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ざわつく心とその行方 2

皆さま、いつもお読みいただきまして、ありがとうございます!

「可愛らしいおかたですね」


 苦い感情がこみ上げてくるのを感じながら、セドリックに微笑みかける。彼は、真面目な顔をしてこちらを見つめていた。


「? どうかなさいましたか?」


 何かあったのだろうか。


「アメリア嬢のこと、注意していただき、ありがとうございます。今までは、何の疑問も抱かなかったのですが、そのことに今恥ずかしいと感じています。クラリス嬢、本当にありがとうございます」


 真摯な態度で礼を告げてくる彼に、わたしは目を丸くした。


 人前で彼女を上から目線で叱ってしまうという失態を、呆れこそすれ、感謝されるとは思わなかったのだ。


(ああ、もう———)


 そういう素直で、実直で、真面目なところが彼を憎めない。


 何故か、心がほんわかするのを感じつつ、わたしも彼にいえと首を振った。


「わたくし、強く言い過ぎてしまって・・・。もし、今度マルダン伯爵令嬢様にお会いになるときは、わたくしが謝罪していたとお伝えしてくださいませんか? こんなことをお頼みするのは図々しいとは思うのですけれど————」


 セドリックは、ははっと笑って今度は彼が、首を振った。


「そんな、謝らなくって良いですよ。彼女にとっても良い教訓になったでしょうし、むしろありがたいと思える位に成長してもらわないと」


「そう、でしょうか」


「そうですよ」


 わたしの方をあえて向かないようにしたのか、彼は視線を遠いところにやりながら、そうですよともう一度強く言い切った。


♢♢♢


「送っていただき、ありがとう存じました。今日はとても楽しかったですわ。また、ぜひご一緒させてくださいませ」


 馬車からおろしてもらい、ヴィシェロエ邸の馬車専用の玄関先で彼に向き合う。彼は、一緒におりてくれた。


「こちらこそ、ありがとうございました。本当に一瞬のようで・・・。あっという間に時間が過ぎていってしまって、今焦っているところです」


 笑いを含んだ目つきで、お茶目に言う彼に思わず笑いがこみ上げる。


「ふふっ、ふっ、わたくしもです」


 彼もまた可笑しそうに笑い、二人して吹き出してしまった。


 ふう、と落ち着いた頃に、セドリックが話しかけてくる。


「また、デートにお誘いしても良いですか」


 先ほどまでの笑いの雰囲気とは一転し、真剣そのものの表情でわたしを見つめるセドリック。少し緊張しているのか、声が僅かに震えている。


 わたしは、柔らかい笑みを心がけてみる。


「はい。もちろんです、シューティエ様。ぜひ」


 何だか、たどたどしい返事になってしまったけれど、彼は嬉しそうに笑ってくれた。


「良かった。断られたら、どうしようかと思いました。もう一生立ち直れないだろうと」


「うふっ、それはありませんでしょう? 流石に、一生は」


 彼の大げさな物言いに、またしても笑ってしまう。今日は、お酒を飲んでいないはずなのに、自分が笑い上戸のようになっていることが、少し不思議だと感じた。


 すると、セドリックが驚くほど真剣な表情に逆戻りした。不意に見せられたその表情に、どきっとする。


「一生、ですよ。私は、クラリス嬢をそれだけ想っていますから」


 そして、告げられた内容にどきっと更に胸が高鳴る。


 どうしよう、こんなの反則だ。


「あ、ありがとう存じます・・・」


 わたしがドキドキしながらも、お礼を言うと、彼は見守るように微笑んで終わらせてくれた。


「こちらこそ、ありがとうございます。また、お誘いさせてもらいますね? ぜひって言ってくださったのに甘えて」


「は、はい。お待ちしております、から」


 なんとかそれだけ言葉を絞り出し、叩き込まれたカーテシーをしてから、わたしは駆け込むように邸に入った。


♢♢♢


「クラリス」


 オペラに連れて行ってもらってから一週間。あれから、セドリックからの音沙汰はなく、一人そわそわとしながら日々を過ごしていた。


