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異世界転生したら第21王子だったけど、許嫁も侍女も姫も俺に夢中で嫉妬の嵐 モテすぎて部屋に引きこもってます  作者: マーたん


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蟷蠅の群 ― 緑の死翼

The gong sounds

蟷蠅の群 ― 緑の死翼


夜明けを取り戻した王国は、一時の安堵に包まれていた。

しかし、その静けさは長くは続かなかった。


森の奥――かつて精霊たちが住まう聖域であった場所から、不吉な羽音が響きはじめた。最初は一匹、二匹。だが、それはまるで風そのものが震えているかのような規模に膨れ上がり、やがて黒雲のごとく空を覆い尽くした。


「……カマキリ?」

ルミナが城壁の上から見下ろした瞬間、その目が恐怖に凍りついた。


眼下の森から現れたのは、無数の蟷蠅とうろう――人の背丈を優に超える巨体を持ち、緑の外殻が硬質の光を反射する怪物だった。両腕の鎌は鋼をも断つ鋭さを誇り、その複眼は不気味な赤に輝く。群れは一糸乱れぬように揺らめき、羽音が街全体を震わせた。


「これはただの虫ではない。呪いに侵された軍勢だ」

魔女アリシアの声は低く震え、かつてない緊張を帯びていた。

「聖域が腐った結果、精霊の器を奪われたのだ。自然が、獣そのものを兵に変えている」


王子は剣を構えた。だが、それでも目の前に広がる蟷蠅の群は、数において圧倒的だった。百や二百ではない。千、あるいは万。まるで森全体が生き物となって押し寄せてくるような有様だ。


「くそっ、これでは国境の城壁がひとたまりもない!」

ネズミ戦隊の隊長が叫び、仲間たちが必死に矢や爆薬を準備する。

エルフの弓兵たちも並び、魔法陣が次々と展開される。


だが、蟷蠅は賢かった。真正面から突撃するのではなく、群れを幾つかの渦に分け、四方から街を囲むように動き出したのだ。


「王子! あれは……」

ステイシアが声を上げた。群れの中央に、一際大きな影がいた。

それは他の蟷蠅の倍はある巨体で、両腕の鎌は血のように赤く染まっていた。

――群れの王、紅鎌皇べにかまおう


王子は喉を詰まらせながらも、声を張った。

「皆、聞け! 奴らは森を奪い、精霊を食らった化け物だ! だが――この国を守るのは我らだ! ここで退けば、再び朝は失われる!」


兵たちは叫びを上げ、結界の強化を急ぐ。

だがその一方で、ルミナは父の手を強く握った。

「お父さま……わたしも、戦えるよ」


王子は一瞬迷った。囮にした夜の記憶が胸を刺す。二度と娘を危険に晒すまいと誓ったはずだった。だが、ルミナの瞳には恐怖よりも決意が宿っていた。


「ルミナ……」

王子は短く息を吐き、決断した。

「ならば後ろに立つな。私の隣に立て。ただし――絶対に倒れるな」


蟷蠅の群が一斉に飛び立ち、空を覆った。

赤い複眼が無数に光り、鎌が月光を反射して閃く。


こうして、新たな戦いの幕が切って落とされた。

夜を越えたはずの王国に、今度は昼をも覆う群れが襲いかかるのだった。


夜の空を覆い尽くす蟷蠅の群。その羽音は地鳴りのように響き、城壁の石を振動させる。王子は剣を握り締め、ステイシアとルミナと共に防衛線を固めた。だが、数の圧倒的差に一瞬の不安が胸をよぎる。


その時、風が一瞬止み、空気が鋭く振動した。

「……これは」

ステイシアの瞳が見開く。暗闇の中、銀色の光が森の奥からゆっくりと近づいてくる。


光の中から現れたのは、一人の男――アズナス。

長い銀髪が月光を反射し、漆黒のマントが風に翻る。肩には魔法陣の紋様が浮かび、腰には黒曜石の短剣と光を帯びた杖が装備されていた。


「……誰だ、あの者は」

ルミナが息を詰める。王子もまた、その姿に目を奪われた。何か――尋常ならざる威圧感が、周囲の空気を締め上げている。


アズナスは静かに口を開いた。

「私が来るのを待っていたようだな」

声は低く、しかし確かな力を帯びていた。言葉一つで風の流れさえ変わるかのような威圧感がある。


蟷蠅の群は彼の存在に反応した。群れの中で、紅鎌皇の巨体が一瞬動きを止め、赤い複眼がアズナスに向けられる。

「奴……ただ者ではない」

王子の胸中に、直感が走った。


アズナスは杖を掲げ、静かに呪文を唱える。

空気が振動し、地面が微かに裂ける音がする。すると、蟷蠅の群は互いにぶつかり合い、混乱を始めた。まるで群れ全体が意識を奪われたかのように、渦を描きながら後退していく。


「さあ、戦おうか」

アズナスは微笑み、黒曜石の短剣を握りしめた。

その姿はまるで、闇の中から現れた新たな守護者そのものだった。


王子はステイシアに目を向け、無言で頷く。

「……これなら、反撃できる」

ルミナも小さく拳を握り、父と共に戦う覚悟を固めた。


蟷蠅の群との決戦は、今、新たな局面を迎えようとしていた。

アズナスの登場は、王国の運命を変える光明となるのか――

それとも、新たな嵐の前触れなのか。


蟷蠅の群がざわめく中、森の奥深く――誰もいないはずの闇から、低く重い音が響いた。

ゴォォォォン――


その音は、まるで大地そのものが呻いているかのようで、空気が振動し、王国の城壁の石が微かに震えた。

王子の胸に、直感的な不安が走る。

「……何だ、この音は」


アズナスは目を細め、闇の奥を見据えた。

「来る……」

彼の声に、空気の張り詰め方が変わる。杖の先端が微かに光を帯び、魔法陣が地面に浮かぶ。


ゴングは再び、今度は断続的に鳴り響く。ボォン、ボォン……ボォォォン……

その振動が蟷蠅の群を逆に刺激するかのように、群れがうねり、翼を震わせて飛び立った。

まるで闇そのものが目覚めたかのような、圧倒的な存在感。


ステイシアが王子に叫ぶ。

「王子、あれは……ただの音じゃないわ! 魔の合図よ!」


ルミナも背後で息を詰め、両手を握りしめる。

王子は剣を握り、地に踏ん張った。

「来る……全てが、来る……!」


ゴングの音と共に、暗闇から巨大な影が姿を現した。

蟷蠅の群の中でもひと際巨大な、漆黒に光る甲殻――その姿は、まるで森全体を統べる王のようだった。

紅鎌皇でさえ、圧倒されるかのようにその場で一瞬立ち止まる。


アズナスが静かに前に出る。

「闇の目覚めを止めるのは、我らだけだ」

杖を振るうと、空気が切り裂かれ、闇の中で光が閃く。


ゴングの轟きが、戦いの始まりを告げた。

王子たちは剣を握りしめ、ステイシアもルミナも、その圧倒的な迫力に抗うように立ち向かう。

闇のゴングは、まるで王国の運命を問う鐘のように、重く、低く、響き渡った。


そして、戦いの幕が開いた――闇と光、蟷蠅の群と王子たち、アズナスの力が交錯する壮絶な戦場の始まりである。

The gong sounds

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