リィナ・クロニクルVI ― 創世の継承者 ―
前回までのリィナは?
第一節 ― 大陸の門
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――光が、戻ってきた。
黒き覇者〈ネファリス〉が滅び、虚界の裂け目は閉じられた。
だが、戦いの代償として英雄リィナは光の中に消えた。
残されたのは、彼女の子――アルヴェイン。
まだ二十にも満たぬ若き王が、大陸の命運を背負う時代が始まる。
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風が吹く。
かつて戦場だった荒野には、草花が芽吹いていた。
かの戦争から五年。人々はようやく“平穏”という言葉を口にするようになった。
しかし――その静寂の裏で、新たな門が開こうとしていた。
北方の終焉山脈。その最奥に存在する“禁断の地”に、巨大な石門が現れたのだ。
名を〈大陸の門〉。
それは、創世以前――神々が世界を分かつ際に封印した“もう一つの世界”へと通じる扉。
この報を受けたアルヴェインは、王城の塔から北の空を見上げた。
その目には、かつて母が宿した決意の炎が確かにあった。
「……母上。
貴女が命を賭して護ったこの世界が、また闇に沈もうとしている。
俺は――逃げない。」
若き王は、重い外套を羽織り、剣を腰に差した。
彼の傍らに控えるのは、母の時代から続く忠臣、老魔導士レメル。
そして、今代の騎士団長にして幼馴染の女戦士・セリアだった。
「陛下。北の封印は確かに動いております。
何かが、外からではなく“内から”門を叩いております。」
「……中から?」
「はい。まるでこの世界そのものが、外へ出ようとしているような……」
レメルの言葉に、セリアは眉をひそめた。
「まるで、世界が牢獄だとでも言いたげだな。」
アルヴェインは黙っていた。
胸の奥で、母の声が微かに響いている気がした。
――“門を開くな”。
あの戦いの記憶。母が消える間際、確かにそう言っていた。
だが。
「それでも、見に行かねばならない。」
アルヴェインは呟いた。
「もし、この世界が再び滅びに向かうのなら、俺は……止める。」
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北方への進軍は、慎重を極めた。
雪嶺を越え、荒地を渡り、凍てつく谷を抜けた先に――それはあった。
〈大陸の門〉。
黒曜石のような質感を持つ巨大な扉が、天地を貫いていた。
そこから漏れる光は青でも赤でもなく、どこか“記憶”のように淡く揺らいでいる。
セリアが息を呑んだ。
「……門が、呼んでいる。」
「誰を?」
「……貴方を、陛下。」
その瞬間、地面が震えた。
凍てつく大地から黒い腕が伸び、兵たちの足を掴む。
地の底から溢れ出したのは、かつて虚界で滅んだはずの“虚神の残滓”。
光なき魂たちが、またも蘇ったのだ。
「陛下、退避を!」
「いや――」
アルヴェインは剣を抜いた。
刃が放つ光は、母が遺した〈創世の剣〉の欠片から作られたもの。
その一振りが、闇を裂いた。
「……母上の光よ、俺に力を!」
閃光が走り、虚神の群れが一斉に霧散した。
だが、門の奥から新たな声が響く。
「よく来たな、創世の血脈よ。」
聞いたことのない声――いや、どこか懐かしい響き。
その声は、リィナに酷似していた。
アルヴェインの心臓が跳ねる。
「母上……なのか?」
だが門の向こうに立つのは、同じ顔をした“別の存在”。
淡い青い髪、黄金の瞳――まるで“若かりし日のリィナ”がそこにいた。
「……違う。貴様は――誰だ?」
彼女は微笑んだ。
「私はリィナ。だが、お前の母ではない。
――もう一つの大陸の、リィナだ。」
門の向こうには、もう一つの“創世”。
そして、もう一人の英雄が存在していた。
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風が止み、世界が凍りつく。
異なる二つのリィナの血脈が、今、門を挟んで対峙した。
大陸の運命が再び回り始める。
――新たな戦いの夜明けが、そこにあった。
次回も楽しみに




