異界決戦 ― リィナ・クロニクルIII ―
前回までのリィナは?
第二章 戦端
空が裂けたあの日から、世界は確かに何かが変わってしまった。
リィナが目を覚ましたのは、黒い灰が降りしきる戦場の跡地だった。地平線まで広がる瓦礫の海。焦げた風が吹きすさび、崩れた塔の影に、まだ息のある兵が呻いている。
彼女の周囲には、仲間だった者たちの痕跡が散らばっていた。焦げた旗。割れた魔導石。折れた剣。そのどれもが、かつて「希望」と呼ばれた軍の象徴だった。
リィナは胸に手を当て、そこに埋め込まれた「星核」の脈動を感じ取る。それはまるで、世界そのものが彼女の体を通して鼓動しているかのようだった。
「……ここまでか。けれど、まだ終わらせない」
彼女は立ち上がる。視界の端、黒い裂け目――アビスゲート――の中から、異形の群れが再び現れ始めていた。
あの空の裂け目は、世界を二つに分けた。人の理と、虚無の理。神々の領域と、人の世界。その境界を無理に繋げようとしたのが、他でもないリィナたち「黎明の継承者」だった。
その代償が、これだった。
地響きと共に、黒い影が地上に降り注ぐ。翼を持つ獣、肉のような触手、意思を持つ炎。いずれもかつての魔獣とは違い、理を食い破って存在する“異界生命”だった。
リィナは腰のホルスターから蒼い刃を抜く。それは、アリュス――かつての師が鍛えた“聖断剣”だった。
「……師匠、見てて。もう、誰も奪わせない」
剣を掲げ、リィナは魔力を解き放つ。蒼い光が周囲を包み、空気が震える。
その光景を遠くの丘から見下ろしていた者がいた。黒衣の男――カイン。かつてリィナの右腕だった男であり、今はアビスの尖兵として、虚界に魂を売った存在。
「また立ち上がるか、リィナ。だが、それはもう人の戦いじゃない。世界そのものが、お前の敵になる」
カインの瞳は深い闇のように光り、掌には虚界の紋章が刻まれていた。
その瞬間、地平線の向こうで巨大な塔――虚神兵器〈アトラ・ゲート〉が動き出す。天を突くような黒鉄の柱が、裂けた空へと伸び、次元を繋ぎ直そうとしていた。
「始まったな……“戦端”が」
風が吹き抜け、灰が舞い上がる。
リィナはその中で剣を握りしめた。再び空を裂く戦いが始まる――神と人、そして虚界が交錯する、終焉の幕開け。
次回も楽しみに




