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異世界転生したら第21王子だったけど、許嫁も侍女も姫も俺に夢中で嫉妬の嵐 モテすぎて部屋に引きこもってます  作者: マーたん


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育ての母、最期の言葉

今回の物語では、かしんが初めて「仲間の裏切り」と向き合う姿を描きました。

育ての母を失った直後、彼はさらに大切な仲間を女神の罠によって奪われてしまいます。

前世の兵法の記憶が蘇りつつも、感情と理の間で揺れ動く姿は、まさに「王となる者の試練」そのものでした。


かしんにとって、守るための戦いは苦痛でありながらも、未来へ進む唯一の道。

彼の誓いがどのように実を結ぶのか――。

今回はその一端を描く章となっています。

『育ての母、最期の言葉』


戦いの嵐を越えても、かしんの胸には安らぎは訪れなかった。

彼が拠点としていた洞窟の奥、その焚き火のそばで待っていたのは――幼き頃から世話をしてくれた「育ての母」と呼ぶ存在、老いたゴブリンの女だった。


彼女は人間で言えば老婆のような風貌だが、誰よりも温かく、誰よりも厳しかった。

かしんが傷を負って帰れば黙って薬草を塗り、食事を分け、時に「弱音を吐くな」と叱咤した。

女神の罠に翻弄されながらも、彼が生き延びられたのは、その母の存在あってこそだった。


――だが、今。


焚き火の揺らぎの中、母は痩せた体を横たえ、荒い息を繰り返していた。

胸には深い裂傷。人間の傭兵たちの襲撃から、かしんを庇ったときに負った致命傷だった。


「……か、かしん……」


その声は掠れ、今にも途切れそうだった。

かしんは必死に母の傍らに膝をつき、傷を押さえ、震える声で叫ぶ。


「待ってろ! すぐに薬草を煎じる、血を止める方法を……!」


だが、母は首を横に振った。

「もう……よいんだよ。お前は……十分に強くなった。私の役目は……ここまでだ」


かしんの目から熱い涙が零れ落ちる。

前世の戦場では、仲間の死を幾度も見た。

だが、母を失う痛みは、それとは比べものにならないほど鋭く胸を裂いた。


「なぜ……なぜ俺を庇った……! 俺なんかより……!」


母は微笑んだ。皺だらけの顔に、かつてと変わらぬ優しさを宿しながら。

「母とは……そういうものさ。血が繋がっていようがいまいが、関係はない。お前は……私の子……」


その言葉が途切れる。

焚き火がパチリと音を立て、闇が広がる。


かしんは叫んだ。

「待て! まだ話してくれ! まだ……俺は……!」


しかし、その願いは届かず。

母の瞳から光が失われ、静寂が洞窟を満たした。


かしんの拳が地面を叩く。血が滲むほどに、何度も。

「女神……! お前のせいか……! また俺から、大切なものを奪うのか!!」


森の奥で、微かな笑い声が響いた。

女神の声だった。

「憎しみが強くなるほど、試練は深まる……それこそが、私の望みよ」


かしんは涙を拭い、母の亡骸を抱き締めた。

その体は小さく、かつては頼もしかった背中も、今は羽のように軽い。


「……母さん。俺は、必ず仇を討つ。お前が命を懸けて守った、この命を……無駄にはしない」


その誓いは、炎に照らされ、静かに夜空へと昇っていった。




『誓いの焔 ― 母を失った夜』


洞窟の奥に静寂が広がる。

焚き火の炎が揺らめき、亡骸を照らし出していた。


かしんはその傍らに座り込み、ずっと動けずにいた。

母の冷たい手を握りしめたまま、血に濡れた自分の指先を見つめる。


「……俺がもっと強ければ。俺がもっと早く……」


その呟きは誰にも届かず、ただ虚空に溶けていった。

だが、頭の奥では確かに声が響いていた。

女神の声だ。


――お前が弱かったから、母は死んだのだ。

――憎め。憎めば力が宿る。怒りに身を委ねよ。


かしんは耳を塞いだ。だが声は止まらない。

心の奥へ、深く深く染み込むように囁き続ける。


「黙れ……俺は、あんたの操り人形じゃない」


しかし胸の奥に渦巻く怒りは、女神の囁きを否定しきれないほど強かった。

母を奪った人間たちへの憎しみ。

母を死に追いやった女神への怒り。

そして、無力だった自分自身への絶望。


焚き火が小さく爆ぜた瞬間、母の懐から一枚の布切れが落ちた。

それは古びた布に縫い込まれた模様――獣族の古い紋章だった。


かしんは拾い上げ、指でなぞった。

すると、母の最後の声が胸の奥で蘇るような気がした。


