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異世界転生したら第21王子だったけど、許嫁も侍女も姫も俺に夢中で嫉妬の嵐 モテすぎて部屋に引きこもってます  作者: マーたん


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真の妻

前回のお話は?

部屋の空気が、彼女の一言で一瞬で変わった。

王子の胸の奥で、夢の中の断片がざわめく。だが今ここにいるのは確かな温度を持った人間だった。


「わたしの名は、リリーナ。あなたの――妻です。」


王子は言葉を失った。口の中で何かがひっかかったように、呼吸だけが荒くなる。夢で見た許嫁たち、離れていった顔ぶれ、燃える城、すべてが色褪せていく。残ったのは、黒髪と深い瞳、そして差し伸べられる一つの手だけだった。


「冗談か?」と彼はようやく絞り出す。だがリリーナの表情は微笑みでも嘲りでもなく、静かな確信に満ちていた。


「嘘ではありません。あなたと出会った日は、わたしの世界でも冬の終わりでした。長い旅の末に、あなたの側に帰ってきただけです。夢――あれは、おそらくあなたの心が見せたもの。わたしは現実にここにいます。」


彼女が差し出す掌は暖かく、震えはなかった。魔導書を抱きしめていた王子の手が、震えるようにその掌に触れる。触れた瞬間、夢で見た孤独の影が指先からすっと引いていくような気がした。


「だが、なぜ今まで――」王子の声はいくつもの問いを渦巻かせる。

「なぜ現れなかったのか。なぜ夢のように遅れて来たのか。」


リリーナは小さく息をついてから、窓の外の明るさを見やった。朝陽が城壁を淡く照らし、瓦礫の名残が静かに影を落としている。


「長い間、あなたを守るための儀礼がありました。王家の――あるいは運命の鎖のために、わたしは離れていなければならなかった。戻るときが来たとき、あなたはその夢を見るでしょうと、わたしは聞かされていました。夢は終わりへの合図でもあり、始まりへの門でもあります。」


王子は魔導書を見た。あのページの光が、夢を誘ったのだろうか。だが今、彼の目はリリーナの顔に戻る。そこには嘘がない。何よりも、彼女の声の中にある穏やかな強さが、それを証明していた。


「君が本当にここにいるのなら――」王子は言葉を選びながら続けた。「俺はずっと、誰かを失う恐怖に縛られていた。たとえ夢であっても、その痛みは真実だった。もし君が本当の妻なら、俺は――どうすればいい?」


リリーナは微笑む。掌の暖かさをゆっくりと引かずに、王子の手を包む。


「まずは隣に立ってください。あなたの夢を、現実を、一緒に見ていきましょう。失ったものを取り戻すのではなく、新しい日々を作るのです。あなたが孤独であった時間は確かにあった。でも、わたしたちは今ここで一緒です。」


沈黙が一瞬、二人を包む。城の外では市場の音が戻りつつあり、人々の生活は静かに動き出している。王子の胸の中で、何かがゆっくりと解けていくのがわかった。


彼はゆっくりと頷いた。戦いと夢と裏切りに疲弊した心が、初めて柔らかな希望で満たされる。


「いいだろう。リリーナ。ここから、二人でやり直そう――王でも、孤独な人間でもなく、ただ二人として。」


そのときリリーナの目が微かに光った。まるで何かを見据えるように、そして優しく言った。


「ええ。そしてまずは、魔導書のことを調べましょう。夢が何を意味したのか、そして未来に何が来るのかを。あなた一人で背負う必要はありません。」


王子は彼女の言葉に力を得るように笑った。まだ解くべき謎は残っている。魔導書のページも、異界の余波も、消えてはいない。しかし、今は確かな伴侶がいる。彼女の手は離れず、重すぎる運命の一端を緩やかに支えてくれる。


窓外の風が新しい日を運ぶ。第21王子は立ち上がり、リリーナの手を握りしめた。城の石床に影が長く伸び、二人の影が一つに重なる。


夢で見た絶望は現実ではなかった。だが夢は教訓だった。王子はその教訓を胸に刻み、真の妻と共に、これから続く物語を歩み始める――。


リリーナの歩み — 引きこもりを抜ける日々


 城の一室に閉じこもっていたのは、戦いの後もずっとリリーナだけだった。外の喧噪を避け、魔導書を傍らにして、窓から薄く差し込む陽の光だけを友としていた。王子は日々を共に過ごし、優しく促したが、彼女の心は深い殻に守られていた。


 だがある朝、リリーナは窓辺でふと立ち止まった。小さな庭の片隅で、野良猫がひとつの種を執拗につついている。猫は何度も失敗しながら、最後には種を割って芽を出させた。その執拗さに、リリーナの胸の奥が小さく震えた。


