黒き太陽の下で ― 神々の黄昏(ラグナロク) ―
前回までの王子は?
風が止んだ。
荒野の果て、空は裂け、黒い太陽が静かに浮かんでいた。
その光は、光ではなかった。世界を照らすどころか、あらゆる影を濃くし、命の色を吸い取っていく。
リィナは焦げついた大地に膝をつき、血のような空を仰いだ。
「……これが、終焉なの……?」
その声は掠れ、誰に届くでもなく消えた。
背後で、仲間たちが倒れていた。
双剣の戦士・アッシュは胸に深い裂傷を負い、まだ微かに息をしている。
賢者のミナは、魔力の暴走を抑えるために己の命を削っていた。
そして、少年神官リュカは両手を祈りの形に固めたまま、冷たい灰の中で動かない。
――それでも、リィナは剣を手放さなかった。
「私は……終わらせない。この世界も、この戦いも、誰かの運命も……!」
荒れ狂う風の中、黒い太陽の中心から、ひとつの“影”が歩み出る。
それは人の形をしていたが、目は虚無のように冷たい。
「やはり、来たか。リィナ・クロニクル」
影が笑った。
「お前の中に眠る“黎明の記憶”こそ、我らが神々を葬る最後の鍵――」
リィナは立ち上がる。
その瞳に宿るのは恐怖ではなく、決意。
「……あなたたちが神を名乗るなら、私は人として抗う」
剣を構えた瞬間、足元の大地が割れ、過去と未来の映像が一気に流れ込んでくる。
幼き日の笑顔、炎に包まれた王都、父が残した言葉――
『リィナ、お前が見る未来は、必ず“誰かの絶望の上”にある。
それでも進め。お前が選ぶなら、それが希望に変わる。』
涙が頬を伝う。
「父さん……私は――」
叫びと共に、リィナは天へと跳んだ。
黒き太陽に斬りつけるその瞬間、時間が止まる。
光と闇、神と人、そして“記憶と存在”が溶け合い、世界は再び書き換えられた。
……
――気づけば、そこは緑に満ちた大地だった。
鳥の声、風の匂い、そして優しい陽光。
リィナは手を見る。
血も、傷もない。だが、胸の奥に確かな痛みがあった。
「……終わった、の?」
誰も答えない。
ただ、遠くの丘の上に一本の白い花が咲いていた。
その花の中心には、小さな光が脈打っている。
リィナは微笑み、剣を置いた。
「ありがとう、みんな。私は――生きる」
そして、再び歩き出した。
この世界の“始まり”を見届けるために。
『黒き太陽の下で ― 神々の黄昏 ―』
――この章は、リィナの“最初の終焉”であり、次なる世界の“始まり”です。
彼女が見たのは絶望の果てではなく、光を失った先にある「再生」。
神と人、記憶と存在、その境界が曖昧になる中で、
「生きる」という選択だけが確かな祈りとして残ります。