「お前は、守るために生まれてきた……憎しみのためじゃない……」


涙が頬を伝う。

その言葉が、怒りに呑まれかけた心をかすかに繋ぎ止める。


「守る……か」


拳を握りしめた。震える手がまだ弱さを示していた。

それでも、母の言葉を裏切るわけにはいかない。


その夜、かしんは母を洞窟の外に運び出し、森の奥深くに墓を作った。

月明かりに照らされる小さな塚の前で、かしんは膝をつき、誓いを立てる。


「母さん。俺は必ず、この森を守る。仲間を守る。……そして、女神の思惑を必ず打ち砕く」


すると風が吹き、森の木々がざわめいた。

まるで母の魂が応えるように、葉音が優しく響いた。


だがその一方で、影の中からは冷たい笑い声がこだました。

女神の気配だ。


――お前は守ると誓ったな。ならば試してやろう。

――次に現れるのは、お前の「仲間」だ。彼らの中に裏切りがあれば……お前は守れるのか?


焚き火が吹き消されたかのように暗闇が広がる。

かしんは立ち上がり、腰の剣を握りしめた。


「来いよ……。今度は俺が試す番だ」


その瞳には、涙と怒り、そして新たな決意が宿っていた。




『裂かれる絆 ― 裏切りの影』


母を弔った夜から数日。

かしんは仲間のゴブリンたちと共に、森の奥で新たな拠点を築こうとしていた。

「守るために生きる」という誓いが、彼を前へと突き動かしていた。


だが、空気のどこかにざらつく違和感が漂っていた。

笑い声や会話の裏に、妙な緊張が混じる。

視線が交わるたび、互いを測るような鋭さが見え隠れする。


ある夜。

仲間の一人、若きゴブリン「グラット」が、かしんに刃を突きつけた。


「……母を失ってお前は弱くなった。俺たちは、お前じゃ守れねぇ」


その目は赤く濁り、まるで狂気に呑まれているようだった。

女神の囁きが背後から聞こえる。


――そうだ。奴は裏切ったのではない。

――ただ真実に目覚めただけだ。


「黙れ!」かしんは叫び、剣を抜いた。

だが、胸の奥が痛んだ。

かつて共に笑い、共に狩りをした仲間に、なぜ刃を向けなければならないのか。


グラットは嗤った。

「女神は俺に力をくれた! お前がいなくても俺たちは生き残れる!」


その身体から黒い炎のような気配が噴き上がる。

女神の力に魅入られた証だ。


かしんの脳裏に母の声が蘇る。

――憎しみに呑まれるな。守るために戦え。


「……分かってるさ」


剣を構え、かしんは一歩前に出た。

刃と刃が激しくぶつかり合い、火花が散る。

仲間たちは息を呑んで見守る。


戦いの最中、かしんは前世の記憶を呼び覚ます。

戦場で幾度も味わった「同胞の裏切り」。

兵法の極意はこう告げていた――「裏切りを恐れるな、それをも戦力に変えろ」。


かしんは叫ぶ。

「お前の心はまだ奪われてない! 立ち戻れ、グラット!」


だが返ってきたのは、憎悪に濁った咆哮だった。

黒い炎が一層強くなり、森の木々を焼き焦がす。


勝負は避けられない。

かしんは最後の一撃に力を込め、剣を振り下ろした。


刃はグラットの武器を弾き飛ばし、彼の胸を裂いた。

血が溢れ、グラットは倒れ込む。


その瞬間、黒い炎は霧散した。

彼の目から狂気が消え、ただ苦痛と後悔の色が残る。


「かしん……俺は……女神に……」


「もういい。喋るな」

かしんは膝をつき、仲間の手を握った。


グラットは微笑み、そして静かに息絶えた。


――仲間を救えなかった。

その現実が胸に重くのしかかる。


女神の声が再び響く。

――いいぞ。もっと失え。もっと傷つけ。

――そうすれば、いずれお前は私のものになる。


「ふざけるな……」

涙を流しながらも、かしんは剣を握りしめて立ち上がった。


「俺は必ず、お前を討つ。母のため、仲間のため、……そして俺自身のために!」


森に風が吹き抜ける。

その中で、かしんの背は一回り大きく見えた。

仲間を失い、女神の影響がますます濃くなっていく中で、かしんは「守る者」として大きく成長しました。

しかし同時に、「女神に仕組まれた因果の罠」は深まるばかりです。


次章では、母が遺した紋章に隠された「古代兵法」の秘密、あるいはゴブリン社会そのものが二分される「内乱」の兆しが語られていく予定です。

今回の裏切りは、単なる仲間との対立ではなく、やがて訪れる大規模な試練の序章に過ぎません。


――因果の鎖を断ち切るために。

かしんの戦いは、まだ続きます。

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