覚醒の瞬間
前回のお話は?
戦士の胸の奥で、何かが弾けた
限界を超えた肉体の痛みも、疲労も、すべてを忘れさせる衝撃だった
闇眼の王の無数の眼が光を吸い込む
しかし、その光はただの光ではなかった
仲間たちの声、笑顔、怒り、後悔――すべてが剣に宿り、戦士の意志と一体化した瞬間だった
「……俺は、諦めない」
声に力が宿る
剣先から炎が爆ぜ、光の柱が天へと伸びる
闇が震え、王の槍の群れを押し返す
身体を貫く痛みも、心を裂く絶望も、
今やすべてが力に変わる
戦士の目は燃え、全身から力が迸り、闇を裂く一閃となった
王が唸り、後退する
「まさか……人の意志が、ここまで……」
戦士は踏み出した
光を纏い、仲間の想いを背負い、闇眼の王に向かって一歩一歩進む
全ての力が彼の刃に集結し、決着の時が迫ろうとしていた
覚醒した戦士――
その姿はもはや、単なる人ではなく、光そのものの化身のように見えた
「光と闇の決戦」
戦士の刃から放たれる光が、夜空を裂き、大地を焦がす
闇眼の王はその光を避けるでもなく、ただ睨み返すだけだった
無数の槍、無数の眼が一斉に揺らぎ、光の奔流に飲み込まれていく
「お前の力……ここまでか」
王の低い声が、闇を震わせた
しかし戦士は答えない
答える必要などない
ただ、全てを終わらせるために、剣を振るうのみだった
一歩一歩、光の足跡が闇を焼き尽くす
地面が割れ、赤黒い裂け目から無数の腕が飛び出す
だが光は消えず、逆にそれを焼き尽くして進む
王の姿が揺れた
影の輪郭が崩れ、無数の眼が焦点を失っていく
「……こんな力を……人が……」
言葉は息とともに途切れ、もはや声ではなく呻きになった
戦士は踏み込む
光と意志のすべてを剣に込め、王の胸元に突き出した
世界が一瞬、眩い閃光に包まれ、闇は音を立てて崩れ落ちた
そして光が収まると、そこには静寂だけが残った
戦士の胸には、勝利の歓喜よりも、失われた仲間たちへの深い痛みが残っていた
覚醒の力で勝利は得た
だが代償として、彼の心には深い傷と、これからも戦い続ける覚悟が刻まれた
「もう1人の許嫁」
光と闇の戦いが終わり、静寂が訪れた
崩れた大地の裂け目から、かすかな風が吹き上がり、血と灰の匂いを運んでくる
戦士は剣を地に突き立て、震える腕でそれを支えながら、遠い空を見上げていた
「……終わったのか」
その声に答える者はなかった
だが次の瞬間、崩れ落ちた瓦礫の向こうから、ゆっくりと歩み出る影があった
彼女だった
いや――彼女に似ていたが、違った
最初にこの世界で自分の許嫁として現れた少女ではなく、もうひとりの「許嫁」
銀の髪を揺らし、冷たい瞳で戦士を見つめる
「……やはり、あなたが“始源の火”を継ぐ者だったのね」
戦士の呼吸が止まる
「誰だ……お前は」
少女は微笑むことなく、淡々と答えた
「私は“契約の花嫁”――あなたが生まれる前から、この世界で定められた許嫁」
その言葉は刃より鋭く、戦士の胸を突き刺した
「もう一人……許嫁……?」
彼女は近づき、血と灰にまみれた剣を見下ろした
「闇眼の王は倒れた。けれど、闇は終わっていない
あなたには、まだ果たすべき契約が残っている」
戦士は剣を握り直した
疲労と痛みに軋む身体を無理やり立たせ、彼女の瞳を見返す
「……契約だと?俺は誰のものでもない」
少女の口元に、わずかに笑みが浮かんだ
「そう言えるうちは、まだあなたは人間のまま」
その言葉は、これから訪れる新たな戦いと試練を告げるものだった
――娘――
荒れ果てた戦場の片隅に、ひとりの少女が立っていた。
風に舞う血煙の中でも、その瞳は驚くほど澄んでいる。
彼女は「娘」だった。
かつて戦士が密かに託された命。だが本人はその存在を知らず、ただ生まれながらに強き力を宿していた。
運命は皮肉にも、父と同じ戦場に彼女を立たせる。
父はすでに限界を超えて覚醒し、炎のように燃え上がっていた。
そして、その炎に引き寄せられるかのように、娘の血もまた震え、応える。
「……これが、私の力……?」
光が迸り、父と娘の力は重なり合う。
敵の咆哮も、戦場の轟きも、その瞬間だけはかき消された。
――父と娘、血に刻まれた宿命が、今ひとつになる。
次回も楽しみに




