妹、学園を揺らす
わー
第XX章 妹、学園を揺らす
セリナ――王子の妹にして、「わがまま」そのものを体現した少女。
彼女は家では兄を振り回し、王宮の侍女たちを泣かせる一方、学園に通えば、無自覚に男たちの心を掻き乱す。
「セリナ様! どうか私とお茶を!」
「セリナ殿! 剣の指南をぜひに!」
「セリナ嬢! 詩を捧げたい!」
王立学園の門をくぐるたび、彼女を求める声がこだまする。
けれど、セリナは振り返りもせず、涼しい顔で一言。
「わたし、強い人じゃないとイヤ」
その一言で剣士たちは競い合い、魔術師たちは限界を越えて術を磨く。
学園はいつしか「セリナを射止めるための戦場」と化していた。
一方、兄である第21王子は、その光景を遠くから見つめていた。
かつて全ての許嫁や仲間を失い、孤独に沈んだ自分とは対照的に、妹は誰からも求められている。
――だが彼は知っていた。
妹の笑顔の裏に、虚ろな影があることを。
彼女は、兄の孤独を心の底で恐れていた。
自分まで兄を置いて幸福になってはいけない、と。
だからこそ、どんなに求められても、本当に心を開くことはなかった。
学園の騒乱が頂点に達したある日、セリナは兄の前でぽつりと呟いた。
「……わたし、誰とも結婚なんてしない。兄さまが、ひとりぼっちにならないように」
その言葉に王子は返せなかった。
彼女のわがままは、決してただの気まぐれではない。
兄を思うがゆえの“優しすぎる嘘”だった。
そして、この妹の選択が――やがて王国と学園、ひいては全世界を揺るがす運命へと繋がっていく。
第XXI章 妹、初めての恋
学園の一角、訓練場に集まった騎士候補生たちの中で、ひときわ目を引く青年がいた
名はカイル 平民の出でありながら、努力と実力でここまでのし上がってきた少年剣士だった
彼はセリナに群がる誰とも違っていた
口先で飾らず、花も贈らず、詩も歌わない
ただ黙々と剣を振るい、汗と血で仲間を守る その背中は嘘のない強さを放っていた
「……あの人、わたしを見てない」
セリナは初めて戸惑った
いつもは誰もが自分を追いかける けれどカイルだけは、視線すら寄越さない
だからこそ、胸がざわついた
ある日の模擬戦 カイルが三人の上級生を相手にして劣勢に追い込まれていた
誰もが彼の敗北を予想した瞬間、彼は最後の一撃に全てを込め、立っていた
血まみれの手で剣を振り抜き、相手を打ち倒したその姿に――セリナは心を撃ち抜かれた
「兄さま……」
学園から戻る馬車の中、セリナは兄に打ち明けた
「わたし、あの人のように……誰かを守るために強くなりたいって思ったの」
第21王子は黙って妹を見つめる その目に、ほんの僅かだが光が宿っていた
妹の心が初めて誰かに向いたこと それは同時に、彼女自身が兄の呪縛を超えて歩き始めたことを意味していた
けれど、それはまた――
セリナを巡る新たな争いと、兄妹の運命の分岐点の始まりでもあった
第XXII章 囁かれる噂
セリナとカイルの距離が近づいている――その噂は瞬く間に学園全体へと広がった
もともとセリナを取り巻いていた貴族子弟たちは、面子を潰されたと感じ、苛立ちを隠さなかった
「平民の分際で」「王女殿下を惑わせた」
影で囁かれる声は日に日に増し、やがてカイルへの嫌がらせへと変わっていく
剣の練習で武器がすり替えられ、寮の部屋は荒らされ、試験の答案は消される
それでもカイルは歯を食いしばり、誰にも助けを求めず、ただ剣を振り続けた
その姿を見ていたセリナの胸は、怒りと焦りで震えていた
「兄さま……もう黙っていられない」
第21王子は静かに答える
「おまえが選んだ相手だ ならばおまえ自身が守るしかない」
その言葉にセリナは気づいた これまで自分は誰かに守られるだけだった
