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番外編 5 :ローズマリー視点

ローズマリーとセドリック、ファイッ!

 三年後。


「まあ、お姉様。わざわざ見送りにきてくださったのですか? お身体にさわりません?」

「これくらいの運動はした方が良いと言われているのよ、お医者様に」

「そうですか・・・。なら、良いのですけれど、お大事になさってくださいませ。お腹には、赤ちゃんがいるのですもの」

「ええ、分かっているわ」


 おっとりと微笑む姉。彼女を見て、義兄と姉の家に遊びにきていたローズマリーは、はっとした。


(なんてお美しくなったのかしら。わたくし、お姉様の妹で良かったわ。お姉様のお美しいお姿をこんなに間近で見られるのですもの)


 ローズマリーはうっとりとそう思いながら、微笑んだ。


「お姉様のお子様、男の子でしょうか? それとも、女の子でしょうか? 楽しみですわね」

「ええ、本当に。わたくしも、セドリックも楽しみにしているのよ。セドリックなんて、もう既に抱っこの練習を始めているのよ、重いもので」


 ね、可笑しいでしょう? とクラリスが微笑しながら、同意を求めるのに答えながらローズマリーは別のことに気をとられていた。


(セドリック、ですって? お姉様、一体いつの間にそんなにあの男に気を許されたのかしら。ここは一つ、気にかけておくべきね)


 (クラリス)への愛を拗らせまくっていると言っても過言ではないローズマリー。姉の夫にすら、対抗心を燃やしていた。


♢♢♢


「と言うわけで、勝負よ!」


 びしいっ、と指を義兄に突きつけ、もう片方の手を腰に当てて仁王立ちしているのはローズマリーだ。一方、突きつけられている方のセドリックはぽかんと口を開いていた。


「・・・は?」


「は、じゃないわよ! 仮にもお姉様の伴侶なら、どんなときでもびしっとしていなさいよ!」


「は? いやいや、本気で意味が分からないんだが。何でそれで勝負なんだ? しかも、お茶利きって・・・」


「仕方ないでしょう! 女の身では残念ながら、力では勝てないし。かといって、知力で勝負するのは本望ではないわ。だからこそ、お茶利きよ!」


 ローズマリーの指を自分からはずし、呆れた顔でセドリックは問うた。


「まず、何で勝負なんだよ?」


 そう、そこが問題である。


「あら、決まっているでしょう? お姉様がお義兄様を呼び捨てにしているからよ! お姉様に愛されているのは仕方が無いとは言え、お姉様に呼び捨てにされていいのはわたくしと、ロゼだけよ!」


「ロゼ? ・・・ああ、ロゼリッタ第一王女殿下か」


「ええ、そうよ!」


 セドリックは納得したように頷くと、黒い笑顔を浮かべてみせた。


「そう言うことなら良いだろう。俺が負けたら、クラリスが呼び捨てにして良いのは二人だけ。俺が勝ったら、俺もそこに入れてもらう。それで良いんだな?」

「もちろんよ。二言は無いわ!」


 啖呵を切ったローズマリーは、強気な笑みを浮かべると、ぱんっと手を叩いた。その音で使用人たちが面白がっている笑顔で入ってきた。


「紅茶でございます。全部で七種類。少々多いかもしれませんが、お二人にはこれくらいが良いかと思いまして。ミルクなど、味を変えるものは入れておりません。————お二人の健闘をお祈り申し上げます」


 最後の一言は完全に面白がっていることが明白だったけれど、セドリックとローズマリーはお互いに笑顔でにらみ合った。同時に椅子に腰を下ろす。


「・・・って、いやいや待て待て。何でウチの使用人が、ローズマリーに従ってるんだよ?」

「あら、わたくしがお姉様の妹、だからですわ」


 やけに、妹を強調したローズマリーに、


「俺はクラリスの夫、だがな?」


 セドリックも負けていない。


 両者は不気味なほど笑顔のまま、用意されていく紅茶を挟んで睨み合っていた。


「ではお待たせ致しました。こちらが一つ目でございます。お二方ともに、同じ紅茶を用意致しております。声に出さず、こちらの紙に答えを書いてそれぞれ傍に控えている使用人にお渡しくださいませ」


 ほう、中々しっかりしたルールじゃないか、とセドリックが感心したように呟く。ローズマリーも、そうでしょう、と自信満々に笑んだ。


 二人は無言で紅茶を飲み、即座に紙に答えを書いた。


 その後も、無言で行われていく。粛々と行われた勝負は、ついに終わった。


「・・・ごちそうさまでした。美味しかったですわね」


「ああ。流石はウチの執事だな」


「お褒めにあずかり、恐悦至極でございます」


 お茶をいれた老執事が、微笑みを持って礼を述べる。すると、部屋の扉が静かに開き、結果の集計を行っていたメイドが入ってきた。その瞬間、ぴんと空気が張りつめる。


 ・・・と言うよりかは、ローズマリーの冷気が増大しただけだろうか。


 ともかく、ぴんとした空気の中、メイドは何の緊張も含まない笑みを浮かべて口を開いた。


「お待たせ致しました、旦那様、ローズマリー様。結果が出ましたので、発表させていただいてもよろしいでしょうか?」

「・・・ええ、お願いするわ」

「かしこまりました。では、まず一杯目。————ローズマリー様、正解。旦那様は、不正解でございました」


 結果に良かったわ、と安堵するローズマリーに、動揺により体勢を崩すセドリック。


 その後も、メイドにより結果発表は淡々と行われていく。


「七杯目。————ローズマリー様、正解。旦那様、正解。これらの結果より、————ローズマリー様、正解は四回。旦那様は、五回でございましたので、旦那様の勝利でございます」


