番外編 4 :ローズマリー視点
それから、数ヶ月後経った。
今では、すっかり姉のクラリスはシューティエ、改め義兄に惚れ込んでいる。姉たちは結婚式を挙げて、二人で新婚生活を送っている。
義兄は、シューティエ公爵家の次男であるため、爵位は継げない。しかし、義兄はいずれ、シューティエ公爵が所有しているバリンドット侯爵を継ぐ予定だ。
しかし、シューティエ公爵が継がせるのは結婚してから一年後、と言われているために、二人は何と今のところ、新居を構えてしまったのだ。
「良いわよねえ、お義兄様は。お姉様と暮らせて。」
いいなあ、とぼやくローズマリー。ぼりぼり、とクッキーをいただきながら、遠慮なく二人がけソファを占領している。
「ローズマリー・・・。お前、邪魔しにきたのか?」
やや殺気立った目で、目の前に座っている義兄、セドリックがローズマリーを見た。
「あら。別によろしいでしょう? だって、お義兄様ったら、どうせお姉様のこと束縛なさってそうですもの。特に夜とか」
ローズマリーがしれっと言い放つと、セドリックの顔が朱くなった。
「黙れ・・・」
「あらあら。先ほどから、そんな乱暴な言葉を義妹に言って良いと思ってらっしゃいますの? お姉様が失望するわよ」
ふふん、と鼻で笑ってみせると、セドリックがうううっと頭を抱え込んで丸くなった。そこに、扉がそうっと開かれた。
「お姉様!」
「クラリス!」
姉の登場に、ローズマリーはニッコリと微笑みながら居住まいを正す。
クラリスは、嫁いでも劣らぬ、いやそれどころか嫁いでからもより美しくなる美貌を惜しげなく笑顔に崩してくれる。
「まあ、ローズマリー。きてくれていたのね! 全然会えなかったから、寂しかったのよ」
「お姉様・・・! わたくしもですわ。お姉様が邸にいらっしゃらないととっても寂しくて・・・。こうしてお会いできるのがとっても嬉しいですわ!」
ローズマリーの相好を崩す様子に、セドリックが先ほどの応酬はどこへ・・・と睨んでくるが、気にしない。
今は、姉との時間が最優先なのだ。
クラリスは嬉しそうに微笑むと、迷わずにローズマリーの隣に座った。すとん、とクラリスの方へ身体が傾く。
「うふ、お姉様!」
「ふふ、わたくしもローズマリーに会えてとっても嬉しいわ。————そう言えば、ローズマリー」
「はいっ!」
クラリスに何度も名前を呼ばれるのが嬉しくって、ローズマリーはにっこにこでお返事した。義兄への対応との格差がひどい。
クラリスは困ったように眉を下げている。
「ローズマリー。貴女、大丈夫かしら? その、王太子殿下のこと・・・」
とたんに、ローズマリーの顔はぐっとしかめられる。クラリスは慌てて謝罪した。
「ごめんなさい、不用意に聞くことではなかったわよね。わたくしったら・・・」
「いえ! お姉様が謝ることはありません! それにしても、あのぼんく・・・いえ、殿下ですが、国王陛下のご指示により、幽閉が決まりました。とは言え、元は王太子の身分を持っていた奴ですから、表向きには病気の療養ですが」
淡々とした報告に、クラリスは驚きに満ちている。
「どういうこと!? わたくし、聞いていないわよ」
クラリスが、自身の夫を可愛らしく睨むと、セドリックは可愛いなあ、と鼻の下を伸ばしながら答えた。
「いや、私も聞いていないよ。今、初めて知ったんだ。クラリス」
公爵令息、そして次期侯爵なのだから、聞いているはずだが、クラリスに嫌われたくない愚か者(義兄)は内緒にしていたようだ。
「お姉様のお耳が汚れるお話ですから、よろしいのか悩みますわね・・・」
う〜ん、と悩んでいる妹にクラリスは柔らかく慈愛に満ちた笑みで促した。
「あら、そんなこと関係ないわ。さあ、話してご覧なさい。わたくし、聞きたいんですもの」
「うっ、分かりました・・・。あの、わたくしはですね、一度も殿下をお誘いしていないんですよ」
「えっ、どういうこと?」
姉は、もう既にローズマリーの計画を知っている。その上で、感謝までしてくれたのだ、ローズマリーに。
そして、その上で今驚いているのである。
「どうして・・・。わたくしを守るために、誘惑したと言っていたではないの」
「いいえ、正確に言えば違うのですわ。いわゆる、思わせぶり、という態度をしたんです。例えば、お姉様と殿下の婚約破棄、とおっても楽しみですわ、みたいにね」
頭の回転が早いクラリスは、すぐに理解したようだ。
「なるほど。貴女の目的が達成されるからであって、自分が結ばれると信じていると言うわけではない、ということね?」
「ええ。そのことを陛下に訴えた結果、『影』たちの証言もあり、事実と認められたのです。だから、わたくしは無罪となりました」
影とは、王家に連なる人にのみつく、隠密のことである。
クラリスは、すっと形の整った眉を寄せた。
「ローズマリー・・・。貴女、相当危ない橋をわたってくれたのね。ありがとう・・・。おかげで、押し付けられていた公務などをこなさなくてすむことになって、本当にほっとしているのよ」
クラリスは純粋にお礼を伝えただけだったのだが、この台詞は、かなりローズマリーとセドリックの怒りを再燃させるものだった。
二人は、視線を交わし、頷き合った。
その後、謎の圧力によって王太子がさらに厳しい北の僻地で監視されながら、強制労働させられることになったのは言うまでもない。
いつも読んでくださり、ありがとうございます。
番外編は元々、短編を書いた後に全て書き終えていて、それらを投稿するためにこの連載版を投稿したようなものなんです、実は。
けれど、投稿しているうちに、あれこんなに本編が簡素で良いのかい? と思いまして、長々と続けさせていただきました 笑
ありがとうございます。
簡素で良いのかと思った後、慌てて本編を書き足していって、その都度投稿して...というのを繰り返していたら、いつの間にか自分の作品の中で最長になってました。嬉しい誤算。
さて、ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
本当はここで番外編は終わる予定...だったんですが、楽しいし、なんだかんだ長続きさせていただいているので、色々と付け足していこーかなと思ってます。
良ければ、覗いてやってください。
そして良ければ、本当に気が向いたらで良いですが、評価やリアクション、感想などをいただけると作者は本当に喜びます。ぜひ、お待ちしています 笑
まだ続く予定ですので、今度もお楽しみください。




