表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

死神の涙

作者: 漆黒 闇

――死神。それは一般的に、死を運んでくると言われている。

姿は大きな鎌に痛んだ黒いローブを身にまとった、白骨といわれているが、定かではない。


「だそうです、蓮」


分厚い本の一文を読むと、綺麗な銀髪をかき上げ、彼方は溜息をつきながら本を閉じた。本を読むときだけにかけている、眼鏡を外しながら長くて艶のある青い髪を横に結んでいる蓮を見る。


ちゃんとイスに座って読んでいる彼方とは違い、蓮は机に座って足をぶらぶらさせながら髪を結び終わり、風船ガムを膨らませている。


「人間の言い伝えはでたらめよ。こんな言い伝えより、そう!あれよ・・・」


彼方が読んでいた本をぱらぱらめくりながら、何かを思い出すように首をかしげた。

なかなか思い出せず、机から降りて、彼方の後ろを行ったり来たりする。


「・・・もしかして、小説だったりします?」


思い出せないイライラに行き来する速度がどんどん早くなる蓮を見かねた彼方がおかしそうに首をかしげてそう言った。


「そう、それ!それの方が、真実に近いわ」


彼方が言ったのが当たり、蓮は嬉しそうに手を合わせて机の上にまた座った。

その動作が鮮やかで、どこか人離れしていることを感じさせた。でも、それは当然だ。


――彼らは、死神なのだから。


「そうでした、蓮。上から指令が来ましたよ」


嬉しそうな蓮を見ると、思い出したように彼方はそう言った。彼方の台詞に、一気に気分が下がった蓮はふて腐れたように、机から降りて歩き出した。


彼方は、予想できていたのか、分厚い本を元の場所に戻すと蓮の後を追いかけた。


「ねぇ、なんで・・・私は死神なんだろうね?」


彼方が蓮に追いつくと、蓮は下を向きながらぽつりとそう言った。その声は震えている。いつも、蓮は指令が出た後はこうして同じ台詞を言う。


いつもは、ポジティブで明るい蓮はよくこうして情緒不安定になるのが彼方には苦しかった。しかし、死神には死神の掟が在る。迂闊に同情などしてはいけない。


「それは知りません。だけど死神は、前世の罪を償うためにあるんです。貴方も、私も死神になるくらいの暗い過去があります。そうでしょう?前世の罪といっても、悪事をしたなんてものもありますし、愛しい人に先立たれて自分で命を断った、などなど沢山の理由がありますしね。特に後者、生きたくても生きれない、そんな人達を蔑ろにしていると一緒ですからね。」


いつも言う台詞を、彼方は繰り返す。もう、何万と同じ事を言ったんだろう。それだけ、自分と蓮は罪を償ってきた。どれほど心を殺して、頑張ってもまだまだ償い終わらない。


同期が1人、1人と罪を償い終わって、楽園へと旅立つ。いつになっても、彼方と蓮は楽園へと行けない。いつも楽園へ飛び立つ人をを見送るだけ。


それほどまでに、2人の罪は思いのだろうか。蓮の罪を彼方が知らないように、彼方も蓮の罪を知らない。

そうすることで、どこか境界線を守っていた。


「ねぇ、彼方。今回の指令は・・・?」


彼方が思いにふけっていると、蓮は立ち直ったのか、蓮の後ろを歩いていた彼方を振り返った。

瞳が少し、潤んでいる。しかし、それには気づかないふりをする。それが、優しさだ。


「藤田咲さん。16歳でもうすでに死亡しています。いじめによる自殺で魂がゲートを通ってない事が報告されていて、見つけ次第にゲートへ強制送還命令が出てます」


人が死んだら行き着く”ゲート”という場所がある。そこで生前の行いによって、3つの場所に振り分けられる。

普通に生きて、死んだ人は『楽園』自ら命を絶った人、軽い悪事を行った人は『死神』重い悪事を働いたものは『地獄』へとそれぞれ、ゲートにいる聖なる裁判官によって振り分けられる。


『崎原蓮。そなたは――――の罪のため『死神』へと』

『神崎彼方。―――の罪のため、そちらもおなじく『死神』だ』


何百年か前、蓮と彼方も通った道だ。死神とは、このゲートまでたどり着かなかった魂を探して、その魂を回収して、ゲートに連れて行くことだ。


しかし、魂は1ヶ月以内にゲートにたどり着かないと悪霊と化す。それを始末するのも、死神の役目だ。

極まれに、悪事を働いてのうのうと生きている奴の魂を狩りにも行く。それは、ちっとも胸が痛まない。だけど、魂を回収するというのは、その魂の記憶をすべて見てしまう事なのだ。


