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ざわめく心とその行方 〜夜会への道〜

いつもありがとうございます。

 それから、やってきた夜会。今日は、国王陛下のお誕生日ということもあり、下町もお祭り騒ぎのようだ。公爵領も、今回は費用を出し、お祭りのようなものを催すそうだ。


 そんな中、そわそわとしながらも、わたしは侍女に準備を手伝ってもらい、紫がかった紺色のドレスを着る。今回は、前回のドレスとは違い、少し広がった形のものだ。柔らかな生地でつくられたそれは、上品な光沢を放っており、動くたびに優雅な気持ちにさせた。


 この夜会に、ローズマリーは参加しないらしい。最近は、ローズマリーと王太子殿下のことはできるだけ忘れたくて、あまり動向を気にしないようにしていた。


「まあ、とてもお綺麗ですわ。特に、銀色のピアスが映えますわね」

「良かったわ。流石に、前回は紺色を主張しすぎてしまったから・・・。今回は、わたくしの色でもある紫がかったものにしてほしいと伝えてみたの」

「とてもお似合いです。きっと、シューティエ様も、お嬢様に見とれてしまいますね」


 嬉しそうに何気なく言ってくれた侍女の言葉が、わたしの胸につきりと刺さった。


(見とれて・・・くれるかしら?)


 そっ、と胸を押さえる。デコルテには、輝かしいダイヤモンドのネックレスがきらめいている。一応、ピアスに合うようなデザインを頼んだのだが、似合っているだろうか。


 ふわり、と広がる裾を上手くさばきながら、下までおりる。


「もうすぐしたら、きっとシューティエ様はおいでになりますよね。それまでに、最終チェックを致しますね」

「ありがとう」


 侍女やメイド数人がかりで、チェックをしてくれる。わたしは、どきどきと高鳴る胸と、不安でばくばくとする心をなだめながら、セドリックがやってくるのを待った。今日は、父母は二人で出席するらしく、もう先に出かけていった。兄は、もちろん出席しないようだ。一家門から、三人ほど出席すれば良いのだから、別に構わないと父が言っていたためだ。


「シューティエ様がいらっしゃいました」


 警備に当たってくれていた護衛騎士たちが告げる。重厚な玄関の扉が開かれ、現れたのは—————。


(え・・・! かっ、かっこいい)


 思わず、感動して口元を手で覆う。どうしよう、セドリックが格好良すぎるのだ。


 わたしの色を意識してくれたような、紺に近い紫色を基色とした衣装。髪の毛は全て撫で付けられ、固められているようだ。目が合った瞬間に、そっと微笑まれ、うっ、と呻きそうになるのをどうにか堪えた。


「お久しぶりですね。クラリス嬢、こんばんは、本日はよろしくお願いします」

「お久しぶりでございます、シューティエ様。わたくしこそ、よろしくお願い申し上げますわ」


 そう述べると、大人っぽい笑みで微笑みかけられ、自然にエスコートをしてくれる。使用人たちに、行ってくるわね、と告げてから馬車に乗り込んだ。


「会場まで、安全に連れて行ってくれ」


 御者に真剣な顔をして、告げるセドリック。いつものように、嬉しさが爆発しているというよりも、大人の余裕がある感じだった。


 実は、セドリックは、わたしよりも三歳も年上だった。大人っぽいのも当然だ。


 セドリックが前、つまりわたしのいる方に視線を戻す。わたしがじっと見つめていたのに気づいたのか、にっこりと微笑まれる。


「どうかされましたか?」

「い、いえ・・・」


 どぎまぎして、何も言葉が出ない。セドリックのいつもの雰囲気との違いが、わたしを圧倒していた。


「ああ、少し暑いですか? 窓を開けましょう、顔が赤いですよ」


 自然にそういわれ、ますます頬が火照る。ありがとう存じます・・・とか細い声でお礼と言って、開けられた窓の外を眺める。車窓から、風が流れ込んできて、身体が熱くなっているわたしには、ちょうど良い熱冷ましとなった。


「今日は、エスコートの誘いを受けてくださってありがとうございます。すごく嬉しいな」


 やはり、自然に微笑まれる。顔立ちが整っているだけに、その笑顔の破壊力が半端ないのだ。


「わたくしも・・・。お誘いいただいて、ありがとう存じます」


 わたしがお礼を言うと、ぱっと目をみはった後、頬を嬉しそうにほころばせた。


「そういえば、そろそろ私のことは名前で呼んでくれませんか?」

「え? あ・・・。セドリック様、とお呼びしてよろしいのですか?」


 わたしが驚きつつも確認してみると、セドリックはにっこりと笑った。


「もちろんです」

「分かりましたわ、セドリック様」


 初めて声に出して呼んだはずなのに、何故かしっくりと来る。


「あ、それならば、わたくしからも一つお願いをしても?」


 セドリックを上目遣いで見上げる。彼は、まいったなと呟いて笑んだ。


「何でしょう?」

「敬語、やめていただけませんか? いつも、無理なさってませんか?」

「え、私が、ですか?」

「はい」


 前に、彼が俺と自分のことを言っていたのを、思い出したのだ。恐らく、彼の口調はもう少し崩れている。セドリックは、少し考えるような仕草を見せた後、分かったと言った。


「了解した。何だか、クラリス嬢に敬語を使わないのは不思議な気分ですが・・・あ、不思議な気分だが、善処しよう」


 早速間違えたことに気づいた、セドリックにふふっと笑みをこぼす。彼のさりげない可愛らしさが溢れており、思わず微笑みがこぼれてしまうのだ。


「今日は、楽しみだな」

「はい。国王陛下のお誕生日ですもの、大変な盛況でしょうね。町は」


 私の言葉に、こっくりとセドリックが頷く。


「お祭り騒ぎを単純に、楽しみたいという人もいるだろうからな。かなり、騒ぎは大きいはずだ。その分、騎士団がみはっているから、問題は無いが」


 その言葉に、思わず驚愕に満ちた瞳を彼に向けてしまった。


「え・・・! まさか、お祭りの日までも警備をしてくださっているのですか?」

「? ああ。基本的には、パーティーに参加する予定が無いもの、参加できる資格が無いものなどに短時間のシフト制で警備してもらっている。私服警備で良いから、普通にお祭りも楽しめるだろうということで、結構ノリノリでやってくれるんだ。助かっているよ、彼らには」

「そうなのですか・・・。町の治安も守っていただいて、ありがたいことですわね」


 わたしは何の気なしにそう呟き、そろそろ着くみたいと流れる景色を眺めた。セドリックが、少し驚いたような、嬉しそうな表情をしていることに気づかないまま。

いつもは、ぶんぶんと尻尾を振っているようなセドリックですけども、今回は大人なセドリックでした。

次回は、凛々しいクラリスが見られるはずです!!

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