あうん
外暑かったでしょ、とケーキと共に置かれた飲み物をありがたくいただきますと喉に流し。ふーと一息ついた達哉は、先に食べ始めていた俺の横でやっとケーキに手を伸ばし、口に運ぶと
「え、りみさんやっぱり天才」
どこか呆けたように目を瞬かせ、呟いた。それをもれなく拾う俺は一言でいい。
「だろ?」
自分の事ではないけれど、自分の母の事であるからして。胸を張る。
「いえー、それほどでもー」
「それほどですよ」
「それほど」
「しっかり抹茶の味が出ていて、市販のよりも甘さ控えめなのがありがたいし、しっとりふわふわで」
賛辞を続ける達哉の言葉に、そうだそうだと追従するしかない俺。
褒められたと母は満更でなく笑うけれど、身びいきなしに素直に美味いと思う。舌になじんでそういう育ちだと言われたら、何とも言えないけれど。
俺にとっては誰にでも自慢できると、はっきり断言できる美味さである。
「もー、そんなに褒められても何も出ないけど、良かったら夕飯も食べて行って」
「えぇー。いんですか? りみさんの作るもの全部好きだから居座っちゃいますよ?」
「よろこんで! 何なら泊ってってもいいのよ」
「今日は準備してこなかったので、またの機会にさせてください」
あちゃーとやってしまった顔をする達哉に、こちらも残念そうな顔をする母。
「誰の友達だ、誰の」
「そりゃあ利久のだけど、」
「だけど、」
「「ねぇ」」
と顔を合わせる二人。息ぴったりですけど。
「親子か」
「それもいいわね」
「利久は可愛い弟で」
思わず口をついて出た俺の言葉に、二人は喜んだ。
頷く母と、笑って返す達哉に瞬時にまた言葉が口から出て行く。
「あ?(やるかこの野郎?)」
「お?(よろこんで買いますよ、その喧嘩?)」
つーかーの会話で反論あるのかと笑う達哉に、やるか、やろうかとシャツの袖をまくるも。
「ふふっ。そうね、たっちゃんの方がしっかりしてるからお兄ちゃんみたいね」
と上機嫌な母の追い風を受けた達哉が
「そつなくこなすより、ちょっと出来ない子の方が可愛いですよねぇ」
「それはそれ、これはこれでね」
「両得ですね」
「本当に」
仲良く笑う二人に、当事者は面白くないんですけどっ! という気持ちを抱いて、笑いながらキッチンへと戻って行く母の背に、思わず叫ぶ。
「一人っ子ですけど、俺! てか月で言えば俺のが早いし」
「そうだねぇ、お兄ちゃん」
「…………」
にこにことさっきまでの意見はどこか、すんなり肯定するそれもまた、言葉とは逆に兄めいた態度に感じて。
「……出来なくねぇし」
「優等生ではないけどね」
「あ?(やんのかこら?)」
「お?(受けて立つよ?)」
ひょうひょうと笑う達哉は憎らしさすら感じるけれど、コイツとも思うわけで。
「兄弟というか、熟年夫婦みたいでもあるわね」
キッチンからやり取りを聞いていた母がおかしそうに笑い、その言葉を達哉はおーと何やら乗る気で受け取った。
「それなら僕が奥さん側ですね」
「それでいいのか、それで」
「何か文句でも?」
男が女性側で良いとすんなり言う事に驚く俺の方が、おかしいみたいに尋ねてくるけれど。続けられた補足を聞けば何とも達哉らしいというか、何度目か分からないコイツという思いが湧く。
「平均寿命で言うと女性の方が長生きするし、圧倒的に女性の方が子供の頃から精神年齢高くて大人だし、それに何より縁の下の力持ちって感じが僕っぽいでしょ?」
ふふんと自己評価高く女性の好印象感を言うはいいけれど、つまり、
「つまり俺がガキっぽいって言ってる?」
「受け取り方は人それぞれだよねぇ」
否定せずに笑うその顔に、殴りたくもなる。
「あ?(表出るか、表?)」
「お?(よろこんでお相手しますとも?)」
何度目か分からない俺たちのやり取りに、本当に仲がいいわねと母は笑い。
「はい、おかわりどうぞ」
達哉が来る日を聞いてから、張り切るといった言葉通りに先ほどとは味の違うケーキと、新たにプリンやクッキーも置かれ。更には、しょっぱい物も食べたくなるでしょう? という言葉と共に、豆腐のチップスとお茶の入ったピッチャーも置かれれば。
話していた事はどこかにふっとび、二人でがっつくより道はない。
「「うっま」」
思わずとこぼしてしまう俺達の言葉に、母は嬉しそうに笑った。




