黒樹の王国
Succubus
黒樹の王国
漆黒の剣士が敗れたのち、王都は完全に沈黙した。
燃え盛る城壁は崩れ落ち、鐘楼は根に絡め取られ、かつて人が栄華を誇った宮殿は――いまや異形の玉座に変わっていた。
その玉座に腰掛けるのは、巨躯のハイランドオーク。
枝葉を天に伸ばし、根は大地の深くまで這い、まるで国そのものを喰らい尽くすかのように広がっていく。
「我らが世を治める……これより先、この地は 黒樹の王国 だ」
その宣言に応じるかのように、地鳴りが王都を包む。
ゴブリン族の軍勢が、四方八方の瓦礫の上で鬨の声を上げる。
彼らはもはや奴隷ではない。
新しき主の庇護のもとで、軍政を握り、村々を支配し、人を狩り、血を捧げる。
ハイランドオークは神殿を根で覆い、玉座の背後に「闇の樹海」を広げた。
その中では死者の魂さえ逃れられず、無限に再生されるゴブリン兵の源となる。
やがて人の王族は捕らえられ、処刑台に立たされた。
嘲笑うゴブリンたちの前で、最後の王子が問いかける。
「なぜだ……なぜ我らを滅ぼす……!」
その問いに、ハイランドオークは低く響く声で答える。
「森は常に奪われてきた。
人間どもは木を切り、根を焼き、土を汚した。
今こそ均衡を正す時……お前たちの王国は、大地に還るのだ」
こうして王国は陥落し、地図からその名を失った。
以後、この地を旅人たちは恐れを込めて呼ぶ――
「黒樹と血の王国」 と
黒樹の王国 ― 毒の地響き
黒樹の王国が成立して間もなく、大地の奥深くで異様な震動が走った。
ゴブリンたちが勝利の酒宴を開き、ハイランドオークが悠然と玉座に根を張っていたその時――地面が裂けた。
「……ッ、何だ?」
「地が鳴っている……!」
地割れから現れたのは、猛毒大百足。
長大な体は城壁を容易に超え、無数の脚が石畳を砕き、赤黒い外殻が月光にぎらめいた。
牙から滴る毒液は大地を溶かし、立っていたゴブリン兵たちを瞬時に黒い泥へと変える。
「グギャァァァァアアアアアアアア!!」
耳を劈く咆哮。
その毒気は瘴気となって王都全域に広がり、黒樹さえも黒く枯らしていく。
ハイランドオークは根を打ち鳴らし、百足を押さえ込もうとするが――
猛毒大百足は意に介さず、幾百もの脚で根を引き裂き、胴を巻きつけて締め上げた。
「馬鹿な……この森の王たる我を……!」
王国を乗っ取ったはずの支配者が、さらに異形の怪物に挑まれ、均衡は一瞬で崩壊した。
ゴブリンたちは狼狽し、ある者は逃げ、ある者はひれ伏し、ある者は無謀にも槍を構えて散った。
だが、猛毒大百足は容赦しない。
その顎がひとたび振り下ろされれば、兵も城壁も、ただ溶け崩れる。
やがて、血と毒と闇に覆われた王都の上空を、かすかな光が横切った。
それは……人の生き残りか、それともまったく別の存在か――。
黒樹の王国 ― 毒嵐の襲来
猛毒大百足が王国を蹂躙し尽くそうとしていたその時、空に黒雲のような影が広がった。
ざわざわと空気を震わせる羽音。
夜空を覆い隠すほどの群れが、黒い疾風となって舞い降りる。
「――ハチだ! しかも……オオスズメバチ!」
「馬鹿な……この数は、災厄そのものだ!」
その群れの中心に現れたのは、常軌を逸した巨体を持つ 猛毒オオスズメバチ。
一匹にして城を穿つほどの大顎と、雷光のように輝く毒針を持ち、
その羽音だけで兵士たちの鼓膜が破れ、血を吐いた。
「グオオオオオッ!」猛毒大百足が咆哮する。
だが、蜂王は怯まずに突撃し、その鋭い針を百足の装甲に突き立てた。
バチィィィィン!!
毒と毒が反発し、空間そのものが軋む。
黒い霧と紫電が迸り、王都の半分が一瞬にして瓦礫と化す。
地を這う猛毒大百足と、空を支配する猛毒オオスズメバチ。
二つの災厄が同時に顕現したことで、ハイランドオークもゴブリン王たちも、もはや王国の主であることを忘れ、ただ震え上がるばかりだった。
「……この世に、本当の支配者は一体誰だ……?」
その問いに答えるかのように、空と地の巨獣は互いに睨み合い、
次の瞬間、毒嵐を巻き起こしながら激突した。
黒樹の王国 ― 災厄に眠る者
猛毒大百足と猛毒オオスズメバチが激突し、天地を割るかのごとき毒嵐が荒れ狂うその時――
突如、戦場全体を包み込むような 鈍く重い波動 が広がった。
「……な、なんだ……急に……眠気が……」
「ぐ……目が……開か……ねぇ……!」
兵も魔獣も関係なく、その場にいたすべての存在が膝を折り、地に伏した。
オークもゴブリンも、百足の節足さえ重く垂れ下がり、蜂の群れも空中で次々と墜ちていく。
その中心に現れたのは、漆黒の外套に身を包んだ謎の存在。
その名を人々は畏れと共に叫んだ。
「――スリーパーだ……!