 ローズマリーは音も無く、その場に崩れ落ち、セドリックは勝利を噛み締めた。


「よしっ! 勝ったぞ、ローズマリー!」


「く・・・やるわね、お義兄様・・・。仕方ない、認めてやるわよ!」


「良かった・・・!」


 と、そこで扉がそうっと静かに開けられた。二人が視線を向けると、そこにいたのは控えめにこちらを覗き込んでいるクラリスだ。


「お姉様!」

「クラリス!」


 タッチの差で、ローズマリーの方が呼ぶのが早かった。


「お邪魔して良かったかしら? ローズマリー、セドリック」


 セドリック呼びに、ローズマリーはぴくっとなるが、


「ええ、もちろんですわ。どうぞお入りになって」

「何をしていたの? 二人とも」


 その質問に、ローズマリーはにこにこと笑顔で答える。


「お茶利きですわ!」

「お茶、きき・・・?」

「はい! お茶の飲んで、何のお茶かを当てるんです」

「楽しそうね。出産したら、ぜひわたくしもやりたいわ」

「ええ、みんなでやりましょうね!」


 クラリスは妊娠中なので、あまり紅茶を飲み過ぎると良くない。そのため、今回は出来ないけれど、約束を取り付けたのだった。


「それにしても、楽しみだな」

「ええ。まだ五ヶ月ほどしか、たっていませんけれど、もう既にこの子が愛おしいですから」

「冬頃に出産予定なのでしょう? もうお名前は決めたのですか?」

「いや、まだだ。だが、冬にちなんだ名前にしたいと思っている」

「ええ。そうなのよ」


 クラリスとセドリックは微笑み合って、互いに見つめ合った。


 お互いを深く思いあう姿は美しいわ、とローズマリーは思う。


 しかし。


(わたくしもいるのに、そんな空気を醸し出されたら困りますわ!)


「お姉様とお義兄様のお姿を見てると、わたくしもそろそろ結婚してみても良いかしらと思いますわね」


 二人だけの世界に入ろうとしていた二人は、はっとしてローズマリーを見ると、取り繕うように微笑んでみせた。


「あ、ああ」

「え、ええ。そうよね」


 もうっ、バレバレだわ。ローズマリーは、そっと口の端を曲げる。それを見て、クラリスが慌てた様子で口を開いた。


「ローズマリー、貴女のことだから、いろいろな人から釣書はもらっているのでしょう? どなたから、いただいているの?」


「ええと、ヴィート・バレッタ侯爵閣下や、隣国のレオン・フィストロイ侯爵令息とかからもいただいたような・・・?」


「ええっ、レオン・フィストロイ!?」


 ローズマリーが確か・・・と記憶を探ると、姉が珍しく大声を上げた。


「あ・・・大声を出してしまってごめんなさい。はしたなかったわ」

「気にするな。それより、レオンを知っているのか?」

「え、ええ。確か・・・」


 姉が語るには、セドリックの職場へ訪ねていったときに、声をかけてくれたのだと言う。短い栗毛に、水色の瞳をした純粋で素直そうな騎士という印象を持ったようだ。


「お姉様がそう思われたのでしたら、良い方そうですわね。あってみようかしら」

「いつ頃、釣書をいただいたの?」

「ええと、一週間ほど前かしら」

「だったら、まだ間に合いそうね。あってみたいのだったら、セドリックからの紹介という形で会ってみるのはどうかしら?」


 クラリスの提案に、嫉妬しそうだった負い目ができたセドリックが即座に頷いた。


「私は構わないが」

「でしたら、ローズマリー次第ね。もし、会ってみたかったらセドリックにお願いなさい」

「はい、お姉様。お義兄様、いざとなったらよろしくお願いします」

「ああ、分かっている。お義父様とお義母様、お義兄様にも相談しつつだがな」


 もし本当に会うなら、ヴィシェロエ公爵家の当主である父とその夫人である母、そして次期当主の兄、ヴィンセントにも話を通さなければならない。


(でも、レオン・フィストロイ様って方はヴィシェロエ公爵家に何か利益をもたらしてくださるのかしら)


 前回、姉のためにと言う名目で、王太子にすり寄るという行動をとったローズマリーなのだ。両親と兄、ヴィンセントは快く許してくれたけれど、せめて自分の婚姻時には何か利益をもたらしてくれる相手でないとローズマリーのいる意味がなくなってしまう。ただの穀潰しにだけはなりたくなかった。


(それに、お姉様とお義兄様にも迷惑をかけるのは望んでいることではないもの)


 ローズマリーは、話題が移り、最近の気候について話している姉夫妻を見つめた。二人は柔らかく微笑み合っている。ローズマリーがこの邸に入り浸っていることは、二人にとって間違いなく迷惑だろう。


 しかし、少しの嫌味ですませてくれる義兄と、毎回笑顔で迎えてくれる姉。結局、二人の厚意に甘えているだけだ。わたしはお姉様の妹なのだから良いでしょう、と偉そうに義兄に言っているけれど、そんなことが許されないのは分かっている。今まで、二人が甘やかしてくれていただけなのだ。


(そろそろ、自分の身の振りを決めなければ。周りにこれ以上、迷惑をかける前に)


 ローズマリーは心を決めた。



ローズマリーの考えがしっかりしてますね・・・。

ちなみに、ローズマリーは現在、十九歳くらいの設定です。

クラリスは二十二歳くらいかなぁ。

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