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静謐の空間とひととき

少し短いです。

♢♢♢


 領地についたわたしは、まずカントリーハウスに入った。


 王都の邸(タウンハウス)よりも、だいぶ大きな邸で、玄関の扉もかなり大きく重厚なものだ。王都の邸(タウンハウス)は、二階建てだが、こちらの邸は三階建て。更に、その上に展望台がついている棟もある。かなり、広い邸だった。


 玄関をドアマンに開けてもらうと、中には使用人がずらっと並んでいた。


 先頭に、二年ほど前までタウンハウスにいたが、カントリーハウスの家令を任されるようになっていた老執事、ヴィクトリーもいた。


「ヴィクトリー! 久しぶりね!」


 彼は、しわが刻まれた顔を歪めて、微笑んだ。


「お久しぶりでございます、クラリスお嬢様」


 久しぶりに会えたことが嬉しくて、ほっと笑う。


「長旅、お疲れ様でございました。一度、サロンでお茶になさいますか?」

「ええ、そうしたいわ」

「すぐ、ご準備致します」

「よろしくね。甘いものも食べたいな」


 わたしがおねだりすると、ヴィクトリーは満面の笑みで「かしこまりました」と頷いてくれた。


 わたしの部屋に荷物が運ばれている間、旅塵を払うため、湯浴みをする。そっ、と湯につかると、半日分の旅だけでなく、他の色々な疲れでこわばっていた身体が、ほぐれていくのが分かった。心も、穏やかになる。


 湯浴みを終えると、優秀な公爵家の使用人たちは部屋の用意を終え、サロンにはお茶の用意ができていた。


 この部屋は、人を招き、社交の場としないところなので、厳密に言うとサロンではないけれど。だが、便宜上、公爵家代々の人間は、サロンと呼んでいた。


「ありがとう」

「当然のことでございます。湯浴みで少しはお疲れもとれましたでしょうし、どうぞごゆっくりお茶をなさってくださいませ」

「ありがとう、本当に」


 お礼を重ねて言うと、ヴィクトリーは心なしか嬉しそうに目元をほころばせ、下がっていった。他にいた使用人も、全員下がり、サロンの中はわたし一人になる。


 カントリーハウスのサロンはとても落ち着いており、芸術作品のような静謐さがある。それはたとえ、お茶会をここで開いたとしてもだ。


(我が家は、このサロンを気に入っている人たちばかりだから、お茶会を開くことはないけれど)


 今までも、これからも。


 公爵家の人は、この静謐さを好んだ。


 硬すぎず、柔らかすぎないとても良い具合のソファと低めのガラスのテーブル。そこに腰掛けると、正面には大きな大きなガラスが張っている。ガラス張りになっていて、そのガラスはサロンの壁一面の役割を果たしてる。このカントリーハウスは、とても大きいため、一階の階層の高さがタウンハウスの一階分よりも更に高い。そこから、美しく整えられた庭園が見えるのだ。いわゆる、中庭のようなものだろうか。


 綺麗に咲き乱れる花々が、彩り鮮やかだ。しかし、緑も溢れているこの庭園は、目に優しい。


 手前側には、小さな川を模した水が流れているところもあり、きらきらと光が反射している。


 大きなガラスから入ってくる日差しは、強すぎず、弱すぎず、程よいものだった。そういう風に設計したと聞く。天井には、小さな小窓がいくつかついており、そこから外の音が拾える。今は、少しだけ開いているからだ。音が反響し、響き合う音も素晴らしい。


「素敵ね・・・」


 うっとりと呟く。


 紅茶をいただくと、わたしの好みの味だった。添えられているのは、レモンのケーキやスコーン、チョコレートなどだった。それらをいただきながら、一人の時間を楽しみ、サロンの風景の変化を楽しんでいると、もう夕方だった。


 そろそろ人を呼んで、切り替えなければと思うものの、どうにもこの居心地の良い空間にずっといたくて、ぼんやりと過ごしてしまった。


 気づけば、少し寒さを感じる時間帯になっていた。ヴィクトリーが静かに入室してくるのが分かった。わたしは振り返らずに、微笑みをたたえる。


「ヴィクトリー。もう夕餉の時間かしら?」

「お嬢様、ええ、そろそろでございます。食欲はおありですか?」


 ヴィクトリーの優しい声に、何故か心がいっぱいになり、そっと涙が頬を伝っていくのを感じる。


 わたしは、景色を見つめたまま、ええと頷いた。


「あるわ」

「それはようございました。お疲れでしょうし、こちらでお召し上がりになりますか?」

「・・・頼めるかしら」

「かしこまりました」


 この邸の食堂は、かなり立派なものだ。肖像画があちらこちらの飾られているのは当たり前だし、何だったらわたしの肖像画も飾ってある。


 だが、わたしは肖像画が苦手だった。人の目が常にそこら中にばらまかれている気がして。だから、比較的、肖像画が少ないタウンハウスを好んだ。けれど、カントリーハウスにも自室以外に、唯一、芸術の絵しか飾られていない部屋があった。


(サロン。わたしの唯一のくつろぎの場。本当に、ここは大好きな場所よ)


 わたしはうっとりと目を細め、景色を眺め続けた。

良いな、このサロンに行ってみたい。

皆さまの憧れのサロン的なのってありますか?

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