「好きなだけ、迷っていい」
【おはなしにでてるひと】
瑞木 陽葵
「抹茶ティラミス?」って言いながら、3分間ぐらい棚の前から動けなかった。
最後には「これは戦略負け」とか呟いて、お気に入りのチーズスフレもカゴに入れた。
――“悩む時間”があるって、たぶん、すごくしあわせ。
荻野目 蓮
陽葵がデザート棚で無限ループしてる間、飲み物コーナーで水と紅茶を選び終えてた。
「今日は絶対これだな」と思ったお菓子を、自然にレジ袋に追加。
――欲しいものって、言わなくても伝わるといいな、って思うときがある。
【こんかいのおはなし】
「……え、でも抹茶って気分でも……うーん、チーズスフレ……」
お昼前のコンビニは、やけに照明がやさしかった。
そのせいか、デザートコーナーの誘惑が、
いつもより三割増しに感じた。
「陽葵、それもう三往復目」
蓮の声が、冷蔵庫の扉越しに届く。
でも私は知ってる。
彼はそれを笑ってるってことを。
「新製品に浮気して、失敗したら、
この一週間ちょっと立ち直れないやつなんだってば……」
そう言いながら、やっぱり手が伸びる。
「期間限定」の金色ラベルと、
「安定のおいしさ」の文字が並ぶカゴの中。
なんだこの戦争。
「……ええい、どっちも買ってやる!」
決意をこめてカゴを持ち上げたら、
ふいに、レジ横からひとつの小袋が差し出された。
「はい、これ。欲しそうな顔してたから」
見覚えのあるパッケージ。
大好きなコンビニ限定のラムネ菓子。
しかも今だけ、ミニぬいぐるみのオマケ付き。
「……うわ、それ……先に取られたの、なんか、悔しい」
ちょっとふくれて、でも、受け取る手は正直だった。
「ありがと。……ちゃんと、うれしい」
ぬいぐるみの袋を指でトントンって叩きながら、
隣の蓮を見上げると、彼はいつも通り、やわらかい目をしてた。
「じゃあ、そのお礼ってことでさ――
親父さん、今日取材から帰ってくるんだ。
部屋の片付け、手伝ってくれたら助かるんだけど?」
そんなこと、さらっと言えるの、
ずるいと思う。
でも、言われてちょっとドキッとしてる自分がいるのも、
もう否定できない。
「……いま、このラムネ食べ終わるくらいのタイミングで、考えとく」
「それ、たぶん“行く”ってことだよね?」
「……どうだろね」
でもほら、
今日は“デザートふたつ”という幸せな戦利品もあるし。
午後の予定は、もうちょっとだけ甘くても、いいでしょ?
【あとがき】
選べない時間って、ほんとは贅沢なのかもしれないですね。
陽葵にとっての“迷う”は、それだけ真剣ってことで。
そして蓮の“さり気なさ”は、読者にもじんわり響く魔法。
ふたりの“甘い午後”は、まだ始まったばかりです。




