そういえば、 眼鏡旋風
そういえば、
何気なく落とされた翔の声に、耳を傾ける。
「利久の周りって眼鏡率高くね?」
「周りって、友達って意味?」
突然向けられた疑問に、疑問を返す俺。
「そう。平たく言うと利久と同じ中学の奴ら」
「あー……」
そこまで言われて、翔の頭にあるだろう人物達の顔を思い浮かべる。
達哉を始めとして特進クラスの雅也と、同じクラスの田辺。
何なら翔には紹介していない他の友達の、かっちゃんと祐飛の顔も浮かんできて。そこは割愛させていただくけれど。
「まぁ、確かに」
「何だよ、その含み」
歯切れ悪く、苦い顔して応えた俺に怪訝な顔をする翔。
「中学の時、眼鏡旋風がありまして」
「眼鏡旋風?」
初めてそんな単語聞いたと言葉を繰り返した翔に、続きを聞くかと尋ねてみれば、乗り気な様子を見せられて。
「そもそもは達哉からの始まりで」
「うん?」
どこかわくわくさせた顔をしていた翔は、共通の友達である達哉の名前に目を瞬いた。
「中学三年ともなると男だって色気づくじゃん」
「まあな」
頷く翔を横目に、さてどう話していこうかと悩みながら言葉を紡いでいく。
「それでコンタクトを付け出した他のクラスの男子達に対抗してっつうか」
「頑なに眼鏡を外さない達哉が、さんざん眼鏡のいい所をプレゼンした訳よ」
クラスの男子だけを集め、自分は教壇に立って。
「漫画でよくある眼鏡を外したらイケメンシーンとか、」
「眼鏡かけてた方が知的に見えるだろうとか、」
「はたまた1dayでもない限り毎日洗わなくちゃいけない手間を説いたり、」
「そもそも何かあった時に眼鏡の方が利便性があるって話を披露して」
時には冷静に、時には熱く語って。
「あっという間にうちのクラスの男子を、眼鏡派に引き込んだわけ」
「裸眼で眼鏡いらねぇ奴も伊達眼鏡って付けたりしてな」
おーと、羅列した達哉の定説を感心しながら聞いていた翔は、不意に俺に言葉を向けてきた。
「お前もか?」
「……まぁ」
達哉の話をしていたのに俺に飛んできたソレに、思わず言いよどみながらも認める。
裸眼でいいのに伊達眼鏡をわざわざ買った勢ですよ、と。
ただし一週間でどこかに失くした事は、言いたくないから言わないでおく。
ぜったい笑うと確信が持てるから。
達哉と同じで、似たような顔して笑うのがいとも簡単に脳裏をよぎる。
幸い翔は、伊達眼鏡を買ったことを恥じているのかと勘違いしてくれているみたいなので、このまま口を噤ませてもらおう。
「要するに、ものの見事に達哉に諭された奴らは今も眼鏡って訳」
「なるほどなぁ」
「すげぇな達哉」
「すげぇだろ」
一つのクラスを簡単に手のひらで転がした達哉に、素直に称賛を送るけれど。
まさかそんな事した達哉の動機が、コンタクトを目に入れるのが怖いからとは誰にも言わない秘密だ。
俺が一週間で伊達眼鏡をなくした事と、あまりない達哉の弱点の一つは今もこうして幼馴染の固い友情で守られているのである。