 今日も今日とて、ざわつく心を何とか宥めながら、本を自室で呼んでいる最中である。


 すると、今日も今日とて、美しい母がやってきた。手には何やら一通の手紙を持っている。


 にやり、と笑っている母に、まさか!と思って慌てて立ち上がって母を部屋に迎え入れた。


「お母様。その、えっと、そのお手紙は・・・?」


 そわそわとして、待ちきれずに尋ねてしまった。母は、きょとんとした後、またにやっと笑った。


「あらぁ、もしかして、このお手紙をシューティエ様からのお手紙と勘違いしちゃっているのかしら? 最近浮かれているものねぇ、クラリス?」


 どうやら違ったらしいその手紙を、完全に()()()からのものだと思い込んでいた自分が恥ずかしい。顔がかあっと熱くなるのを感じながら、母を上目遣いに見る。


「あの、それで・・・一体何の御用でしょうか?」


 もうここは、母の『浮かれている』発言もスルーしてしまうが吉だ。さっさと本題に入るに限る。


 母は、にやにやとした笑いを収めずに、そっとその手紙をわたしに差し出してきた。


「それを、ヴィンセントの所へ届けて頂戴」


「お兄様のところへ?」


 わたしとローズマリーには、実は兄がいる。ヴィンセント・ヴィシェロエだ。次期ヴィシェロエ公爵としての勉強も修め、彼は今、王宮にて宰相閣下の補佐役をしている。兄の見目は相当整っているため、夜会に出席すると、必ずご令嬢方に囲まれるのが彼の常だ。そのため、トラウマになる出来事が起こってしまい、彼は最近は全く夜会に出席しなくなった。その代わりと言っては何だけれど、わたしとローズマリーが社交をしているのが現状である。


 兄、ヴィンセントの容貌は神のようだ。さらり、とストレートで美しい母譲りの金髪と、父譲りのハシバミ色の瞳。美しさの極みである。まるで、どちらも金色のようであることも相まって、物語に出てきそうな容姿をしている。


 ちなみに、ローズマリーは、金髪と紫色の瞳をしている。どちらも、母譲りであることもあり、母にそっくりだ。


 わたしは、銀髪に紫色の瞳だし、完璧に三人の色はすれ違っていた。


 さて、兄は容姿が整っているだけでなく、かなりの秀才だ。天才と呼ぶべきだろうか。だから、次期宰相にすらなれるのではないか、とすらささやかれている。恐らく、本人にそのつもりは一切ないのだろうけれど。


「ヴィンセントが忘れ物をしたみたいなのよ。悪いけれど、頼めるかしら?」


「分かりました」


 わたしが頷くと、母は安堵したように微笑み、それからぱんぱんと手を叩いた。え? と戸惑うわたしを他所に、大勢のメイドが入ってくる。


「え? どうなさったのですか?」


「クラリス、着替えてからいきなさい! それから、クッキーも持っていって頂戴ね」


「え? クッキー???」


 何を言っているのだろうか、と(はてな)を大量に頭に浮かべるわたしを見て、母はにやっと笑った。そして、爆弾発言を放った。


「ヴィンセントに忘れ物を届けるついでに、シューティエ様の訓練場を覗いていらっしゃい! もう先触れは出しておいてあげたから」


「—————はい?」


 このとき、今までで一番間抜けな顔をしてしまったのは、お察しの通りだ。

実はお兄ちゃんがいたらしい、クラリッサとローズマリー。

しかも、予想以上に完璧なお兄ちゃんだった。

作者も予想していなかったキャラクターの登場に、少し驚いております笑


いつも、お読みいただきありがとうございます。

物語はまだまだ続きますが、他にも作品を投稿しております。

宣伝を挟んでしまい、申し訳ありませんΣ(-᷅_-᷄๑)

ですが、よろしければそちらもご覧くださいませ!

(下のものは、一部の作品です)


短編 わたくし、王女をやめさせていただきます! 〜王女をやめたら、何故か護衛騎士がぐいぐい来るんですが!?〜

https://ncode.syosetu.com/n9267ks/

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