表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/16

旅立ちの日(2)

村を出る途中、小さな橋のたもとに、見覚えのある人影が立っていた。


「…..やっぱり来たんだ」

リラだった。幼馴染で、物心ついた時から隣にいた少女。

花の髪飾りをつけて、春の風に髪を揺らしながら、

じっとこちらを見つめている。


「見送りはいらないって言ったろ」

ヨルが言うと、リラは小さく笑った。


「うん。でも、先回りしたの」

手には包みがあった。布に丁寧に包まれたパンと干し肉、

そしてーー小さな鈴。


「旅のお守り。….あんた、昔から無茶ばっかりするから」

リラが差し出すと、夜は黙ってそれを受け取った。

鈴が軽くなる。音は小さく、それでいてどこかあたたかい。


「ありがとう」

それしか言えなかった。本当はもっと伝えるべき言葉がある気がしたのに。

けれど、それをうまく口にできるほど、自分は器用じゃない。


「….本当に行くんだね」

リラの声が少しだけ揺れる。


「うん」

「帰ってきなよ。どんな形でもいいから」

リラは、それ以上何も言わなかった。

ヨルもまた、これ以上何か言えば迷いそうで、

言葉を選ばなかった。


ふたりの間に風が吹き抜ける。

鈴がもう一度、チリンと鳴った。

まるで背中を押すように。


ヨルは静かに背を向けて歩き出す。

振り返らない。今は、まだ。


幼馴染の視線を背に受けながら、彼は村の外へと足を踏み出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