だが、カイルの隣に立つには、自分もまた強くならねばならない
数日後 学園の大広間にて行われた公開模擬戦
貴族子弟の一人がセリナに挑戦を仕掛けた
「殿下、平民の剣士に心を奪われるくらいなら、この私と刃を交えて証明していただきたい」
観衆のざわめきの中、セリナは剣を手に取り、迷いなく前へ進み出た
その瞳には、兄譲りの鋭さと、初めて芽生えた覚悟の炎が宿っていた
そして――
剣と剣がぶつかり合った瞬間、学園の空気は一変した
第XXIII章 王女の剣
大広間に響いた金属音は、誰もが予想しなかった展開の始まりだった
王女セリナが、自らの手で剣を握り、挑戦者と正面から打ち合っていたのだ
「王女が……剣を振るっているだと……?」
観衆の誰もが息を呑んだ
挑戦者は貴族の嫡男 幼少から武芸を仕込まれた手練れである
その剣筋は鋭く重い だがセリナは一歩も退かず 研ぎ澄まされた集中で刃を受け止め続けた
「くっ……殿下、剣など習ったこともないはず……!」
「侮らないで わたしはただ守られているだけの人間じゃない!」
火花が散り、床板が削れ、空気が震える
王族の血に流れる魔力が、彼女の剣にわずかに宿り、光を帯びはじめる
最後の一撃 貴族子弟の振り下ろした剣を受け流し、セリナは渾身の突きを放った
その切っ先が相手の喉元に突きつけられ、勝敗は明らかとなった
沈黙 そして次の瞬間、大広間に響き渡ったのは歓声だった
「殿下が……勝った……!」
「ただの噂ではない 殿下は本当に覚悟を示されたのだ!」
カイルは観衆の陰で拳を強く握った
その表情は誇らしさと共に、彼女を守るべき存在から「並び立つ者」へと変わったことを悟るものだった
セリナは振り返り、汗に濡れた額を押さえながら言った
「カイル、わたしはあなたと同じ道を歩む どんな噂にも、負けはしない」
その言葉は、大広間に集う者たちだけでなく、学園全体に新たな波紋を投げかけるものだった
第XXIV章 反発と試練
セリナが学園で力を示した直後、波紋は学内に広がった
貴族子弟や上級生たちは、公然と不満を募らせ、陰謀を巡らせる
「平民が王女の隣に立つなど許されるはずがない」
「王族の血に泥を塗るつもりか」
言葉は次第に行動に移され、カイルやセリナへの嫌がらせが苛烈さを増していく
剣術訓練の道具が壊され、魔術演習の材料が盗まれ、試験問題に細工までされる
だが、カイルとセリナは互いの存在に支えられ、決してくじけなかった
「負けない、あなたとなら」
セリナの言葉に、カイルも頷く
「俺もだ、絶対に守る」
学園の長老たちも黙ってはいられなかった
規律違反と見做される行為に、反発する者たちに対し、正式な公開試合での決着を命じる
試合の日、学園の広場には全校生徒が集まり、セリナと挑戦者たちの対決が始まった
彼女の剣は先日の勝利で培った自信と覚悟を帯び、誰もが目を見張る戦いぶりを見せる
その中でカイルは、セリナが単に「守られる存在」ではなく、自ら戦う力を持つことを理解する
二人の絆はより強固になり、周囲の嫉妬や反発も、次第に抑え込まれていく
だが、まだ学園の平和は脆く、二人に忍び寄る新たな試練の影があった
それは学園内だけでなく、王国全体に影響を及ぼす、遥かに大きな事件の前触れにすぎなかった
第XXV章 学園の嵐
学園の広場に突如として響き渡った警報の音
それは単なる騒動ではなく、学園全体を巻き込む大事件の始まりを告げていた
「全員、避難せよ!」
教師たちの叫びと共に、学生たちは混乱の中で逃げ惑う
だがセリナとカイルは立ち止まった
「逃げるだけでは、何も解決しない」
二人の視線の先には、闇の中にうごめく異形の影があった
