番外編 1:ローズマリー視点
番外編です!
「はあ、疲れたわ。全く、あのぼんくら王太子の相手なんて、誰がしたいと思うのよ」
ローズマリーは、大きなため息をつきながら、誰もいない王城の馬車乗り場に向かう廊下を歩いていた。
先ほどまで、ローズマリーは姉の婚約者である王太子の話し相手になっていた。時に、あざとく、時に可愛らしく。もちろん、会っていることは姉には秘密のことだ。
なぜなら、ローズマリーは姉の婚約者を奪おうとしているのだから。
「全くですね。けれど、それならばどうして貴女はそのバカ王太子の相手をしているんでしょうか?」
不意に、後ろから話しかけられ、どきっと怖さに身を震わせる。
けれど、社交界の薔薇と呼ばれる女性の妹であるローズマリーは、一切慌てず、ゆっくりと振り返ってみせた。
「あら、シューティエ騎士団長様。今日も、訓練でいらっしゃいましたの? いつも、国を守るために働いていただき、本当にありがとう存じますわ。わたくしたち国民は、あなたがたを誇りに思っておりますのよ」
ニッコリと隙のない笑みを浮かべながら、ぺらぺらとしゃべりまくる。
そこにいたのは、滅多に笑わないとされる、国内屈指の強さを持つ騎士団長だった。
全く・・・。油断も隙もないわね。ローズマリーは、無意識に目を細めつつ、彼を不躾にならない程度に観察する。
きらきらと光を美しく反射する紺色の髪の毛に、ローズマリーを見つめている銀色の瞳。その二つは、星空を彷彿させるものであることから、『星空騎士団長』などと呼ばれたりするそうだ。
ローズマリーは、内心では変なあだ名ねと思っているけれど。
「ほう。名前を知ってくださっていたとは。これはこれは。光栄ですね。社交界の美姫姉妹として知られている貴女に憶えられていたとは、何とも嬉しいことだ」
社交界の美姫姉妹と言うワードに、思わず眉根を寄せそうになったけれど、微笑みはそのままに反撃することにした。
「あら、そう光栄と言うほどでもありませんでしょう? だって、『星空騎士団長』様は、どうやら社交界の薔薇たるお姉様がお好きですものね?」
ローズマリーのニッコリと深まった笑みを見ながら、彼は目をみはった。
すぐに、戻ったけれど。
「どういう根拠でそれを仰っているんです?」
「うふふ、ご自分ではご自覚がありませんのね。けれど、しっかりと根拠はありましてよ。実は、お姉様を守るためにわたくし、お姉様に集まる視線をよく観察しておりますの。それで、視線をよく寄越される方の数がもちろん、お姉様は素晴らしい方ですから、多いわけなんです。その一つに」
そこで、言葉を一旦きって彼を悪戯っぽく見つめる。
「シューティエ騎士団長様。あなたの視線を発見したのですわ」
ローズマリーの説明に、星空騎士団長は参ったと言うように両手を挙げて、降参を示した。
「君は、姉君のことが好きだったのですね? 最近、やたらと王太子に近づくようになったなと思ってはいたんだが・・・。」
「ああ、ご存知でしたのね。流石、お姉様をじっくりと見つめていらした方だけありますね」
ローズマリーの痛烈なカウンターに、彼————ここでは便宜的にシューティエと呼ぼうかしら————は苦笑してみせた。
「参りましたね。しかし、私の予想が正しければ、貴女と私の利害は一致しているはずなんですが」
「あら、奇遇ですわね。わたくしもちょうど、そう思っていましたわ」
「やはり。君は姉君を助け出すために、王太子に近寄っているんですか」
シューティエの予想に、ローズマリーはその通りだと頷いた。
「ええ、そうですわ。お姉様は気づいていらっしゃらないようですけれど、あのぼんく・・・いえ、失礼致しました。あの王太子殿下って、相当知能が低いんです。それで、お姉様も王太子殿下には好意を抱いていないと本人に確かめまして・・・。だから、わたくしが王太子殿下を誘惑して、お姉様との婚約を破棄させれば良いと思っていますわ。そして、シューティエ騎士団長様。あなたは、お姉様と婚約なさりたいんでしょう?」
ローズマリーの指摘に、シューティエは恥ずかしがることも、臆することもなく、堂々と頷いた。
その様子に、ローズマリーは内心、この方ならば適任かもしれないわ。お姉様を預けるに足る方だと思えるわね、と思っていた。けれど、それをおくびにも出さず、優美に微笑みを浮かべる。
「ならば、ちょうどよろしいわね。わたくしたち、契約致しません?」
「契約? そこまで、仰々しいことをする必要が?」
シューティエの不思議そうな疑問に、ローズマリーはあら、もちろんよと勝ち気な笑みを貼付けてみせた。
「お姉様を預ける方ですもの。お姉様に危害を加えたり、お姉様を大切に扱わない方は『わたくしが』却下致しますわ。当たり前のことでしてよ。だから、そのことについて、契約をしていただきませんと。お姉様との婚約は認められません」
ローズマリーのはきはきとした物言いに、シューティエはなるほど、と面白そうに目を細めた。
「妹である貴女がまるで、ご両親のようだ。まずは、ご両親を突破せねばと思っていたが、これは私の読み違えのようですね。ならば、よろしい。契約を交わしましょう。契約書はこちらでご用意すればよろしいですか?」
「まさか。わたくしが提案させていただいたんですから、わたくしが用意致します」
「分かりました。それならば、よろしくお願い致します」
「お任せくださいませ」
にっこりと笑って、ローズマリーたちは別れたのだった。
ローズマリーはクラリスの与り知らぬところでこんなことやってました。
もはや姉への愛が重すぎて...笑




