破られて倒れ込んでいた。
王子は膝をつきながらも、初めての戦いで最後まで立ち続けた自分を噛みしめる。
「……私にはまだ力が足りぬ。だが、もう籠もることはしない。
この命が尽きるその時まで、私は王国の再建に立ち続ける」
その言葉に、リュウとひびきは血の滲む笑みを浮かべて応えた。
「……それでこそ、俺たちの王子だ」
やがて民に伝わったのは「暗殺未遂の夜、引きこもり王子は自ら剣を振るい、仲間を守った」という逸話だった。
それは王国再建における、新たな希望の物語として人々の心に刻まれることになる――。
王国再建編 • ― 第六章




