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ライラック  作者: さだ 藤
本編
5/27

あうん


 外暑かったでしょ、とケーキと共に置かれた飲み物をありがたくいただきますと喉に流し。ふーと一息ついた達哉は、先に食べ始めていた俺の横でやっとケーキに手を伸ばし、口に運ぶと


「え、りみさんやっぱり天才」


 どこか呆けたように目を瞬かせ、呟いた。それをもれなく拾う俺は一言でいい。


「だろ?」


 自分の事ではないけれど、自分の母の事であるからして。胸を張る。


「いえー、それほどでもー」

「それほどですよ」

「それほど」

「しっかり抹茶の味が出ていて、市販のよりも甘さ控えめなのがありがたいし、しっとりふわふわで」


 賛辞を続ける達哉の言葉に、そうだそうだと追従するしかない俺。

 褒められたと母は満更でなく笑うけれど、身びいきなしに素直に美味いと思う。舌になじんでそういう育ちだと言われたら、何とも言えないけれど。

 俺にとっては誰にでも自慢できると、はっきり断言できる美味さである。


「もー、そんなに褒められても何も出ないけど、良かったら夕飯も食べて行って」

「えぇー。いんですか? りみさんの作るもの全部好きだから居座っちゃいますよ?」

「よろこんで! 何なら泊ってってもいいのよ」

「今日は準備してこなかったので、またの機会にさせてください」


 あちゃーとやってしまった顔をする達哉に、こちらも残念そうな顔をする母。


「誰の友達だ、誰の」

「そりゃあ利久のだけど、」

「だけど、」


「「ねぇ」」


 と顔を合わせる二人。息ぴったりですけど。


「親子か」

「それもいいわね」

「利久は可愛い弟で」


 思わず口をついて出た俺の言葉に、二人は喜んだ。

 頷く母と、笑って返す達哉に瞬時にまた言葉が口から出て行く。


「あ?(やるかこの野郎?)」

「お?(よろこんで買いますよ、その喧嘩?)」


 つーかーの会話で反論あるのかと笑う達哉に、やるか、やろうかとシャツの袖をまくるも。


「ふふっ。そうね、たっちゃんの方がしっかりしてるからお兄ちゃんみたいね」


 と上機嫌な母の追い風を受けた達哉が


「そつなくこなすより、ちょっと出来ない子の方が可愛いですよねぇ」

「それはそれ、これはこれでね」

「両得ですね」

「本当に」


 仲良く笑う二人に、当事者は面白くないんですけどっ! という気持ちを抱いて、笑いながらキッチンへと戻って行く母の背に、思わず叫ぶ。


「一人っ子ですけど、俺! てか月で言えば俺のが早いし」

「そうだねぇ、お兄ちゃん」

「…………」


 にこにことさっきまでの意見はどこか、すんなり肯定するそれもまた、言葉とは逆に兄めいた態度に感じて。


「……出来なくねぇし」

「優等生ではないけどね」

「あ?(やんのかこら?)」

「お?(受けて立つよ?)」


 ひょうひょうと笑う達哉は憎らしさすら感じるけれど、コイツとも思うわけで。


「兄弟というか、熟年夫婦みたいでもあるわね」


 キッチンからやり取りを聞いていた母がおかしそうに笑い、その言葉を達哉はおーと何やら乗る気で受け取った。


「それなら僕が奥さん側ですね」

「それでいいのか、それで」

「何か文句でも?」


 男が女性側で良いとすんなり言う事に驚く俺の方が、おかしいみたいに尋ねてくるけれど。続けられた補足を聞けば何とも達哉らしいというか、何度目か分からないコイツという思いが湧く。


「平均寿命で言うと女性の方が長生きするし、圧倒的に女性の方が子供の頃から精神年齢高くて大人だし、それに何より縁の下の力持ちって感じが僕っぽいでしょ?」


 ふふんと自己評価高く女性の好印象感を言うはいいけれど、つまり、


「つまり俺がガキっぽいって言ってる?」

「受け取り方は人それぞれだよねぇ」


 否定せずに笑うその顔に、殴りたくもなる。


「あ?(表出るか、表?)」

「お?(よろこんでお相手しますとも?)」


 何度目か分からない俺たちのやり取りに、本当に仲がいいわねと母は笑い。


「はい、おかわりどうぞ」


 達哉が来る日を聞いてから、張り切るといった言葉通りに先ほどとは味の違うケーキと、新たにプリンやクッキーも置かれ。更には、しょっぱい物も食べたくなるでしょう? という言葉と共に、豆腐のチップスとお茶の入ったピッチャーも置かれれば。


 話していた事はどこかにふっとび、二人でがっつくより道はない。


「「うっま」」


 思わずとこぼしてしまう俺達の言葉に、母は嬉しそうに笑った。


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