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ククアヴィダ楽団 団欒のとき

♢♢♢


 結果として、ククアヴィダ楽団の初公演は大成功だった。柔らかいファロネの音に、明瞭だけれど深い音も出るアンジェロ、笛で高く芯を持った音色のフィトール、そして、優しく響くハーモニカ。


 それらが組み合わさり、皆はまるで本当に精霊が現れたような気持ちにさせてもらったと、褒めてくれた。


「まさか、ヴィクトリー様がそのように音楽に堪能だとは思いませんでした」と若いメイド。


「お嬢様はやはり、ファロネがとてもお上手ですね」と侍女長。


「ダーロンも素敵な音色でしたよ」とメイド長。


 数々の褒め言葉を贈られ、わたしたちも笑顔で顔を見合わせ合った。


 終わった後は、防音室に向かい、お互いを褒め合う。


「流石、クリーヌ先生ね! わたくし、クリーヌ先生の音色にはうっとりしてしまったわ」

「あら、ありがとうございます。クラリス様もとてもお上手におなりで・・・。最近はさわっていないと仰っていましたけれど、指の練習はかかさなかったようですね。何よりです」


 クリーヌに思いがけず褒められ、微笑む。少し気恥ずかしくなったので、ヴィクトリーも、素敵だったわと話をそらすと、ヴィクトリーはわたしの気持ちはお見通しのようで、苦笑しながらつなげてくれた。


「ありがとうございます。アンジェロは元々、好きでしてね。若い頃から練習していたものですから」

「ああ、そうそう。クラリス様、ご存知かしら?」

「え? 何をですか?」


 クリーヌが面白そうに笑いながら、何かを教えようとしてくれる。ヴィクトリーが、妻をとめようとしている。


 何やら、ヴィクトリーにとって気恥ずかしい思い出のようだから、やめてほしいようだけれど、逆効果だ。ヴィクトリーの滅多に見られない恥ずかしそうな笑顔に引きずり込まれた。


 これには、笑顔で見守ってくれていたアマンダとダーロンも興味を示す。


「ヴィクトリーとわたくしはね、元々音楽で繋がっていたんですよ」

「えっ、クリーヌ先生とヴィクトリーが?」

「やめてください、お嬢様。あまり良い話でもございませんよ?」


 ヴィクトリーがストップをかけようとするものの、わたしはクリーヌを興味津々に見つめた。彼女は、あらあらと面白そうに微笑んでいる。わたしはヴィクトリーがまだごにょごにょと言っていたのを一瞥し、


「お黙りなさい、ヴィクトリー。わたくしとクリーヌ先生が話しているのだもの」


「職権乱用ですよ・・・」


 ヴィクトリーが嘆くようにそう言うけれど、仕方ない。興味はとまってくれないのだから。


 ヴィクトリーは、完全に諦めの顔でわたしたちを見始めた。


「あのね、ヴィクトリーはわたくしの音楽の師ですの」


「えっ!? ヴィクトリーが、クリーヌ先生の、師匠!?」


 衝撃の事実に驚愕する。流石のわたしも、驚きを隠せず、口をぽかんと開けてしまった。ヴィクトリーが苦笑しながら続きを引き継いだ。


「師といっても、一瞬のことでしたが。私のことなどあっという間に追い越して、素晴らしい音楽家になってくれたと思いますし、そもそもそんなに仰々しいものでもありませんでしたしね。そのことは、とてもの()()()()()()()前では言い出せませんから。今では、内緒にしています」


 ヴィクトリーの言葉に、そっと忍び笑いをしてしまった。確かに、クリーヌの師匠ともなれば、さぞかしすごい人なのだろうと思われるに違いない。それが今や、公爵家のカントリーハウスの家令をやっているだなんて、誰も信じられないだろう。


 それだけ、クリーヌが素晴らしく偉大な、そして有名な音楽家だということだ。


「あら、言ってくださればよろしいのに。それに、お嬢様は勘違いなさっているかもしれませんが、この人は実は、今でも音楽活動をしていますのよ」

「え? そうなの?」

「ええ、『ベナーレ』という名前で。ご存知でしょうか?」


 クリーヌの暴露に、わたしは首を傾げたけれど、はっとアマンダとダーロンが息をのんだ。


「わ、わたくし知っていますわ! 最近、とても人気を博している音楽家がいると聞いておりまして。その名前は確かに『ベナーレ』さんでした」

「私も知っています。最近、音楽界ではかなり有名になっているとか。まさか、家令だったとは」


 二人の衝撃発言に、わたしはまたもや驚きで固まった。予想以上に、すごかった。


「ヴィクトリー、本当なの?」


 わたしの驚きの問いかけに、彼は諦めたように目を閉じ、息をはいた。それから、ゆっくりと目を開けて、苦笑した。


「本当ですよ。ベナーレとして活動しています。お嬢様には黙ってしまっていて、申し訳ございませんでした」

「え? 何故、謝るの!? 気にしないで頂戴、皆の個人的なことを明かしてほしいと思っているわけではないわ」

「恩ある措置に感謝致します」


 ヴィクトリーが大袈裟にお礼を言ってくれるけれど、何が駄目だと思っているのだろうか、彼は。


「本当に気にしないで良いのよ? これからも、頑張ってね。わたくしもいつか、聞きにいきたいわ」


 ニッコリと笑うと、彼は嬉しそうにはい、と目を細めた。


「実は、観客を呼び込み、披露するという形式はとっていないのです」


「あら、ではどうしているの?」


「いわゆる、レコーディングという方法をとっています。最近は、富裕層に人気の録音された音を聞く、ということが逸っていますから。そう言った方々に売らせていただいているのです」


「まあ! 何それ、楽しそうね! では、わたくしも買うわ」


 その言葉に、彼はそっと困ったように首を傾げた。


「ですが、かなり高価なものなんですよ? 録音された音源自体は、それほどでもありませんが、音を流すものがかなり・・・」

「あら、気にしないで。わたくしは何と言っても、公爵令嬢ですもの。それに、婚約破棄されたときに、慰謝料を王家からたくさんいただいているの。だから、お金なら有り余っているわ」


 わたしの余裕の顔に、皆は笑ってくれた。


「でしたら、お嬢様。ぜひ、そのものはこちらのカントリーハウスに置いてくださいませ。お嬢様が定期的にこちらにいらしてくださるように」

「それは良いですね! アマンダ、発想が天才だ」

「あら、ありがと」


 ダーロンとアマンダが楽しそうに和気あいあいと盛り上がる。


 その姿を見ながら、わたしは頬をほころばせた。早速、いつ買おうかと考えながら——————。

読んでくださる皆さま、更新を待っていてくださる皆さま、ブックマークに登録してくださっている皆さま、評価をしてくださる皆さま、本当に本当にありがとうございますっ!

最近、感謝の念が溢れてきているので、この後書きで書かせてもらっている次第です笑


これからも、どうぞよろしくお願い致します。

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