闇眼の王
闇眼の王と戦士の決戦は、もはや人の領域を超えた光と闇の激突となった。
その剣に宿った「始源の火」は、仲間たちの想いを束ね、絶望の中で灯る唯一の希望の炎。
しかし同時に、それは古の伝承に語られる禁忌の力でもあった。
なぜ彼の剣に火が宿ったのか。なぜ王はそれを知っているのか。
闇と光が絡み合うなかで、真実が暴かれようとしていた。
剣が振り下ろされた瞬間、闇は裂けた。
黒い霧が四散し、骨のような輪郭がぎらりと光を反射する。
しかし、それは傷ついたのではなく、むしろ笑うように揺らめいた。
「……効かない、のか」
戦士の声は乾いた唇から零れ落ちた。
次の瞬間、影の無数の腕が伸び、戦士を取り囲んだ。
冷たい触手が肌を撫で、心臓にまで届く錯覚を与える。
視界の端で、倒れ伏した仲間たちの姿が霞のように現れては消えた。
「お前は……守れなかった」
影の声が耳元で囁く。
それは死んだ仲間の声でもあり、彼自身の心の奥底の声でもあった。
戦士は目を見開き、膝が折れそうになる。
だが、崩れ落ちる寸前、胸の奥で小さな炎が灯った。
「……まだ、終わらせない」
剣を再び握り直し、影へと踏み込む。
その刹那、闇の奥で赤黒い瞳が開いた。
無数の眼差しが彼を射抜き、世界が震えた。
光と闇が、再びぶつかろうとしていた。
剣の切っ先が影を貫く――はずだった。
しかし刃は、深淵に落ちるかのようにすり抜け、ただ冷たい抵抗だけを残した。
「無駄だ。形を持たぬものに、刃は届かぬ」
低く響いた声が、地を震わせる。
その声に合わせ、闇の海が広がり、足元の大地さえ飲み込まれていく。
戦士は歯を食いしばり、膝まで浸かる闇に抗いながら前を見据えた。
赤黒い瞳――“闇眼の王”と呼ばれる存在が、ゆっくりと人の形を結んでいく。
巨躯に幾千もの眼を宿し、無数の槍を握りしめた怪物。
「……それでも斬る。たとえ届かなくても」
戦士の叫びと共に、剣が再び振り下ろされる。
その瞬間、刃に淡い光が灯った。
それは誰も見たことのない輝き――絶望の闇の中で、ただ一つ残された炎のようだった。
影が唸り、世界が震えた。
闇眼の王の無数の瞳が、一斉に戦士へと注がれる。
戦いは、ここから始まろうとしていた。
光が迸った瞬間、影は激しく揺れた。
闇眼の王の無数の瞳が、一斉に眩しさを避けるように瞬きを繰り返す。
「……光、だと……?」
低く轟く声が震え、谷全体に響いた。
戦士の手にある剣は、確かに淡い炎を宿していた。
その火は刃の形を超えて溢れ出し、彼の胸の鼓動に呼応するように脈打っている。
「これは……仲間たちの……!」
気づけば、彼の背に無数の影が揺らめいていた。
それは倒れた者たちの残響。苦しみ、悔い、願い。
全てが彼の剣に集い、光へと変わっていた。
闇眼の王はその光を見据え、嘲るように笑った。
「亡者の声を束ねたところで、闇に抗えると思うか」
次の瞬間、地面から槍のような黒い腕が幾重にも伸び、戦士を貫こうと襲いかかる。
しかし、剣を振るうたび光が弾け、闇を切り裂いた。
まるで夜明けの一閃のように。
「俺は……一人じゃない!」
叫びが空を裂いた。
闇眼の王の眼差しが鋭さを増し、戦いの場は光と影の奔流に飲み込まれていく。
戦士の一歩ごとに、暗闇が押し返されていった。
光と闇がぶつかり合うたび、谷は軋み、空は裂けた。
戦士の剣が振るわれるたび、光の波が奔り、闇眼の王の無数の槍を弾き返していく。
しかし、王の眼差しは揺らがなかった。
「小さき炎……いずれは尽きる運命だ」
次の瞬間、大地そのものが黒く変貌し、戦士の足元をすくい取る。
重力を裏返したような感覚――彼の身体は宙へと引きずられ、闇の渦に呑み込まれそうになる。
「まだだ!」
戦士は宙で体を捻り、剣を大地へ突き立てた。
刃から広がる光が、足場を作り、再び彼を支える。
その光景を見た王は、わずかに目を細めた。
「……愚かなる人よ。なぜそこまで抗う。お前の命など、既に孤独に閉ざされている」
戦士は息を荒げながらも、剣を構え直す。
「孤独じゃない……。俺の剣には、みんながいる!」
その言葉に呼応するように、再び刃が輝き、かつての仲間たちの影が一瞬だけ背後に浮かび上がった。
それは幻影か、あるいは魂の記憶か――。
闇眼の王は初めて、低く唸った。
「その光……まさか、失われた“始源の火”か」
空気が震えた。
戦士の剣に宿る力の正体が、少しずつ明らかになろうとしていた。
今回はついに「始源の火」の存在が示されました。
戦士の剣がただの光ではなく、歴史の深淵に繋がる特別な力だと分かったことで、物語はさらに大きなスケールへ広がっていきます。
次回は、王がなぜその火を恐れ、同時に求めるのか――その理由が明らかになります。
戦士の覚醒か、それとも王の真意か。決戦の核心が動き出します。
――次回もお楽しみに。