数百体もの魔獣が、学園の壁を破り、校庭に溢れ出す
その牙と爪は、訓練を積んだ騎士候補生たちでさえ簡単に翻弄するほどの凶悪さだった
「カイル、行くわよ!」
「おう、セリナ!」
二人は互いに頷き合い、剣を手に駆け出す
彼らの背後には、学園の仲間たちも次々と加勢する
ただの戦いではない これは信頼と覚悟の試練
魔獣の群れは次第にセリナを狙い、カイルが盾となる
剣と魔力が激突し、空気は火花と爆風に包まれる
セリナは覚醒した王族の魔力を剣に宿し、カイルは冷静な戦略で仲間を導く
戦いの最中、二人は互いの存在が単なる仲間以上であることを再確認する
互いに信じ合う力こそが、絶望的な状況を乗り越える唯一の手段だった
夜空に響く轟音の中、学園の建物が崩れ落ちる
だが二人は立ち止まらない
「これが私たちの戦いだ!」
「絶対に負けない!」
魔獣の群れを押し返す二人の背中に、学園全体が勇気を見出す
そして、この戦いが終わったとき、セリナとカイルの絆は学園史に刻まれることになる
第XXVI章 王国の影
学園の戦いが終わった後も、王国には不穏な影が忍び寄っていた
魔獣を操った黒幕はまだ明らかになっておらず、王族や貴族たちの間で緊張が高まる
セリナとカイルは、戦いで得た絆を胸に、真相を探る決意を固めた
「王国の平和を守るためには、私たち二人で動くしかない」
「俺もだ、セリナ。お前の側で、絶対に支える」
二人は学園の図書館に籠り、古文書や魔導書を読み解き始める
そこには、王国の歴史に秘められた禁断の魔法と、時空を操る力の存在が記されていた
どうやら、学園に襲来した魔獣も、その力と何らかの関係があるらしい
「この力、使いこなせれば王国を守れるかもしれない」
セリナは目を輝かせる
しかしカイルは慎重だった
「でも、使い方を間違えれば……国全体が危険になる」
二人は協力し、禁断の魔法を安全に扱う方法を探す
その過程で、王国内部に潜む裏切り者や陰謀も少しずつ明らかになる
王族や高位貴族たちの思惑が交錯し、国の運命は二人の手に委ねられつつあった
だが、どんな危険が待ち受けていようとも、二人は互いの信頼を胸に進む
「共に歩むなら、どんな困難も越えられる」
「そうだな、セリナ」
夜空の星を見上げ、二人は決意を新たにする
王国の未来を守るための、真の戦いは、まだ始まったばかりだった
第XXVII章 魔導書と裏切り者
王国の中心部にある古城
その奥深く、暗い書庫に封印された魔導書が、二人の手に渡る
禁断の魔力が眠るその書は、王国の運命を左右する鍵でもあった
「これを使えば、あの魔獣も止められるかもしれない」
セリナは魔導書を手に取り、慎重にページをめくる
しかし、文字が光り、空気が震える
その力の大きさに、思わず息を飲む
一方で、裏切り者は王国の上層部に潜伏し、王族を掌握しようと暗躍していた
「王女と平民の少年が、私の計画を邪魔するとは……許せん」
冷たい声が城内の影に響く
カイルはセリナの手を握り、共に魔導書の力を制御する
「俺たちならできる。お前と一緒なら」
二人の意志が一致した瞬間、魔導書は光を放ち、魔力が二人に馴染む
裏切り者は魔獣を操り、二人に襲いかかる
闇の中で魔獣が暴れ、古城の石壁を砕く
だが、セリナの魔導書の力とカイルの剣技が合わさり、魔獣を押し返す
最後の瞬間、セリナは魔導書の全力を解放し、巨大な光の波が城を包む
魔獣は跡形もなく消え、裏切り者もその力の前に膝をついた
セリナとカイルは互いを見つめ合い、深く息をつく
「王国を……守ったね」
「ああ、俺たちの力で」
二人の絆は、国全体を覆う危機を越えて、より強固なものとなった
そして魔導書は、二人だけが制御できる力として、静かに封印される
あー