 「私も、やってみようかしら」


 最初の一言は自分に対してだった。誰かを驚かせるでもなく、王子に告げるでもなく、ただ自分の内側から生まれた決意だった。



小さな約束


 最初の行動は小さかった。朝に一度だけ外へ出る。庭の草を一握り抜き、太陽に手をかざす──それだけでよい、とリリーナは自分に約束した。

 初めの数日は、体が硬く、外気が胸を締めつけるようだった。だが日を重ねるごとに、風の匂いが懐かしくなり、足取りがほんの少し軽くなっていった。


 王子はその変化に気づき、遠巻きに支えた。無理強いはせず、朝食を庭で一緒に摂るくらいの距離を保った。リリーナはそれをありがたく感じたが、自分が変わるのは自分の責任だと、誰にも頼らずに進むことを選んだ。



触れ合いの最初の一歩


 ある日、庭で苗木を植えていると、隣家の少女がそっと覗きに来た。少女は恥ずかしそうに、母のために摘んだハーブを差し出す。リリーナは驚きと戸惑いの間でその手を受け取った。少女の無邪気な「ありがとう」に、リリーナの顔がほころんだ。


 それが彼女にとっての最初の「成功体験」だった。人と接しても世界は壊れない。むしろ、小さな交流が心を暖めるのだと知った。



役割を持つこと


 リリーナは次第に行動範囲を広げる。書物の整理を申し出て、城の小さな図書室を整備し始めた。魔導書の取り扱いを条件に、古い記録の復元や、防災の知識を共有する役割を任された。座学で得た知識を、実際に人と分かち合うこと──それが彼女の自信につながった。


 初めて開いた公開講座の日、来たる者は少なかった。しかし、リリーナは一冊一冊、静かに話し始めた。魔導書の危険と、封印の意味、そしてWARP魔導の扱い方の基本――難しい話を噛み砕いて語るうちに、聴衆の目が変わっていくのがわかった。質問が出、議論が生まれ、笑い声が一つ混じったとき、彼女は自分が孤独ではないことに気づいた。



挫折と再起


 もちろん、順調ばかりではない。城下の噂や古い敵対勢力の揶揄が耳に入る日もあった。ある晩、悪意ある言葉が窓辺に投げつけられ、リリーナは自室に戻ってしまう。しばらくは外出を控え、古い殻に戻りかけた。


 そのとき、王子が静かに部屋に入ってきて、何も言わずに隣に座った。彼はただ手を差し出した。強制はしない。だがその手の存在が、リリーナの内なる闘いをやわらげた。再び立ち上がる勇気は、彼女自身が掴み取ったものだが、支えは確かにそこにあった。



明確な決断 — 公の場へ


 季節が一つ巡り、街の再建祭が開かれる日。リリーナは自ら公の場で演説することを決める。内容は、魔導書の知見を活かした防災対策と、若い女性たちの自立支援の提案だった。壇上に立つと、かつての閉ざされた日々が嘘のように思えた。声は初めは震えたが、言葉は真っ直ぐに人々の心へ届いていった。


 式の後、多くの人が彼女に歩み寄り、感謝や励ましの言葉を送った。リリーナは初めて、自分がこの街の一部であることを深く理解した。



新しい日常


 それからは、引きこもりだった日々が完全に消えるわけではない。疲労や不安、時折襲う孤独は残る。しかしリリーナはそれを恐れなくなった。休むことも戦うことも、自分で選べるようになったからだ。庭の苗木は育ち、図書室には常連ができ、彼女は小さなコミュニティの中心の一人になった。


 王子との関係も変わった。以前よりも対等に、穏やかに寄り添い合う。二人で魔導書を研究する夜、彼女はふと笑って言った。


「ねえ、あの夢のこと――きっと私たちに必要な出来事だったのね」


 王子は頷き、窓の向こうの星空を見上げた。

「必要だった。だが、もう夢に囚われることはない。君がいるから。」


 リリーナはその言葉を胸に、深く息を吐いた。外の風が彼女の髪を撫で、城は静かに新しい日常を迎えた。


第21王子が「すべては夢であった」と気づいた後も、胸の中には失った仲間や愛した許嫁たちの幻影が残り続けた。孤独の渦に飲まれ、再び引きこもりの闇に囚われかけたそのとき――ただ一人の女性が彼の前に現れた。


彼女はどの夢の中の許嫁とも違った。見知らぬはずなのに、なぜか懐かしい温もりを纏っていた。

「あなたはまだ歩ける。夢に閉じこもるのではなく、現の人生を」

その声は、迷子となった魂を現実へと引き戻す鐘の音のようだった。


彼女は「本当の妻」だった。運命や魔導書や結晶の導きではなく、ただ人として王子を愛した女性。

彼女の微笑みに手を取られたとき、王子の胸の奥に長く閉ざされていた扉が開いた。


――そして彼はようやく、「人生を歩む」ことを選ぶ。

剣も魔法も夢もすべて背に置き、ただ一人の妻と共に、ひとりの人間として。

第21王子は王でも勇者でもなく、初めて「夫」としての道を進み出した。


それは血塗られた戦乱や裏切りとは無縁の、新しい物語の始まりであった。


―――

次回も楽しみに

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