旅立ちの日(3)
森の中を歩く音が、静かに響いていた。
落ち葉を踏むたび、小さく鈴が鳴る。
「……うん、やっぱりちょっと照れるな」
剣の柄に括り付けられた、小さな銀の鈴。
朝、リラが渡してきたものだ。
ヨルはそっと触れた。
ほんの少し、怖さが和らぐ気がした。
三年前、村が襲われたあの夜。
守れなかった悔しさ、あの時サクラに助けられた自分の無力さ。
それらを背負って、自分は今ここにいる。
王都はまだ遠い。
試験までに、強くなれるかもわからない。
でも、それでもーー。
「僕は、ちゃんと歩いてる」
誰に届くでもない小さな声が、森に吸い込まれて行く。
足元の石に足を取られ、ヨロリと身体が傾いた。
反射的に木の幹に手をつけて、バランスを取り戻す。
柄の鈴が、からんと心地のよい音を立てた。
ーー«ちっぽけな英雄»
あまりにも小さな力だった。
圧倒的な力を手にするスキルじゃない。
足りないものを少しだけ補って、それでも前に進もうとする
そんな力。
そう言われた。
「でも、それでもいい」
胸の奥に宿った思いを、ヨルはぎゅっと握りしめた。
強くなりたい。
誰かを守れるようになりたい
もう、誰かの背中にすがっているだけの自分じゃいたくない。
あの背中に、少しでも近づくために。
ヨルは小さく息を吸って、また歩き出した。
からん、と鈴の音が、森の風に紛れていく。