それが、毎回、蓮を悲しませて情緒不安にさせるのだ。彼方には魂を回収する能力が無い、その代わりに情報力や知性がある。蓮には魂の回収が出来る、その代わりに情報力や知性が無いのだ。2人でやっと1人前だが、彼方は蓮より辛くは無い。


たくさんの記憶をとどめておくことができる蓮は、いつも眠れずにうなされている事を知っている。おかげで寝なくても大丈夫な体になったようだが、それでも心配だ。いつか、蓮が壊れてしまわないかと・・・


「彼方、もう場所は目星がついてるでしょ?」

「当たり前です。多分、彼女が落ちた廃墟だと思います」


彼方が報告をすると同時に、2人の姿は消えた。


            *


『なんで・・・なんで、私なの?』


2人が廃墟に着くと、彼方の報告どうり、咲はそこで泣いていた。

周りには、マジックで書いたのだろうか、咲の悲惨な心の叫びが書きなぐられていた。彼方は、その文字を読むたびに、胸が痛んだ。


多分、もっと胸が痛むのは蓮だろう。書かれた文字よりも、記憶の方がリアルだ。咲の記憶だから、もちろん視点は咲が見ていたものだ。彼方にはその記憶は分からないけれど、蓮は分かる。だから、蓮は苦しむ。


彼方は苦しく蓮を見て、何度変わりたいと思っただろう。しかし、与えられた能力しかなく、彼方は無力な自分を恨んだ。


「苦しかったね、悲しかったね。辛かったね、もう大丈夫だよ?一緒に、新しい道を歩もう?」


記憶を見た、蓮は涙を流しながら咲を優しく包み込むように抱きしめた。咲の親は親で仕事一筋だったから優しく抱きしめられた事が無かった、咲は最初は戸惑いの表情を隠せなかった。


しかし、蓮の優しい言葉に何かが切れたように、蓮にしがみつき、声をあげて言えなかった事を言いながら泣いた。咲の体が、透けてくる。未練が薄れてきたためにゲートへと魂が向かっているのだろう。


「今度は、きっと幸せだよ。辛い事の後は幸せな事って決まってるから。泣かないで、もう大丈夫だから」


殆ど姿が見えなくなった咲に蓮はそういうと、咲の頬の涙をふき取った。咲が笑うと、とうとうすべて見えなくなってしまった。


きっと、ゲートへたどり着くだろう。蓮は、咲がいなくなって、やっと泣いた。今度は彼方が蓮を抱きしめる時だ。

咲と蓮のことを見ているだけしか出来なかった彼方は、2人を抱きしめているつもりで蓮を抱きしめた。


蓮の中には、咲の記憶もいろいろな人の記憶もある。彼方は、蓮の体越しにそのすべてを優しく抱きしめる。きっと、今頑張ってる人達に、今から頑張る人達に届くように。


「さぁ、帰ろう」

「う、うん。いつになったら終わる、のかなぁ。悲しいよ、辛いよ」


泣いている蓮を抱き上げ、彼方は廃墟を出た。廃墟の外は沢山の人が行きかっている。しかし、彼方たちの姿は人には見えない。声も聞こえない。蓮は咲の記憶をボソボソ語りながら泣きつづける。


「でね――・・・」

「はい、はい。聞いてます。だから、もう言わなくてもいいんです。心の奥にしまっておいてください。辛くなるならそのほうがいいです」


このままじゃ、蓮が泣き止まない事は経験上もう学んだ。優しく、呟き、街の角の暗闇に2人の姿は消えた。


        *


「よろしくお願いします、蓮先輩に彼方先輩」


咲を見送って数日。彼方と蓮の前に咲が現れた。ここに現れるということは・・・


「咲ちゃん、『死神』に振り分けられたのね」

「はい、でも、私が悪いんです。冷静に考えると私を支えてくれる人は沢山いました。だけど、ネガティブに考えすぎたんです。これはその結果です。私は蓮先輩のように痛みと戦いながら頑張ります」


蓮に決意を言って、咲は風のように去ってしまった。何もいえなかった彼方は眼鏡をかけて本を読んでいる。

死神は最初の時期は辛い、だけどそれを乗り越えて、先に進む。咲がくじけないように蓮は青い空に祈った。


「まだ、私達・・・お互いの事、知らない事多いよね」

「そうですね。でも、これから先、長そうですから少しずつでいいですよ」





死神。私は結構好きな響きです。死神にも様々な説があって、読むたびに心が躍ります。

今回は、恋愛要素を少しだけでがんばってみました。タイトルの『死神の涙』の意味が分かってもらえましたか?

あえて、2人の過去は出しませんでした。それは皆様で想像を膨らまして頂ければと思います。

最初は、連載の予定でしたけどスッキリまとめた方がいいなと思い短編にしました。

最後に、読んでいただいてありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