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ライラック  作者: さだ 藤
本編
3/27

バナナストロベリーチョコ


 今日もいつもの時間帯の電車に乗り、いつもの定位置で視線は外に。

 可能なら昼飯用にも持ってきたい程だったと、思考は昨日へと飛ばしたまま壁に身をもたせかける。


 あの後結局興が乗ったのか、今日は作る予定じゃなかったのに、と愚痴めいて。

 その実どこか弾んだようにも聞こえた言葉をこぼすと、ちょうどバナナもいい具合だしやりますか。

 鼻歌交じりに小一時間程でぱぱっと俺が幼い頃から好きな、母の手作りシフォンケーキを作ってくれた。

 寝かせる時間があるからと食べれるのは食後にはなったけれど、その日の内に作れるとは凄いもの。


 シフォンなんて何入れても美味しいのよー、の言葉通り過去作はそのどれもが美味しくて。

 たまに失敗したーと本人はへこんでいても、味は美味しいのだからどこが失敗かわからずに。それでもリベンジだと燃える母に、また食べれるのかとむしろラッキーとしか思えなかった。


 けどそれも俺が中学に入る頃にはパートを始め、本人の気分によるところもあり偶にしか食べられなくなっていたので、昨日は久々だったのだ。


 お預けをくらい食後まで待たされたケーキは、出された直後にぺろりと食いあげ。その味と触感は、久しぶりなのも相まって格別に美味くて、ある種の物足りなさも感じてしまうほどだった。


 学校が終わるとすぐに帰ってきて、家でだらけている俺にはっぱをかけるためであっても、達哉を呼ぶために出された話題は俺にとっては渡りに船。


 風呂から上がり、水分補給と冷蔵庫にある飲みものへ手を伸ばした俺に、ケーキの出来と俺の反応でご機嫌だった母がそういえばたっちゃんは抹茶好きよね、といった言葉に即座にホワイトチョコ入れてとわがままは言わせてもらう。

 何も入ってなくても美味しいけれど、最強の組み合わせであるのは間違いない。


 「黒糖入れるのも良くない?」


 と聞いてくる母は天才だった。即座にありと返した俺も俺だけど。

 しゃべりながら飲み、手に持っていたペットボトルを冷蔵庫に戻して。

 肩にかけたタオルで片手だけがしがしと髪を拭く俺に、だから予定聞いといてよね、と告げられた事をそこで思い出し、


「あ」


 一人、揺れる電車の中で小さくとも声を出す。

 それなりに居る人々のたてる音の中、紛れて誰に咎められるような大きさでもなかったけれど。

 それでも何かしらの羞恥心めいた、感情は生まれる訳で。


 間抜けな声だったと自分を振り返りながら、学校に着いたらメッセージを飛ばそうと心に決めておく。


+++


   今度母さんが抹茶シフォン作るから来ないかって

  わっ、やった。りみさんのシフォン好きなんだよね。それも抹茶って。どんぴしゃなんですけど!

   お前さぁ、

  何?

   人の母さん名前で呼ぶか、普通。

  ソレ、いまさら?

   いや、何か改めて字面で見ると違和感。

  利久のお母さんとかそっちの方が俺、違和感。てかりみさんに怒られそう(笑


 そりゃそうだ。


 結局昼休み。

 パンを食べながら始めた達哉とのやり取りに、一人納得しながら頷いて。


   んで、いつ来れる?

  ちょい待って。


 即座についていた既読とレスポンスにそこで初めて間が生まれ。

 画面を落とした携帯を机に置いて、一人食べ進めながら返事を待つ。


 きっと友達に確認したりしているのだろうと、周りの騒がしさも相まって気分は落ちる。

 やがて鳴った携帯をつけ確認した日付は、少し遠く感じる来週の土曜。


 中学は嫌でもほぼ毎日会っていたのに、と若干不機嫌めいた感情をおぼえつつ。


 母さんに言っとく、と短く返してやり取りを終えアプリを落とし携帯の画面を伏せた。


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