ちなみに、3
「てか、ビビッて逃げてもいいと、俺は思う」
「あ?」
「俺も逃げてるし」
「何から?」
俺の問いかけに、高野が答える間。
その隙間に、遠くから誰かを探す声が聞こえてくる。
――高野ー。
耳にした名前、対象である目の前の本人に視線を戻せば、にっと高野は笑った。
「女子から」
「モテ男」
「名誉なことに?」
誰に対してか、珍しくもはっと小ばかにしたような声で笑い、不満げで歪な顔する高野。
何で不満げかと顔をしかめれば、高野は贅沢かもしれないけどと真面目な顔で話だし
「ありがたいとは思えなくてさ。これでもホントに女子が怖いんだよ、俺」
高野を知ってからわずかな時間だけれど、高野に似合わない、見たこともない情けない顔になる。
「小学校の頃は友達とつるんで馬鹿なガキらしいやんちゃしてて、よくある女子にしらけられて怒られる男子だったのに」
「中学入ったらいきなりもてて」
「それ自体は最初喜んだけど、なんやかんやで特定の女の子と仲良くしてたらもめるもめる。こっちの気持ちなんてお構いなしで」
「そんなん続いたら怖くなった」
「んで、怖いのに気づいて逃げたし、逃げてる」
「あぁ、男友達とつるんでる方が楽だし楽しいって」
「そんで、今に至ります」
晴れやかめいて笑うけれど、それは苦笑交じりで。
「これじゃダメか?」
「いや、駄目じゃない」
人が逃げる理由なんてそれぞれだ。
周りがいくら大丈夫だと言ってきても、本人にしか分からない怖さがある。
弱っているとすら感じられる高野の問いかけに、俺はすぐに返して。
考える間もなく出ていった言葉に、感じた思いを続けて言った。
「てかお前はお前で苦労してんのな」
「そう見えなかったら幸いです」
「なら、いいけど」
「ん?」
何なら失礼な事を言う俺に、さっきまでの弱さはどこへやら。しっかりとした誇らしげな顔で高野は笑い。
そんな高野の反応を見つめ、俺は真面目に一言返し。
高野はそれに首を傾げて見返してくるから、俺は眉をよせながら視線を逸らして口を開いた。
「なんか損してる感じすんな」
何だか自分の事でもないのに、理不尽だと不満すら感じてしまう。
傷付けられた方が、頑張っていることに。
「んー……まぁ、でも」
高野は俺の言葉に驚きめいて目を見開いた後、眉を下げ、悩みながら言葉を紡ぐ。
「カッコよくね?」
その一言にこもる思いを感じて、ただその言葉だけを受け止める。
「……男っぽくはあるかも」
「だろ?」
色々飲み込んでにっと笑う高野に、俺がアレコレ言える訳がない。
許されるだろうラインは、せいぜい、
「しんどくなったら言えよ」
愚痴ぐらいは聞いてやる。
高野にとって大勢いる友達の一人でしかないけれど。
頼りなくとも逃げ込む先くらいにはなってやれると、言う事くらいだ。
腰掛けていた縁から立ち上がり、軽くケツを払ってじゃあなと言って歩き出し段々と近づく高い声にこちらから向かっていく。
そうしない内に声の持ち主が姿を見せて、ちょうどよかったと声をかけてくる女子達に高野を見なかったかと聞かれ。
こっちには来てないけれど、と言いつつ今来た場所から離れた方向に指を向け、あっちに行ってるのを見たと捏造して話せば、女子達はありがとうと笑いすぐに身を翻す。
それを見送りさぁ教室に戻るかと、俺もその場を後にした。
少しでも、高野が楽になれますようにと思いながら。