伝説の“眠りの支配者”……!」
彼は静かに手を掲げると、漆黒の瞳に淡い光を宿し、呟いた。
「毒も刃も、力も驕りも……すべて、眠りの中で平等となる」
次の瞬間、猛毒大百足も猛毒オオスズメバチも、まるで糸が切れた人形のように地へ崩れ落ちた。
その巨体が大地を揺るがせ、城壁さえも粉砕する。
世界が毒に呑まれる前に――すべてを“眠り”で封じ込める。
それがスリーパーの真の能力であった。
だが、彼の瞳の奥には冷たい笑みが浮かんでいた。
「さて……次に眠るべきは、この国そのものかもしれんな」
黒樹の王国 ― 永遠の眠り
スリーパーの波動は、毒を持つ魔獣や猛き戦士だけでなく、
街の人々、森に棲む獣、空を舞う鳥にまで及んだ。
「……ねむ……い……」
母が子を抱いたまま膝を折り、
剣を握る兵士も盾を掲げる腕を垂れた。
赤子の泣き声さえ、やがて微かな寝息へと変わる。
森の梢にいた小さな雀も、城門を守っていた騎士も、
地を揺らしていた百足も、毒を撒き散らしていた蜂の群れも――
すべてが同じ眠りの中へ沈んでいった。
その光景は破滅でも、救いでもあった。
毒に蝕まれた大地は静まり返り、争いの喧騒は消え、
ただひとつ、深い安息が世界を覆ったのだ。
スリーパーは瓦礫に立ち、眠りに沈む王国を見下ろした。
風に揺れる外套の下、彼は独りごちる。
「生きるとは苦しみ。ならば眠りこそが、真の平和」
星なき夜空が静かに広がり、
誰一人として目を開ける者はいなかった。
そして、黒樹の王国は――
生きながらにして“永遠の墓標”と化した。
黒樹の王国 ― 王子、怒りの覚醒
すべてが眠りに沈んだ静寂の王国。
スリーパーの波動が世界を覆い尽くしたその時、
ただ一人――第21王子だけが、目を閉じることなく立っていた。
「……皆を眠らせ……奪ったのか」
怒りが王子の胸を灼き、
封じられていた血の力が震えを伴って解き放たれる。
彼の背から立ち上る光は赤黒く揺らめき、
まるで炎と雷が一つになったような奔流となる。
「俺は、もう逃げない。
俺は、この怒りをすべて――力に変える!」
大地が割れ、崩れた城壁が震えた。
眠る兵士や民の心臓が、一瞬だけ脈を早めるほどの衝撃。
王子のパワー・アンプが解放された。
その力はただの武力ではなく、
「怒り」を「増幅」し、「絶望」を「反転」させる異能。
王国に降り積もった悲しみの総量をすべて刃に宿し、
王子はスリーパーへと歩みを進める。
スリーパーは驚きも見せず、冷ややかに囁いた。
「目覚めの民よ……ならば、夢の中で我を討てるか」
王子は剣を振り上げ、叫んだ。
「夢も現も関係ない!
――ここで、俺はすべてを取り戻す!!」
光と闇が衝突し、眠りの王と怒りの王子、
二つの極が王国の廃墟を揺さぶった。
三代魔法と異種族連合
怒りの力で覚醒した第21王子は、スリーパーとの戦いの渦中で、かつて古の時代に封印された「三代魔法」の存在を知らされる。
それは――
1.魂鎖の魔法 ……魂を結び、互いの力を共有し合う禁術。
2.虚無の魔法 ……存在を消し去り、因果すら断ち切る究極の闇。
3.黎明の魔法 ……滅びの後に新たな生命を芽吹かせる再生の力。
スリーパーは「虚無」を使い、王国を眠りと絶望に閉じ込めようとする。
だがその力に対抗できるのは、残された二つの魔法と――それを使いこなす異種族たちだった。
◆エルフ
森を追われたエルフの長老は、「魂鎖の魔法」の継承者。
彼らは王子に忠誠を誓い、失われた民の魂を繋ぎ止める力を貸す。
◆サキュバス
誘惑と破滅を司るサキュバスの女王は、虚無の対抗呪を知る存在。
彼女は王子の「怒り」に惹かれ、戦場で血の口づけを交わすことで、アンプされた力をさらに強化する。
◆獣族
荒野を駆ける獣人の戦士団は、「黎明の魔法」の鍵を守る古代の一族。
彼らは血と誇りをもって王子と共に立ち、滅んだ王国を再生するために戦う。
そして――
第21王子を中心に結成された異種族混成の 《王子部隊》 が誕生する。
彼らは互いに相容れぬ過去を抱えながらも、ただ一つ「滅びを覆す」という目的のために結集したのだ。
その旗には、倒れた民の願いと、まだ見ぬ未来への光が刻まれていた。
「俺は第21王子。だが今は、皆と共に戦う一兵士だ!」
王子部隊が進軍する時、虚無と眠りの支配に抗う新たな戦いが幕を開けた。
Highland Oak




